詩ウタイの鞄の底にあった、詩屑たち
〈反響〉
独り言をいう
独り言は
壁にぶつかって
私の耳に帰る
私は独りだと
確認する
独りだ
〈スリーピング・ヴァンパイア〉
できることなら
死ぬまで眠りたい
誰にも邪魔されず
深い眠りで
眠りのなかで
いつか誰かが
眠る私の
心臓に杭を打ち込んで
眠り姫は吸血鬼になる夢を見るの?
〈空を飛びたいと願う君へ〉
空を飛びたいなんて
願うのは
地の底の美しさを
知らないからだよ
さあその高みから
地の底目指して
落ちてごらん
ほら
美しい
〈笑笑〉
世界中の
笑い声が
聞こえるよ
僕を笑い飛ばす
声が聞こえるよ
ねえ何が可笑しいの?
僕はみんなと同じで
目も耳も口も鼻も
同じについていて
どこが滑稽なの?
笑ってばかりいないで教えて
それとも僕は
笑われるために存在してるの?
笑い声がうるさくて
何もわからないよ
一人殺してみた
笑い声が一つ消えた
ああ
こうするべきだったのか
しかし
全部消すには
先が長いな
でも
僕も少し笑えた
〈極論〉
たくさんあるって
言われてる解答の中で
僕は極論二つを手にする
望んだんじゃない
それしか渡されない
苦しみ悶え生きること
死ぬこと
適当な中間は得られない
二つの極論
どちらかを選ばなきゃ
死ぬことを選べば
もう選ぶこともない
知ってはいるのだけれど
いるのだけれど
君の言うありきたりをもう少し良くするなら塩を3ミリほどひつようである3ミリを馬鹿にしてはいけない3ミリ銃弾が横にずれていたら大統領は死ぬこととなりこれは核戦争ヘ繋がるのだ放射能に汚染された蛙の卵を見よその群青の深さにはかのシャガールも驚嘆するであろうなぜならそれは聖書の一文とまったく合致するのである些か性急ではあるがこのことを宮坂さんに伝えてほしい宮坂さんはいつも学校で爪をきっていたのでよく覚えている放課後私はよく保健室で過ごしたそれは虫をとるためなのだがその虫は目を閉じると目蓋の裏にびっしりと黒い斑点となって見えるなかなかに気のいいやつらで先だってイギリスに行く際に傘を忘れたのだあのなかには妹の大事にしていた人形の薬指が入っていたので妹はとても悲しんだ無ければ無いでどうにかなるのであるがやはりこの狭い箱の中に生活していては窮屈を感じなくもない抗議文を生徒会室前に貼ったのだがあの紙をストローの替わりに持っていく人がいるのではと不安でしかたないはみ出した部分は切れば使えるが無理強いはよくない
〈電波状況がおかしいようです今すぐ電気屋へ右足に気を付けて〉
〈輝きもせず〉
皆は
外の光を浴びて
自ら輝くということを知る
だが私は
いつだって
内に閉じこもり
その暗黒に住む
「何か」を見つめる
目を凝らして
輝きもせず
〈あなたの手〉
私の体が
冷たくなっていく
その時は
最期に私に触れるのは
あなたの手がいいです
お医者さまの手じゃなくて
あなたの温かい手がいいです
それが例え
この首を絞めあげていたとしても
あなたの温かい手がいいです
〈まちがいさがし〉
あの人は
この人が嫌いで
この人は
あの人が嫌いで
あの人はこの人が嫌いな人たちで
あのグループを作りました
この人はあの人が嫌いな人たちで
このグループを作りました
あの人が言いました
「あなたはこの人が嫌いよね」
この人が言いました
「あなたはあの人が嫌いよね」
私はそんな関係が馬鹿らしいので
「どちらでもないよ」
と答えました
そしたら
そしたら
あのグループにも
このグループにも
他のみんなにも
嫌われました
まちがいさがし
まちがいさがし
私何をまちがえた?
どうして独りになっちゃうの?
まちがいさがし
まちがいさがし
このまちがいさがしは
確か小学生の時もあった
いい大人が
こんなまちがいさがし
するとはね
もう
まちがいでいいよ
独りでいいよ
〈ゴミ〉
君はゴミだ
汚いものだ
捨てられたものだ
でも君は幸せだ
君には
拾いあげてくれる者がいる
君は幸せだ
拾いあげた者は
君を大切にしてくれる
ゴキブリがわき
蛆がわき
他にも拾われてきた
わけのわからない
汚いものたちに囲まれ
周りに「撤去せよ」と怒鳴られ
君は大切にされる
君は幸せなゴミだね
〈舌打ちモーニング〉
ちっ
ちっ
ちっ
おはよう
君が目覚めたから
小鳥が舌打ち
しているよ
みんな君が嫌いだよ
バッドモーニング!
舌打ちして
ベッドから出よう
〈みんな ひとり〉
みぃんな
ひとり
だよ
すべての
かんがえが
おなじひとは
だれにも
いないから
みんなひとりだよ
せかいじゅうが
ひとりだよ
ひとりはさびしいよ
みんなさびしいよ
せかいじゅうが
さびしい
さびしい
さびしいよ
みぃんな
ひとりだよ
そうおもったら
ほっとした
なみだが
こぼれた
〈殺愛〉
君が死にたいと言うのなら
殺せるくらい
愛しています
刃が肉を貫く感覚も
首に回した指が
めり込む感覚も
鈍器が
頭蓋骨を砕く感覚も
すべて愛せます
君の今際の際の表情を
この目に焼き付け
目蓋を優しく閉じ
硬直していく体を抱きしめ
最後の口づけ
かわしましょう
愛しています
愛しています
殺せるくらい
愛しています
〈狂気の部屋〉
狂気の部屋だ!
狂気の部屋だ!
ここは
狂気の部屋だ!
本棚には
人殺しの本が並び
オーディオからは
人殺しを教唆する歌が流れ
テレビでは
人殺しのニュースがひっきりなし
狂気の部屋だ!
ここは
狂気の部屋だ!
〈首落とし〉
有ること
無きこと
醜聞語り
そしる言の葉
薄汚し
人に口の
あるのがいけぬ
首から上を
チョンと落とせ
〈仮面武道会〉
闘いぬくには
仮面が必要で
何枚も
貼り付けてるの
だけど
ふとした瞬間に
誰かがそれを
引き剥がそうと
逃げて
逃げて
仮面武道会
闘える力が
無いのなら
負けて皮膚ごと
剥がされた
仮面の下を
聴衆に笑われたくないなら
〈三時間目の教室で〉
授業中
ノートの片隅に
「死にたい」
って書いた
誰かに見られて
心配してほしいの?
ノートの片隅に
「死ね」
って書いた
誰かに見られて
「誰のことだよ」って
吊るしあげられたいの?
どっちも消しゴムで消した
消し跡を
誰かに見つけてほしいの?
〈集団恐怖〉
君は怖くないのか
あの大勢のヒトの塊を
あれだけたくさんいるんだ
一人は必ず僕を嫌いなヒトがいる
僕が消えればいいと思っている
僕を殺したいと思っている
君は怖くないのか
あの大勢のヒトの中には
僕を貶めようと企む者がいる
僕を笑おうとする者がいる
そういう事実が
君は怖くないのか
僕は怖くてたまらない
出ていってくれ
君が
僕を
嫌いで
消えればいいと思っていて
殺したいと思っていて
貶めようとしていて
笑おうとしている
かもしれない
君も所詮集団の一人だ
僕は君が怖くてたまらない
君は僕が怖くないのか
〈紅い世界〉
彼は
血と
臓物を
捏ねて世界を
創っていた
それがあまりに
美しかったので
私は彼と
共にいることを決めた
ねえ
この血肉を
あなたの世界に
使ってね
私があなたの世界になる
あなたの世界が私になる