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詩イ殺ス。  作者: 八田硝子
11/28

ウタイコロス・参

詩イ殺ス方法、ですか

わりと容易なのです


まずその人の

「感情の振れ幅」

それを知ることです


それは厭世家のほうがいい

厭世家は振れ幅が大きいので

この後の作業がやりやすい


次にその振れ幅に同調する詩を

なるべく負に大きく響く詩を

脳を侵す言葉で紡ぎ

作り上げます


そうしたら後は簡単

同調したまま

大きく力を加えるのです



切れます

ぷつりと

心が

精神が



詩イ殺セルはずがないと

おっしゃいますか


しかし現に今もあなたは

「詩イ殺ス」なんて

ありもしない言葉を

さもあることのように

おっしゃいました



あなたも当に

脳を侵されているのだ



さあどうなさいます

このまま振れば

本当に詩イ殺セルのか

自ずとわかる



さあ


どうなさいます?






【あの子にしよう】



相談しましょ

そうしましょ


あの子にしましょ

そうしましょ



みんなこれから

あの子と話しちゃダメね


絶対

仲良くしちゃダメね





決ぃーまった







【見えないの 見えないふりなの】



わかったような

口をきかないで


どうでもいいような

細かいことばっかり

あげつらって



あなたになにが

見えてるっていうの


何も見えちゃいないくせに




腕に一本傷が増えたことも



心に大きな潰瘍ができたことも







【時計の断首台】



急げや

急げ


ほら時計は

情け容赦なく

進んでいく


間に合わないよ

間に合わない


慌てて首を

穴から出せば

ほら時計は

その針振り落とし

ちょんと首をはねる


急いだって無駄さ

間に合いっこないさ

悪あがきはよしなよ




首が落ちるだけ







【薬をちょうだい】



世界が壊れる音がする



薬をちょうだい

薬を



この頭を

身体を

駆け巡る嵐を

早く鎮めて


病はふいの隙をついては

こうやって襲い掛かる



頼みの綱は

薬だけ



薬をちょうだい


嘘っぱちの「まとも」を

手に入れるための







【賢き愚者】



「死ぬ」も

「殺す」も

本当に口にしたりは

しないんだ


その方が

言葉に重みがある

という事を

知っているくらいは


私は賢い




それが聞き逃された時

どうすればいいか

わからない程度には


愚かなのだけれど







【紫煙】



あなたは全てで

私を否定する


その煙草の煙だって


「お前なんか死んでしまえ」


そういう意味なんでしょう




あなたの好きな煙草


ショート・ホープ


あなたらしいわ



握り潰してあげたい







【あたしお父さんの子じゃないかもよ】



お父さん

あなたを他人だと想うのは

とても簡単なのです


少なくともお母さんは

あたしを産んだっていう

実感があってあたしに物を言う


でもお父さんは

本当にお父さんかは

わからないでしょう?


今さらDNAでも調べる?

しないよね 理由もなく


だから きっと ずっと

お父さんがお父さんだって

本当に実感することはない



お父さんはあたしを

他人だと想っている



だからあたしも

お父さんを他人だと想う



別にそれでいいよね


面倒臭いもの







【あの頃】



あの頃はお互い

笑いあえたね


僕の人生でもきっと

あれは一番大切な宝物



君と会えなくなって

僕は痛いということを覚えた


たくさん

たくさん

覚えたんだ



また君に出会えて

僕はあの頃みたいに

笑おうとするけど


君に見せられない傷が多くて

目を合わせることすら

怯えてしまう



臆病な

臆病な



あの頃の僕はいないって

君に知られるのが

ひどく

怖い

痛い







【彗星】



手に入れたいと

願って

奪った「永遠」は

実は「悪夢」で


夜が来るたび

襲い掛かる


毛布にくるまって

二人

温め合っても


綺麗な軌跡描いて

何度でも

何度でも

襲来する




彗星みたいに







【叫ぶ神】



画面の向こう側

聞こえてきたのは

歌声なんてものじゃない

彼女の


叫び



よく通る

美しい声の

その叫びは

たちまちあたしを

虜にした


その日から

彼女はあたしの

神になった



神の叫びに同調して

あたしも叫ぶ

届かぬ想いを

見通せぬ明日を


響け

響け

病みに入る世界に



神は叫ぶだけで

誰を救うとも言わない


だけどあたしは

その叫びに

何度自分を気付かされ

何度自分を愛せただろう



画面の向こう

今日も神は

美しく

叫んでいる






【記憶の空白】



記憶が欠損していく

脳がうまく働かない

空白に飲み込まれる


思い出せない



メモをとる癖がついた

でもどこにメモをしたか

思い出せない

メモをしたこと自体

思い出せない



ついには最愛の

君の名前すら

思い出すのが困難になって



いつかは君のすべてを

忘れてしまうのかな


寂しいという気持ちから

忘れてしまえたなら








【さあ、この手に】



私は今まで

欲しいものが

手に入らなかった事がない


手に入らないものは

この世にいらぬものだと

叩き壊してきたから


ねえあなたは

手に入るのかしら?

それとも、







【ダイニング・メッセージ】



パンを買っておくこと





花に水をやっておくこと

ヒメヒオウギズイセンが枯れそう





夕飯はどうしますか





悪あがきはしないこと





人の一面を見てそれがすべてだと想わないこと





本当のことを言わないこと





負の感情があるということから目をそらさないように





出掛けてきます

帰らないかも知れません

二度と






【境界線】



「侵入者には命の保障無し」

そう書いた看板と

歪な境界線

私が自身で

書いたものだけど


踏み込もうとする人が

本当はとても怖い


命の保障無しって

言ってるじゃない

どうして入ろうとするの


いやだ

入り込まないで



触れないで



触れられたら私は

脆く崩れる


それを知っているから

虚勢を張った看板と

境界線で


自分を守るしかないの







【歪まぬのはいつも自分の心のままの世界】



変わる必要なんてない


「変わらなきゃ」


なんて幻想



誰かの意見に

自分を曲げるの?


誰かの中傷に

手を引っ込めるの?


誰かの親切めいたおせっかいに

ありがとうって笑うの?



必要ない

そんなの



それは

「歪められる」

っていうんだ



君は君の世界を

進めばいい



君の世界は

侵されない

屈伏しない

揺るがない



どんなに落としめられたって

君の世界の色を

誰かに塗り替えられる理由はない






【刻め】



切り刻もう

元がわからないくらいに

そうしたら大丈夫




牛の死体は

気持ち悪い



牛肉一切れなら平気



ハンバーグなら

何が何やら




わからないように

ごまかすように

原型をとどめないように


切り刻んでしまおうよ







【満月ワラベウタ】



夜道は怖い

急いで帰ろ


かあかあからすも

床ん中


お月さんみたいな

手ん鞠つけば


見知らぬ影が

影取りにくる


夜道は怖い

急いで帰ろ






【心臓】



もしもあなたを

想うことを

許してくださるのなら


私は体に繋がる管を

すべて切り離して

この心臓を

あなたに捧げましょう


切り離されて

尚それは

紅く蠢き

あなたへの

愛を語ることでしょう


いらなくなったら

窓から放りなげればいい


重い重いそれは

脆く砕け散るでしょう


だけど願わくば

あなたの傍に置いて

時々は触れてください


そうすれば

私は幸せ




この

心臓一つ






【覚醒】



まだ眠っている

口唇をこじ開けて

追加の薬を流し込む


扉を閉ざして

それが目醒めたら

意味なんかなさない

鍵を閉める



どうか目を醒まさないで


どうか目を醒まさないで





目が醒めたら

その手に刃物なんか持って

どこへ行こうっていうの




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