ウタイコロス・壱
言葉は生きているそうだ
言葉は魂があるそうだ
言葉は凶器になるそうだ
この詩であなたを殺セたら。
【グラデュエーション】
「第二ボタンもらうんだ」とか
「卒業しても一緒に遊ぼう」とか
泣きながら語り合ってる
同級生たちの
隙間を擦り抜けて
あたしは一番に校門を飛び出した
悲しいなんて
これっぽっちも
ああ
今日からここに来なくていいんだ!
先生たちとも
あの人たちとも
会わなくていいんだ!
あたしは三年間できなかった笑顔で
大声で叫ぶ。
「卒業おめでとう、あたし!」
【本日は晴天也】
雲一つ無い快晴
「落ちていきそうだ」
と言ったら
「吸い込まれそう、でしょ?」
と笑われた
そうかな?
「吸い込まれる」というのは
あの空に上昇していくことで
「落ちていく」とはだいぶ違う
「あ、」と
ふと足を踏み外したらあの空の果て
二度と帰れない
そんな気がするんだ
空に恐怖したことがない君にはわかるまいが
【ことば・あそび〜セカイシ〜】
世界の歴史
世界史
そのほとんどは戦争の歴史
混濁する世界の意志
世界意志
結末はきっと世界の死
世界死
死に向かう世界に捧ぐ詩
世界詩
【死ねばいいのに】
君なんか死んでしまえばいい
君さえいなかったら
こんな苦しい想いをすることはなかった
毎日会うだけでドキドキしたり
話し掛けるのもひどく困難で
呼吸も困難
挙動は不審
熱でもあるみたいに浮つく脳髄
とにかく君がいるだけで
僕はまともじゃいられなくなるんだ!
ひどい病だ、君のせいだ
君なんか死んでしまえばいい
はやくここからいなくなって
僕に平穏な生活を返して
【引き金を引くその美しい指先が好き】
目を合わすことすら
許してくれないんだね
そうだね僕は醜いから
そんなに嫌いなら
いっそ殺して
君になら
かまわないんだ
さあこの脳天めがけて
引き金を引いて
「消えろ××××」って
君が初めてかけてくれた言葉で
僕は笑って死ねる
さあこの脳天めがけて
引き金を引いて
「失せろ××××」って
君が初めて殺したのは僕だと
僕は喜んで死ねる
君がその美しい指先で殺してくれるなら
僕は最高の悦楽だって思えるんだ
【EGG】
すべてのものから離れたくて
あたしは殻に閉じこもる
だけど殻なんて
ひどく脆くて
簡単に崩れてしまうの
やめて
殻に開いた穴から
覗かないで
あたしの中を見ないで
あたしはEGG
もはや大人の身体となったというのに
この殻からでることができない
あたしはEGG
CHICKENにすらなれないの
【MAMA,THE SUPER STAR】
ママはね
あなたが小さな頃
それはそれは可愛がったわ
だって小さなあなたは
とても弱いんですもの
気に食わないことがあって
八つ当りにぶっても
ただ泣くだけ
あなたは私なしには生きられないから
何をしてもすがりついてきたわ
そんなところがとても可愛かった
大きくなって反抗的になって
問題を起こすようになったあなた
ママは先生や近所の人や警察に
たくさん頭を下げたわ
だってそうでしょう?
そうしなければ
「親が悪いから」
って言われてしまうわ
ママのせいにされちゃうわ
「ごめんなさい
こんなふうに育てた覚えは…」
そういって泣いていれば
皆はママに同情してくれる
仕方がないわよね
あなたが勝手に悪いことをしたのだもの
ママは悪くないわ
こんなことを言ったら
あなたは言うのでしょうね
「おまえなんか母親じゃない」
残念ながら
母親よ
何を幻想を抱いているの?
母親は
無償の愛で子供を愛さなければいけない
そう想っているの?
ママはね
神様じゃないの
人間
なのよ
【侵蝕】
あ
あの
わたし
どうやら
すこしずつ
こわれていく
やまいのようで
ほらげんにいまも
このあたまのなかで
きみょうなおとがする
なにかがくずれるおとが
わたしこわれてしまったの
やまいにどんどんおかされて
すくわれるみちなどみえなくて
ここにいることもがまんできない
ゆがむゆがむせかいがゆがんでいく
だれのせいだれがこんなふうにしたの
おまえだおまえさえいなければわたしは
おまえってだれけっきょくはわたしでしょ
わたしはわたしをにくみわたしをはかいする
しぬしかないしんでしまえばいいころさなきゃ
なにがただしいのかわからないだれかたすけてよ
たすけるだれがそんなかちもないにんげんのくせに
ああああああああああああああああああああああああ
【荷物の無い旅】
荷物には
大切なものだけ詰め込んだ
誰かがくれた思い出とか
日々生きていく為の糧とか
誰かと繋がっている為の通信手段とか
行く先を印した地図とか
愛する人の面影とか
「荷物の無い旅」なんて
聞こえはいいけれど
荷物が何も無ければ
のたれ死ぬだけ
わかってる
わかってたのに
どうして自ら荷物を投げ捨ててしまったのだろう
大切なものだったのに
もう荷物は谷の底
取り戻すことはできない
さあいこうか
荷物の無い旅
赤い砂漠
黒い夜空
白い月
倒れた所が終着点
【ヘレン・ケラー】
ママを殴るパパの手
髪を掴んで引き摺ったり
血が飛び散ることもあった
ママを痛め付けるその場面は
同時に私の心もひどく痛め付けた
それならいっそ
この眼球を抉りだして
隣の部屋で繰り広げられる情事
湿った音
喘ぎ声
耳障り
そんなことは余所でやって、ママ
外でパパに出会ってしまうのが怖いの?
それでもその人とそんなことしたいの?
気持ち悪い
それならいっそ
この鼓膜を突き破って
「本当のことを正直に言え」と
私に詰め寄るパパ
本当に本当のことを言ったら
「何故今まで黙っていた」と
殴られる
嘘を言ったら
「嘘をつくな」と
殴られる
何を言っても結果は同じ
それならいっそ
この舌を切り取って
ヘレン・ケラー
見えない
聞こえない
話せない
病を克服したあなたは
幸せだったの?
ヘレン・ケラー
私はあなたがうらやましい
病を克服する前のあなたが
【点線にそって丁寧にお切り下さい。】
切りてぇ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
切りてぇ
切りてぇ
切りてぇんだよ!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
手首?
腕?
脚?
そんな甘っちょろいもんじゃねぇんだよ!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
俺が切りてぇのは
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
てめぇらとの「縁」だ!
【僕は優しい人です】
僕は優しい人です
友達が重い荷物を抱えていたら
「半分持ってあげるよ」
笑顔でそう言います
僕は優しい人です
重たいなんて言いません
「平気、平気」
笑顔でそう言えます
僕は優しい人です
でも本当は
人に荷物持たせてんじゃねーよ
僕も荷物抱えてんの
わかる?
わかるよね?
見えてるよね?
ああ、僕のほうから荷物持とうかっていったさ
断れよ
「ごめんね、ありがとう」
じゃねーよ
僕は「友達」への礼儀として言ったんだ
君も礼儀として断れ
礼儀は大事だよな
君を無視して先に進んだりしたら
「あいつは友達のくせに無視した」
なんて言い振らすんだろう
そんなのは御免だ
本当のことを言ったら
偽善者だと蔑むかい?
別にいいよ
そして僕の前から消えてくれ
そしたら荷物が軽くなる
まあそんな日は来ないだろうね
僕は優しい人だから
そんなことはけして言わないし
もし君が僕は偽善者であると気付いても
そ知らぬふりで君は荷物を持たせ続けるだろうから
偽善者の僕と
利用する君
果たしてどちらが「悪」だろうね?
【君は優しい人だ】
君は優しい人だ
僕が重い荷物を抱えていたら
笑顔で半分持ってくれる
君は優しい人だ
文句一つ言わず
笑っていてくれる
だから
僕は
君が
怖い
その笑顔の底で何を考えているの?
誰にでも優しくいい人
その腹にどれだけのどす黒い想いを溜め込んでいるの?
君がそれを爆発させる日が怖い
笑顔でいる人が本当に心から笑っていると
想ってはいけない
【この想い☆あなたへ】
あなたに会うといつも
こみあげてくる想いがあるの
伝えたい
伝えられない
臆病なハートが邪魔をして
たった一言なのに
もどかしいね
だってこんな気持ち
初めてなんだもの
でも……
もう会えなくなってしまうから……
最後に聞いてください
私の
本当の想い
さあ言おう
まっすぐにあなたの目を見つめ
とびっきりの笑顔で
「てめーうざってんだよ早く死ねこのクソが!」
【シェルター】
雨音が好きだ
マシンガンの音のようだから
この壁の外で
人々が撃ち殺されていればいい
雷も好きだ
大砲を思い起こさせる
この壁の外で
家々が破壊しつくされていればいい
でも晴れ渡った日の夕焼けも好きなんだ
赤い赤い光はまるでミサイルを撃ちこまれたよう
この壁の外で
街が燃やし尽くされていればいい
僕はこの安全なシェルターの中で
世界が終わるのをわくわくしながら待っているのだ
【忘れ物】
ごめんなさい、ママ
ごめんなさい
忘れ物をしてしまった
気付かなかったのよ、ママ
私
産まれてくる時に
ママのお腹のなかに
大事な物を置いてきてしまった
怒鳴らないで、ママ
私だって後悔してる
こんな欠陥品で
産まれてしまった
そんなに責めないで、ママ
でないと
私
ママのお腹にナイフを突き立てて
忘れ物を取りにいかなくちゃ
ならなくなる
お願い、ママ
やめて
お願い
【ICU】
ここはどこなの
目を覆われて何も見えないわ
手足も拘束されているわ
ねぇちょっと
誰か答えてよ
やあ目が覚めたかい
ここは病院だよ
君は治療する必要がある
治療?冗談じゃないわ
私のどこが悪いというの
身体のどこも痛くはないわ
ああイライラする
早く離してよ
ストレスが溜まるわ
ストレスは晴らさないと
殴り倒したいわ
私のかわいいお人形
髪を引き抜いたり
ライターで肌を焙ったり
タバコを押しつけたり
煮え立った熱湯をかけたり
お風呂場に沈めたり
早くしないと
ストレスでおかしくなる
君
それは人形ではないよ
君の子供だ
君はおかしいんだよ
【絶望ケ淵】
この世の果て
世界の端っこ
絶望ケ淵のその縁で
あたしは恐る恐る下を覗き込む
ここから落ちれば
もう誰かに期待しなくていい
何かを欲することもない
病むほどに想うこともない
だけどこの脚は
震えて竦んで動けない
だからあたしは待っている
この背中を押してくれる何かを
恐怖に怯え
吐き気に襲われ
声をあげて泣きながらも
……待っている
【可燃物】
明日月曜だから
燃えるゴミの日
ゴミ箱の中のはあらかたゴミ袋に入れたからね
台所の三角コーナーの生ゴミも
冷蔵庫の4日前のおかず、もう食べないよね
これも捨てるわ
この試供品ずいぶん前から置きっぱなしだけど、いるの?いらないの?
私に聞かないでよ
あなたがいらないものは
私もいらない
そう、なら捨てるわ
それで
私は?
いるの?いらないの?
私に聞かないでよ
あなたがいらないものは
私もいらない
いらないんだったら
ちゃんとゴミ袋に入れて
明日の朝出してね
8時だから
遅れないように
忘れちゃダメよ