3.陸斗の場合
おれと空斗は、一緒に産まれて来た。
おれたちが産まれる前に、お母さんが双子の男の子に約束をしたというのだ。
その話を、おれたちは何度も聞かされてきた。
空と陸という男の子たち。
二人は頭が二つ、身体が一つで、くっ付いて産まれて来た。生後すぐに生きられないと判断された二人は、死にたくなかったので、「ひとならざるもの」の能力で、自分たちの魂と体を引き離した。
おかげで、身体はホルマリン漬けの瓶の中、魂だけが実体を持って独り歩きならぬ、二人歩きして、二人で自分たちを産めるお母さんを探し続けていた。
それを利用したのが、教授と呼ばれる男だった。そいつが空と陸を利用して、子どもを産んだ経験のある母親を攫って来させて、売りに出そうとしていた。
何度も聞いたせいかもしれないが、そのことがおれにとっては、自分のことのように感じられるときがある。ふわふわと微笑む空斗の手を引いて歩いているときにも、ずっと空斗とは一緒だったような気がしてくる。
影響されやすいだけかもしれない。
おれにそっくりのおれのお父さんは、ものすごく思い込みの激しいひとだから、それに似たのかもしれない。
「運命やって思うたんや。蜜月さんに出会った瞬間、電撃が走ったかのような衝撃があってな」
これも、何度も何度も聞いた話。
お父さんはお母さんに一目ぼれして、猛アタックをしたのだけれど、全然気付いてもらえなくて、それでも最終的に結婚できた。
「おとうちゃんは、ほんまにおかあちゃんがすきやなぁ」
大人しくにこにこと聞いているのは空斗だけで、おれは若干呆れ気味だった。
「おとうちゃんは、いまはまいにち、おかあちゃんに、あいしてるで、すきやでいうてるのに、けっこんするまではいうたことないんやて」
「言うたつもりやったんや……陸くん、厳しいこと言わんといて」
両手で顔を覆ってしまうお父ちゃんは、佳叔母さんに言わせると「空回りの達人」だったらしい。
「また、結婚前の話をしてたんですか、津さん」
お母ちゃんの方が年上だけど、うちはお母ちゃんはお父ちゃんに敬語を使う。敬っている意味もあるし、癖になっているからだという。
「蜜月さんが今日も好きで好きでたまらんから、つい惚気が出てしまうんや」
「子どもに惚気るなんておかしいですよ」
笑いながらもお母ちゃんは、嬉しそうだった。
濃い色の肌に彫りの深い顔立ち、背の高いお母ちゃんに、空斗は似ている。性格も似ているのか、朗らかでおっとりしている。
おれらが産まれる前に消えてしまった空と陸。陸の方がしっかりしていて、空はふわふわとしていたようだから、生まれ変わりがあるとしたら。おれが陸の生まれ変わりで、空斗が空の生まれ変わりなのだろう。
「おとうちゃん、ちょっとだけ、とんだらあかん?」
「飛べるか? 練習してみるか?」
5歳になってやっと羽根の生え揃った大鷲の本性を持つ空斗は、最近、飛ぶ練習をしていた。庭のウッドデッキに出て、お父ちゃんの猛禽類用のグローブを付けた腕に止まって、羽ばたくが、すぐに落ちてしまう。
それをつい、咥えて戻って来てしまうおれの本性は、お父ちゃんと同じ、漆黒の獅子だった。とはいえ、まだ小さいので、大柄で手足の太い猫と誤魔化すことができる。
「陸くん、空くん口に入れたらあかん。ぺっ、して」
「ごめん、空斗」
「ええよー」
唾液でべちゃべちゃになっても、空斗が怒ることはない。
二人で産まれて来られて、空斗と一緒にいられて幸せだと思うおれにも、いつか運命は来るのだろうか。
年上の兄貴分の沈ちゃんと和己ちゃんには、もう運命が訪れている。
お父ちゃんは28歳で運命と出会ったから、もしかすると遅いのかもしれないし、よく分からない。
ただ、お父ちゃんとお母ちゃんの子どもに生まれて来れたことは嬉しい。
「りく、かわかしたら、ブランコのろうや」
お父ちゃんが空斗をタオルで拭いてくれている。
空斗と一緒にいられることが嬉しい。
今はそれだけで十分なのかもしれない。
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