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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
後日談

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2.和己の場合

 ぼくは、両親の記憶がありません。

 気が付いたら、夜臼の家に引き取られて、佳に育てられていました。両親はぼくを売って、お金を得たのでしょうが、警察に捕まって、その後、一度も面会に行くこともなく、佳の元でぼくは育てられました。

 佳は本性がアルビノの虎の「ひとならざるもの」で、ナイチンゲールの本性を持つぼくにとっては、捕食者として恐ろしいはずなのに、初めからぼくは佳が怖くありませんでした。このひとにならば食べられても構わない。そう思っているのが分かるのか、佳の方もぼくを可愛がって大事にしてくれました。

 砂場遊びが好きだった幼少期、佳はぼくのために夜臼家の庭にお砂場を作ってくれて、そのうちにブランコもできて、アスレチックもできて、綺麗な整えられた椿と桜と楓の日本庭園だったというお庭は、完全に子どもたちの遊び場になりました。

 それを最初は嫌がっていた津さんも、陸斗くんと空斗くんが喜んで遊べるし、安全なので、二人が遊び出してから、「佳はええもん作ったなぁ」と言い出したので、手の平返しが得意なひとです。

 佳はそんなことは最初から分かっていたようでした。

 白い髪に水色の目の佳。ぼくは黒みがかったナイチンゲールなので、佳の白さはとても美しいと常々思っています。

 早生まれなので、1月が来ると8歳になりますが、まだ佳と一緒にお風呂に入っているし、一緒に眠っています。

 一人で入れないこともないのですが、子どもの水の事故は怖いからと佳が心配してくれます。


「篠田くんって、どうしてお母さんと苗字が違うの?」


 学校では、ぼくと佳の関係をよく分からない同級生に聞かれることもあります。


「佳はお母さんじゃないです」

「それなら、なんで一緒に暮らしてるの?」

「佳がぼくを育ててくれるからです」

「篠田くんって、どうして敬語なの?」


 その件に関しては、話したくないので答えませんでした。

 敬語を使う理由が、大人びてみられたいからなんて、少し恥ずかしい気がしたのです。

 ぼくと佳は親子ほど年が離れています。「ひとならざるもの」で年の差のある結婚は珍しくないので、心配はしていませんが、佳の隣りに並んで、相応だと思われる存在にぼくはなりたい。そう思って、喋り方も所作も、日々勉強し、練習しています。


「和己、茉莉さんがそろそろ一人で寝らなあかんって言うんやけど、おれ、一人で寝られるか自信ない」


 小さい頃から一緒に過ごしている、夜臼の親戚の沈は、ぼくにとっては兄弟みたいなもの。佳に三味線を習っている沈は、週に何回か、夜臼のお屋敷に保護者の茉莉さんに送られてやってきます。


「ぼくは佳と一緒に寝てますよ」

「和己もそろそろ別にって言われるかもしれへんで。そのとき、どないする?」


 佳はぼくと別々に寝たいと思っているのでしょうか。茉莉さんと佳は根本的に違う気がします。


「佳が言っていましたよ。茉莉さんは、自分のテリトリーに誰かがいるのが苦手な、縄張り意識の強いタイプだって」

「おれ、そのうち、追い出されてしまうんやろか」


 涙目になる沈に、ぼくはそんなことはないと慰めます。


「追い出すつもりなら、そもそも引き取ってないと思います。沈の部屋を用意してくれているんでしょう?」

「せやけど……一人で寝るの、こあいー!」


 泣き出してしまった沈は、茉莉さんとよく話し合う必要がありそうです。はたから見ている限り、茉莉さんは沈のことを小学校にも、夜臼のお屋敷にも送り迎えして、とても手放しそうにはありません。当事者だと見えていないのかもしれないけれど、沈はしっかりと茉莉さんの匂いを付けられて、茉莉さんの所有の証がついているのが、ぼくには分かります。

 群れの一員としてというよりも、一番親しい相手が連れて行かれないように、茉莉さんも無意識に沈に匂いを付けているのでしょう。そのせいか、沈は学校で「全然怖くないはずなのに、なんだか怖い感じがする」と女子に避けられています。

 本人は全く気付いていませんけれど。


「沈さん、お稽古は上手くいった? 指は裂けてない?」


 お迎えに来た茉莉さんは、沈の手を取って、細い指を一本一本確認します。三味線を弾いて、指の皮が破れても練習して、泣きながらも上達する沈は、将来は三味線奏者になるのかもしれません。

 ぼくは将来なにになりたいのか。

 まだその辺は曖昧ですが、佳は眠るときに毎晩、ぼくに歌を強請ります。


「和己、私のために歌ってくれ」

「良いですよ」

「和己がいないと、私は眠れない」


 茉莉さんがいないと眠れないと言っていた沈と逆で、眠りの浅い佳はぼくがいないと眠れないとたびたび口にします。

 ぼくは佳のために心安らげる歌を精一杯歌います。

 一生佳の側で歌っていられたらいい。

 ぼくは佳に出会ったときから、佳のための小鳥なのです。

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