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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
三章 私の世界と巡る命

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19.双子の出産

 多胎妊娠は切迫早産の恐れがあるため、25週目から産休を貰って、家で過ごしていた。お腹は日々大きくなるのだが、それ以上に私の身長が高くて体が大きいということもあって、双子にしてはお腹の張りが酷かったり、夜に圧迫されて寝られなかったりするようなことはなかった。

 足のむくみは酷かったが、それも津さんがお風呂上りにマッサージをしてくれて、かなり楽になった。


「哺乳瓶は幾ついるんやろか……消毒せなあかんやろ? 蜜月さんのおっぱいで足りたらええけど、二人やし、ミルクやったら俺も手伝えるし」

「気が早いです、津さん」

「いざとなって足りへんやったら大変やないか」


 赤ん坊のことに関しては必要以上に狼狽えてしまう津さんに、苦笑する。検診に通っている限りでは、検査でも特に問題はなく、双子は順調にお腹の中で育っていた。

 低体重児であることは覚悟しているが、ICUに入らなくていいように、早産にならないようにだけ祈って、毎日を過ごしていた。

 無事に出産予定日近くの37週まで来たところで、深夜に下半身に違和感を感じて、私は横で寝ている津さんを揺り起こした。


「破水したかもしれません……」

「分かった。すぐに病院に行こ」


 留守番を佳さんに頼んで、いつ来ても良いように準備していた入院セットを車に積み込んで、私は津さんの車の助手席に乗った。痛みの波が来ては、去っていく。陣痛が来ているのだと理解していたが、痛みが来るとこれまでに経験したことのない恐怖に、怖気づいてしまう。


「津さん、ちゃんと、産めるでしょうか……」

「赤さんも頑張ってる。蜜月さんも頑張ってる。俺も頑張る」

「はい」


 病院で陣痛が来ていることを告げると、間隔を聞かれた。何分毎か計っておかなければいけなかったのだが、初めてなので痛みに気を取られてすっかり忘れていた。


「帝王切開でなくても、自然分娩で産めるかもしれません」


 危なくなったら帝王切開に切り替えるということで、分娩台に上がった私の腰を、津さんが一生懸命摩ってくれる。腰も痛いし、お腹も痛いし、もうどこが痛いのかも分からないくらいとにかく痛い。

 子宮口が開いているのを確認して、いきむように言われたけれど、痛みで良きみ方など忘れてしまった。息をするのが精いっぱいで、会陰切開されたのも、切られた感触はあったが、痛みが酷くて、気にならなかった。

 その状態で二時間以上、一人目がようやく姿を現してくれた。

 津さんに似た黒髪に白い肌の男の子。大きな産声を上げているのに安心している暇もなく、もう一人を産まなければいけない。

 二人目も産んだ後には、意識が飛んでいたようだ。

 気が付けば、病室で、夜が明けていた。


「蜜月さん、気が付いたか? 赤ちゃん、二人とも2200グラム超えてるて。出産も正常期やし、問題なく退院できるやろうって」

「ふたりめは……」

「男の子やった。蜜月さんそっくりのお目目のぱっちりした男の子や」


 どちらも男の子で片方が津さんに似ていて、片方が私に似ていた。お腹は軽くなっていたので歩けるような気がしたが、まだ寝ていて良いと言われて、新生児室から赤ん坊の方が連れて来られる。濃い色の肌の男の子と、白い肌の男の子。

 目を凝らしてみると、白い肌の子がメラニズムの漆黒の獅子で、濃い肌の男の子が鷲だった。雛なので細かい種類までは分からないが、私の子どもなのだから、大鷲の可能性が高い。


「どっちも『ひとならざるもの』ですね……良かった」


 一般の人間だったとしても愛情は変わらなかったけれど、私の方が産まれたときから寿命が長いと分かっているのは、育てるうえで苦しいものがあった。二人とも『ひとならざるもの』で獣の本性を持っていることに安堵して、涙が出てしまう。


「名前はどないする?」

「津さんに任せます」

「ほんなら、獅子の方が『陸斗(りくと)』で、鷲の方が『空斗(そらと)』にしよ」

「陸斗くんと、空斗くん……私のところに来てくれてありがとう」


 イルカだった陸くんと、隼だった空くん、どちらがどちらになったのか分からないけれど、私のところに来て、生まれ変わってくれていたらいい。二人とも約束通りにちゃんと産めたのだから、約束通りに陸くんと空くんの話をしてあげなければいけない。

 もしかすると、「そんなん、しってるで、おかあちゃん」なんて喋れるようになったら言われるのかもしれないが。

 低体重児ではあったので、全身検査をしたが、何も問題はなく、健やかに産まれて来た二人。それでも、私は一週間で退院できたが、陸斗くんと空斗くんも同時に退院できるとは思っていなかった。

 準備していたベビーシートに二人を固定して、家に戻ると、和己くんが玄関で待っていた。


「みぃた、あかたん? あかたん、みてて」

「和己くん、見てくれる? こっちの私に似てる子が空斗くんで、津さんに似てる子が陸斗くんよ」

「あかたん、かーいーねー」


 津さんと私でしゃがみ込んで産着を着た小さな二人を見せると、ほっぺに手を当ててうっとりと和己くんが言ってくれる。


「蜜月さんが退院して、赤ちゃんが来るからって、朝からずっと待ってたんだよ」

「保育園は良かったんですか?」

「新しい家族が来るし、特別にお休みにした。私も今日は仕事は休みだから、手伝えることはなんでも言ってくれ」


 赤ん坊が産まれるまでの期間に、離れの棟を改装して、一家が住めるようにしていたが、足を踏み入れるのは初めてに近かった。キッチンも冷蔵庫もあって、二階建てで、一家が住むには十分の広さがある。

 かつて津さんが晶さんに師事していた時期に、晶さん一家が暮らせるようにリフォームしたのを、更に改装したので、短期間で完成していたし、暮らしやすさも問題ない。

 リビングにはベビーベッドが二つ組み立ててある。


「寝室と行き来が大変やろ? どっちにも置いてみたんや」

「買い足したんですか?」

「リビングで蜜月さんが寛いでる間に、赤さん寝てしもたら、わざわざ寝室に寝かせに行くのもしんどいし、ソファで寝かせたら転倒が怖いからな」


 毎回ベビーベッドを持ち運ばなくて済むのは助かるが、こんな贅沢をしてしまって良いのかと思ったが、これは序の口だった。

 気が早いことに、赤ちゃん用の椅子が、離れに二脚、お屋敷のリビングにも二脚置いてあったり、ミルクを作る哺乳瓶からポット、消毒のセットも、リビングに寝室にお屋敷のリビングにと置いてある。

 いくらかけたのかはもう考えないようにして、できるだけ陸斗くんと空斗くんが過ごしやすいように家を整えてくれた津さんに感謝した。


「あかたん、まんま、たべゆ?」

「まだミルクだけだな」

「かじゅ、みるく、ちたい!」

「首が座ってないから難しいかな」


 みんなが育児に協力的だと思っていたら、まさかの和己くんまでお手伝いに立候補してくれています。

 母乳はある程度出るし、そちらの方が赤ん坊は飲みやすいようだが、二人同時に母乳を上げることはできない。お腹の空いた赤ん坊に、「待っていて」と言っても無駄なので、片方は哺乳瓶でミルクになるのだが、身体が小さいせいか、なかなか飲めないようで力尽きて、泣いて眠ってしまうことも多かった。


「頑張れ、陸斗。もうちょっと飲んでから寝ような?」

「空斗くんがもうすぐ終わるから、交代しましょう」

「良かった、陸斗、おっぱい、飲めるで。頑張って起きててや」


 低体重で産まれて来たのに、なかなか体重が増えないことを心配して、津さんも付きっきりで空斗くんと陸斗くんの授乳を手伝ってくれる。哺乳瓶で飲むのが苦手な二人を、時間差でどうやって母乳を飲ませるかが、最初の課題だった。

 夜は交互に三十分ごとにオムツや授乳で泣かれてしまう。


「蜜月さん、寝てて。これは、オムツの気配や。俺だけでなんとかなる」

「すみません……お願いします……」

「体力だけはあるんや!」


 申し訳ないが、授乳だけで力尽きてしまう私は、津さんにオムツのときは託して、できるだけ睡眠をとらせてもらった。食事は毎日佳さんが冷蔵庫に作り置きしてくれているものを温めて食べる。

 一度に二人だから大変だと覚悟していたが、想像以上に大変で投げ出したくなりつつも、可愛い二人の笑顔を見ると、また頑張ろうと思える。


「和己も沈も俺の抱っこ嫌がってたから心配やったけど、陸斗も、空斗も、俺の抱っこで寝てくれるし、俺にオムツ替えさせてくれる」

「津さんの愛情が伝わってるんですよ」

「めちゃくちゃかわええ……赤さんてこんなにかわええもんなんやなぁ」


 大変さよりも赤ん坊の可愛さを見てくれる津さんにも、かなり救われていた。


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