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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
二章 私の気持ちと回る世界

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27.約束の話

 一度家族の元に戻った女性たちも、晶さん含め、警察に来てもらって、攫われた状況や、囚われていた期間などを聞き取りされていた。終わった後で、晶さんは事務所に寄ってくれた。

 朝ご飯が紫おにぎり一個だった和己くんは、お腹が空いて保育園で機嫌が悪く、沈くんも不安がって和己くんの後ろに隠れて泣いていたので、朝が慌ただしかった分、佳さんが早めにお迎えに行って、遅めのお昼ご飯は晶さんも一緒で、茉莉さんのお店で取った。

 お腹いっぱいになった和己くんはやっと満足して、事務所のキッズスペースで遊び始め、ずっと泣いていた沈くんは疲れでソファで眠っている。

 警察でも根掘り葉掘り聞かれたのだろうが、晶さんは丁寧に陸くんと空くんに攫われたときのことを説明してくれた。


「真夜中に小さい子がおるから、危ないて思うたら、『おかあさんをさがしてるの』て言われて、警察に連れて行こうかしよったら、手を引かれてな」


 連れて行かれた先は車の中。

 車のドアが晶さんの力でも開かなかったのは、その車自体が陸くんの『虚像』の能力で作られていたからかもしれない。


「幻の炎に触れて、思い込みで火傷するひとの話を聞いたことあらへん? 『虚像』ていうのは、そんなもんや。幻やけど、本物のようにようできてて、実際にあるように感じさせる能力や」


 私も乗せられた車も、連れて行かれたお屋敷も、全部幻で、実際には存在しなかった。幻を操って実物のように使う能力が『虚像』と呼ばれるものだった。

 陸くんの能力は『虚像』、空くんの能力は『千里眼』。陸くんが目をつけた相手は、空くんのお眼鏡には敵わなかった。空くんが気に入らない女性は、裏で手を引く教授が売り払うつもりで、引き取りに来たのが、ちょうど私があの『虚像』のお屋敷に連れて来られたときだったのだ。

 本当にギリギリのところで間に合ったのだと思うと、背中を冷や汗が流れる。あの時に決断して、囮になることを決めていなければ、捕えられた女性たちは教授の手に渡っていた。


「空くんが『虚像』のお屋敷を壊したときに、大津波が見えました。教授という男は、それに飲まれたんでしょう」

「蜜月さん、一人でよく逃げられたわね」

「そのことなんですけど……私、どうしても許せなくて」


 産まれたばかりの赤ん坊に善悪など分かるはずもない。母親をひたすらに求める心を利用して、肉体をホルマリン漬けにして縛った挙句に、幼子の魂を使って売り払う女性を集めようとした。

 どうしても許せなくて、私は陸くんと空くんの悲しい境遇を、どうにかしたいと傲慢にも思ってしまったのだ。


「生まれ変わりがあるのか、私には分かりません。死後の世界があるのかも。でも、ひとは忘れられたら存在が消えてしまうって思ってるから、あの子たちを覚えて置けるように約束をしたんです」

「どんな約束や?」

「もし、私のお腹に来てくれたら産むっていうのと、そうでなくても、子どもを産むことがあったら陸くんと空くんに因んだ名前を付けて二人のことを話すって……」


 大それたことを約束してしまったが、私が子どもを産む予定など全くない。津さんと付き合い始めたが、まだそういう行為には及んでいないし、まず、出生率の低い『ひとならざるもの』として、二人も子どもが産めるのか分からない。


「生まれ変わりがないにしても、あの二人には安らかに眠って欲しくて……」


 ホルマリン漬けにされて、瓶の中に閉じ込められて、魂だけ切り離して生きるなんて、残酷すぎる。あの二人は『お母さん』を探して、生まれ直して、生きたがっていた。死ぬのを怖がっていた。


「蜜月さんらしいわね」

「俺は、それが蜜月さんの出した答えやったら、それ以上の最適解はないて思うわ」


 茉莉さんと津さんに言われて、私は肩の荷が下りたようだった。ほっとしていると、晶さんと佳さんも微笑んで頷いてくれる。

 本当にあの二人は私のお腹に来てくれるのだろうか。そんな日が来るのだろうか。来るとしても、まだまだ先な気はする。

 佳さんと津さんは仕事で家に戻って、晶さんも家に帰って、私と茉莉さんが事務所に残る。キッズスペースで遊んでいた和己くんは、お眠になって、沈くんの隣りのソファで眠っていた。

 警察から他の四人の情報ももらって、纏めていると、茉莉さんに問いかけられる。


「産み直すって決めたとき、津さんのことは考えたの?」

「え……ちょっと、だけ……」


 陸くんと空くんと話すのに一生懸命で、津さんのことは頭を過ったけれど、そんなに深く考えてなかった。津さんは私を運命だと言ってくれていて、私も津さん以外にお付き合いをする相手は考えられない。

 そうなると、赤ちゃんを産むとすれば、津さんの子どもという結論に達してもおかしくはなかった。


「あ……うわー!?」

「蜜月さん、しー。沈さんも和己さんも寝てるから」

「私、大胆な発言をしちゃった気がします」

「津さんは喜んでたと思うわよ」


 茉莉さんはそう言ってくれたけれど、仕事が終わって家に帰るまで、私は気が気ではなかった。好きな相手とそういう行為に及んでもいないのに、赤ちゃん産みます宣言をした女。なんというか、痛すぎる。

 頭を抱えて玄関で唸っていると、一緒に帰って来た和己くんが、大きな声で佳さんを呼んでいた。

 リビングから佳さんが廊下に顔を出す。


「けー! けー! みぃ、あいちゃ?」

「蜜月さん、具合が悪いのか? 晩御飯は食べられそう?」

「んま! ちょーあい!」

「和己の分は用意しているよ」


 今日の当番は佳さんだったと思い出して、私は和己くんと手を繋いでリビングに行った。

 和己くんのために麻婆豆腐から辛さを抜いた肉豆腐に、卵スープ、八宝菜に炊き立ての白米の晩ご飯。仕事を終えてお風呂に入って来た津さんも食卓に着く。

 ご飯の上に肉豆腐を乗せて、和己くんは肉豆腐丼にしてもらって、大きなお口で食べさせてもらっていた。


「お帰り、蜜月さん。今日は大変やったなぁ」

「代わりに明日はお休みで良いって茉莉さんに言ってもらいました」


 ごく普通に会話を交わしているけれど、私は津さんの前で赤ちゃん産みます宣言をした女だと思うと、地面に埋まりたくなる。平常心で晩ご飯を終えて、お風呂に入って髪を乾かすと、津さんが部屋に呼んでくれた。


「蜜月さん、子どもの件なんやけどな」

「そのことは、忘れてください」

「なんでぇ? 忘れられへん。俺とのこと、考えてくれたんやろ?」

「その……まだ早すぎますよね。そんな……その、あの……」

「俺らどっちも大人やないの。俺は蜜月さんに俺の赤さん産んで欲しいて思うてる」


 はっきりと口に出されて、耳が熱くなる。こういうときは本当に赤面しても目立たない肌の色で良かったと心から思う。

 津さんも望んでくれて、私もいつかはと思っている。

 同じ気持ちだったと分かると、少し落ち着いてくる。


「いつか、ですけど」

「せやな」


 津さんの手が私の髪に差し込まれて、唇が重なる。口付けて、そのままベッドに二人とも倒れ込むようにして入って、抱き締め合う。

 口付けが深くなって、津さんの手が私のパジャマの上からおへその辺りを撫でて、そこからゆっくり上に上がって来る。遂に、津さんと初めての夜を迎えるのだろうか。

 心臓の音が聞こえないか心配でぎゅっと目を瞑っていると、津さんが私に覆いかぶさって来た。体重がかかるが、私も体格は良いので、津さんの体温も伝わってきて、心地よいくらいの重さだった。


「津さん……あの、好き、です」

「ん……」


 あれ?

 何か津さんの様子がおかしい。

 部屋にはラベンダーのアロマが焚かれて、アロマディフューザーのランプが間接照明でムードを盛り上げている。その中、津さんは健やかな寝息を立てて眠っていた。

 今日は朝から慌ただしかったし、心配もたくさんかけてしまった。ものすごく疲れていたのだろう。

 そっと津さんを体の横に寝かせると、白い額にキスをする。


「お休みなさい、津さん」


 囁いて、私も津さんにしがみ付くようにして、目を閉じた。

 翌朝、「なんでや……一昨日、蜜月さんの寝落ちに生殺しで寝られへんかったからって、今度は俺が寝落ちするか!?」と津さんが落ち込んでいたが、津さんがぐっすり眠れて疲れがとれたなら、私はそれでいいと爽やかに目覚めた。


「次、こそは!」


 気合を入れる津さんと裏腹に、焦らなくても津さんとの仲は長くゆっくり進めていきたいと思う私だった。


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