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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
二章 私の気持ちと回る世界

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23.不審な誘拐未遂

 津さんがお師匠さんに憧れて、喋り方や所作を真似ていたという話を聞いて、そのお師匠さんのことが好きだったのではないかと胸がもやもやした時期もあったが、晶さんは津さんと佳さんのお祖父様の一番下の妹だった。『ひとならざるもの』は出生率が低いので、なかなか次の子どもが生まれず、年は離れてしまったが、津さんと佳さんにとっては大叔母に当たる晶さん。

 姿も若いし色っぽいので想像もつかないが、私たちの中で一番年長の茉莉さんよりもずっと長い時間を生きているのには違いない。

 嫉妬心を抱くなんて、全くの見当違いだった。


「居合を教えるために離れに家族で住み込んでたんや。うちが厳しいから、津がようへこむやろ? そのたびにうちのひとが慰めて、料理なんかも教えてたんよ」

「あの料理の腕前は、晶さんの旦那さん直伝なんですね」

「うちもすっかり胃袋を掴まれてしもて、あのひとの料理しか食べられへんようになってしもたわ」


 惚気る晶さんは、美しく輝いている。結婚しても、子どもができても、旦那さんのことが一番に好きなのだろう。

 こんな夫婦になれたらいいのに。

 思っていたのは私だけではなかったようだ。


「お師匠さんの夫婦に憧れたから、俺の理想が高くなったんやで?」

「その分ええひと見つけられたやないの」


 笑いながら話す津さんと晶さんは同年代にしか見えない。改めて『ひとならざるもの』の時間の流れの違いを痛感してしまった。

 一か所に住んでいると擬態していても、老いないことが不審に思われるので、晶さん一家は一定期間で住む場所を変えながら生活しているらしい。


「蜜月さんは夜臼の家におったら、そんなことは心配せんでええんよ。夜臼には代々かけられた『目くらまし』があるから」


 それでも夜臼の家に当主を含め、長くひとが居着かないのは、『見合い』や血統を残すための愛のない結婚がはびこり、子どもを後継者以上のものとして見られなくなってしまったからだという。

 そうならないためにも、津さんは自分の愛した相手以外と結婚するくらいなら、夜臼の家も『ひとならざるもの』も滅びてもいいとまで思っている。それは佳さんも同感のようだった。


「私と和己はあの家にずっと住むつもりだよ。和己の大好きな砂場もできたし」

「砂場? あのお屋敷に作ったんか?」

「そうやで……こいつ、和己可愛さに、あの日本庭園に砂場作って屋根まで作ってしもたんや……」

「何か文句があるのか?」


 堂々と言い返す佳さんに、津さんもたじたじになっていて、そんな兄妹を見て晶さんは堪えきれずにお腹を抱えて笑っていた。


「うちがおった頃は、兄妹で話もせんやったのに、変わったなぁ。ええことや。日本庭園かて、住むものの使いやすいように変えていくのが一番や」


 美しい日本庭園が崩されるのを嫌がる津さんと、崩してでも和己くんの安全な遊び場を確保しようとする佳さん。二人の戦いは続くような気がするが、晶さんは佳さんの味方だった。


「うちも、うちのひとが死んでほしくなくて、こっちの世界に引きずり込んだ張本人やし……」

「晶さんの旦那さんって、隔世遺伝ですか?」

「そうやで。小さい頃から学校が一緒で、気付いてたんやけど、言うたらあかん言われてて……でも、あのひとが先に年を取って死んでまうなんて、我慢できへんかった」


 隔世遺伝の旦那さんを『ひとならざるもの』として覚醒させて、こちら側の世界に引きずり込んだという晶さん。ロマンチストで情熱的なのは、津さんと似ているかもしれない。

 楽しく話して、沈くんと和己くんがお腹もいっぱいになって眠くなった頃に、晶さんは気になっていたことというのを話してくれた。


「うち、色んな場所を転々としとるやろ? 色んな所に、『ひとならざるもの』のママ友がおるんやけど、そのママ友が相次いで、攫われかけたんよ」


 車に押し込まれる寸前で逃げ出して無事だったというが、二組ほど同じ事件が別の場所で起きていることに、晶さんは不穏な気配を覚えたのだという。


「茉莉さんの事務所の出番やないかと思って、お願いできへん?」

「調べてみるわ」


 志築明人が捕まった時点で、日本の組織はバラバラになりかけていたので、それほど警戒をしていなかった。吐いた情報から捕まった構成員もかなりいる。それが、再び結集して狙い始めたのが、子どものいる女性だとすれば、全国で同様の事件が何件も起きているかもしれない。


「子どもがいるっていうのが今回のキーポイントかもしれないわね」

「経産婦ってことやろ? うちもそう思たんや。子どもを一度産んでる『ひとならざるもの』は、産みの力があるて思えるもんなぁ」


 出生率の低い『ひとならざるもの』の中には、妊娠を非常にしにくい体質の女性も少なくない。そのため、確実に子どもを手早く手に入れようとすれば、出産を経験した女性に焦点が当たるのだろう。


「晶さんは大丈夫かしら?」

「うちは、攫われかけても、蹴散らして逃げるわ」


 力強く答える晶さんだが、催涙スプレーで津さんが動けなくなったように、何が起きるか分からない。


「くれぐれも気を付けてくださいね」


 手を握って、津さんが先に晶さんをバイクを置いている夜臼邸まで送って、その間に私が茉莉さんがお店を片付ける手伝いをするつもりだったが、店の扉を開けて津さんと晶さんを見送っていると、小さな人影が見えた。

 5歳くらいの可愛いお揃いの服を着た双子の男の子が、電信柱の陰から、晶さんを見ている。


「ママぁ?」

「こんどこそ、おかあさんかもしれない」

「ママ……ママ……」


 片方の子が、もう片方の子に話しかけている。


「どうしたの? お母さんを探してるの? 迷子?」


 こんな時間に5歳くらいの小さな子どもが出歩いているなんて心配で、声をかけると、「ママ」と繰り返していた子が、ぱっとこちらを向いた。


「ママ! ママ!」

「ちがうって。そのひとじゃないよ」

「マァマ!」

「ちがうよ、そら。……おねえさん、こどもはいますか?」

「え? い、いないけど」

「ほら、ちがうだろ」

「ママぁ!」


 必死に私の着物の裾を握り締める、(そら)と呼ばれた子を抱き上げると、無邪気ににっこりと笑って抱き付いてくる。年齢よりも幼いのかもしれない。肌の色が明らかに違う私を、「ママ」というあたり、かなり違和感があった。


「だめ、そら。きにいったのかもしれないけど、そのひとじゃない」

「ママ! ママー!」

「ごめんなさい、そら、まちがえちゃってるみたい」

「いいのよ。お母さん、一緒に探しましょうか?」

「ううん、だいじょうぶ。もうおむかえがくるから」


 ありがとうと手を振られて、私は空と呼ばれた男の子を降ろすしかなかった。もう一人の子に手を引かれて、名残惜しそうに私を振り返って、空という名前の男の子は連れて行かれる。

 片方は賢そうで、もう片方は幼い双子。

 夜の街に消えて行った二人は、私の記憶に強く残った。

 茉莉さんの店の片付けを手伝おうとしたら、別の仕事を任される。


「寝てる沈さんを見ていてくれる?」

「茉莉さんが見ていて、私が片付けますよ」

「せっかくのお着物が汚れたら大変だわ」


 着飾って来たのがあだになってしまった。

 寝ている沈くんは、「うー……まー……」と魘されている。茉莉さんを呼ぶときに、沈くんは「まー」と拙く呼ぶ。


「まーは、ママなんですかね、茉莉さん、なんですかね?」

「どちらでも構わないわよ」

「茉莉さんは、沈くんに特別甘いような気がします。佳さんと和己くんみたいなことはないんですか?」


 片付けている邪魔にならないようにと思いながらも、声をかけてしまうと、茉莉さんが困ったように眉を下げる。


「不思議なのよね……弟の菫ですら、私は自分の領域に入って来られるのが好きではなかったの。縄張り意識が高すぎて。それなのに、沈さんは平気で、沈さんは私がいないと生きていけないのではないかと思ってしまう」


 自分がいないと生きていけないかもしれない沈くん。

 その事実が、なぜか嬉しく感じるという茉莉さんに、私は目を輝かせた。


「運命、なんじゃ?」

「津さんと付き合いだして、染まっちゃったのかしら? そんなに簡単には信じないけれど……でも、沈さんが大きくなって……まぁ、そのときにしか分からないわよね」


 言葉を濁す茉莉さんや嫌そうではない。

 頑張れ沈くん!

 応援せずにはいられない私だった。

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