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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
二章 私の気持ちと回る世界

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18.平穏な日常

 事件が起きれば慌ただしく動き出すけれど、それまでは事務所は待ちの態勢。志築明人が吐いた情報から、組織の人員の拠点は警察が捕えに行ったが、ほとんどもぬけの殻だったという。

 これから大きな事件が起きるかもしれないが、今は束の間の平和を味わう時間なのかもしれない。

 というわけで、私は津さんのお部屋にお邪魔しています。

 部屋着はさすがに洋服だけれど、出かけるときは大体和服で、居合道場では道着を着ている津さん。イメージから部屋も純和風なのかと思っていたら、以外にもごく普通のフローリングの部屋だった。


「昔は和室やったんやけど、子どもがおったら使いにくいからって、改装したんや」


 着物を入れる和箪笥はあるが、本棚やデスクは木で、デスクの上にはパソコンや事務用品が普通に乗っている。テレビはリビングで見るからかないけれど、オーディオ機器は充実している気がする。

 普通の一人部屋で、座るところがないので、私が椅子に座らせてもらって、津さんはベッドに座っていた。


「これを、買おうかと思うてるんやけど」

「どれですか?」


 パソコン画面を開いて見せてくれたのは、籐を編んだベッドで、二つに分けるとソファにもなる代物だった。


「ベッド、あるじゃないですか」

「いや……このベッド、夏場は涼しいし、布団を外せばソファにもなるし……ダブルサイズ、なんやけど」

「ダブルサイズ……へぇ、広いですね」

「ダブルサイズなんやけど!」


 妙に強調してくる津さんに、私はようやく気付いた。

 これって、もしかして。


「わ、たしと、寝る、って、こと、ですか!?」

「あ、あかんことないやろ? 俺も蜜月さんも大人やし、好き同士なんやし。いや、今すぐやないで! そんなにがっついたらあかんて分かってる。でも、俺も男やし、そのうち、な?」

「は、はい。大丈夫です!」


 なんだかとても間抜けな返事をしてしまった気がする。

 恋人同士になったけれど、実は津さんと抱き締め合っただけで、私たちはまだキスもしていない。そんな状態だから、その先のことがすぐには浮かばなかった。


「好きなひとと……ちょっと、恥ずかしいです」

「俺も、めっちゃ恥ずかしいけど、直接的に言わへんと蜜月さん気付いてくれんかと思うて」

「は、はい。もちろん、津さんと、その、そういう……なんて言えばいいのか分からないけど、覚悟はできてます」

「覚悟!?」


 あれ?

 何か言葉の選択を間違ったようです。

 「ダブルベッドを買おうと思ってる」で察して欲しかった津さんと、全く気付かなかった私。

 やはりロマンチックとは程遠い。

 それでも、津さんは強引ではないし、私の意思をどこまでも尊重してくれるので、嫌ではない。


「使ってない離れの部屋があるんやけど、蜜月さんが嫌やなかったら、リフォームして、二人で暮らせるようにしたいんやけどな」

「二人で……」


 朝起きてから眠るまで、一日中この美形が視界にある。そんな生活をしていたら、私の美的感覚、どうにかなってしまうんじゃないだろうか。

 お付き合いは始まったばかりだけれど、既に同棲状態で、部屋は別々で一緒に寝たりはしていないけれど、食事は共にしている。それが部屋も一緒になってしまったら、まるで夫婦みたいだ。

 いやいやいや、まだ早い。

 津さんは『ひとならざるもの』としては非常に若い部類だと聞いているし、親戚が結婚をせっついているのを嫌がっている様子だ。まだ結婚をしないで、お付き合いという状態が好ましい気がする。私の心臓のためにも。

 色々考えていると、津さんが立ち上がった。ベッドとデスクの距離はそんなに離れていない。急に津さんが近くなった気がして心臓が跳ねる私に、津さんが手招きする。


「ここ、座って?」

「はい?」

「人間の俺も、膝枕してもろてええ?」


 その綺麗な顔で甘えるのはずるいです。

 膝枕くらいならしても良い気になってしまいます。

 ベッドの端に座って、津さんが太ももの上に頭を置くのをじっとして待っている。柔らかな黒髪に触れたくて、そっと撫でると、津さんが目を細めた。

 そうだった、獅子の津さんを膝枕していたというのは、中身は同じなのだから、これと同じような状態を茉莉さんと佳さんに見せてしまったことになる。

 恥ずかしくて茉莉さんと佳さんに顔を見せられないような気になるが、沈くんと和己くん可愛さに、やはり顔は見せてしまうのだろう。


「今日の晩御飯、なんにしよか?」

「炊き込みご飯が食べたいですね。後、秋刀魚の塩焼きに、豚汁!」

「炊き込みご飯はかしわにしよか」


 穏やかな昼下がり。

 恋人同士の会話とはこんなものかと、変わらない日常に浸っていた。

 茉莉さんから連絡が入ったのは、仕事前に早めの晩御飯を食べようと、津さんと準備をしている最中だった。事件かと身構えたが、そうではなかった。


「『今日の仕事はお休みで、飲みに来ない?』って茉莉さんから連絡があったんですが」

「俺の携帯にもメッセージが入っとる。『デートしにおいでなさい』って」


 これから何が起きるか分からないし、めでたいことは祝えるときに祝っておこうという茉莉さんの心遣いだった。

 両想いになるまで茉莉さんなりに、心配もしてくれたし、応援もしてくれた。そして、両想いになったらお祝いまでしてくれるなんて、なんて気遣いのできるひとなのだろう。

 あれだけの美人で、細やかな心遣いのできるひとで、どうして志築明人のような妙な男性に好かれるのか、茉莉さんも不運だ。

 夕食を食べ終えて、店に津さんと歩いていく。徒歩圏内に仕事場があるのはありがたい。


「いらっしゃい。今日は貸し切りよ」

「んま! んま!」

「和己、食べ過ぎないようにするんだよ」


 佳さんも呼ばれていたようで、先に席についていた和己くんが、自分が食べられそうな料理を手づかみでもぐもぐと食べている。沈くんは蝙蝠の姿で、茉莉さんの胸に張り付いていた。


「沈くん、何かあったんですか?」

「保育園で、トイレトレーニングに失敗して、落ち込んでるみたいなの」


 2歳児は2歳児なりに落ち込むことがあるようだ。

 あまり普段はお酒を飲まない津さんも、今日はスパークリングワインを頼んでいた。


「蜜月さん、これ、甘いからきっと好きやと思う」

「私に?」

「スパークリングワインは開けたら炭酸が抜けちゃうから、その日のうちに飲み切っちゃった方がいいのよ」


 細いシャンパングラスにスパークリングワインを注いでもらって、和己くんはジュースをグラスで、佳さんはノンアルコールのカクテルを頼んで、みんなで乾杯をした。


「蜜月さん、ずっとうちにいてくれるって」

「みぃ?」

「そうだよ、出て行かないって」

「じゃんばーい!」


 佳さんの報告を聞いて、和己くんが両手を上げて万歳をして喜ぶ。最初は怖がられていたのに、すっかりと懐かれて、こんなにも一緒にいることを喜んでもらえて、私も嬉しくて和己くんの小さな手を握った。


「これからもよろしくね」

「ね?」


 首を傾げる動作が相変わらず可愛い。

 始まりは、沈くんと和己くんの競売からだった。二人が私と津さんの縁を繋いでくれたようなものだ。


「私からも、嬉しい報告をしてもいいかな?」


 佳さんの言葉に、一同が佳さんに視線を向ける。


「和己の種類が分かったんだ。ナイチンゲールらしい」

「ナイチンゲール!? 歌が上手っていう小鳥ですか?」

「そうだよ、和己は今もお歌がとても上手だろう」


 小鳥の中でも、雀や文鳥、インコなどではなく、和己くんはナイチンゲールだった。1歳なのに良く歌う子どもだと思っていたけれど、本性がナイチンゲールで、性別が雄ならば、求愛の歌も歌うだろう。

 歌うたびに、一生懸命佳さんに「好き」と伝えているのであれば、それほど可愛い告白はない。


「沈はもうちょっと大きくなったら、道場に通わせるからな」

「やぁや……こあいー……」

「夜臼の教育方針には口を出せないけれど、あまり小さいうちから厳しくしないでね?」


 胸に張り付く沈くんは、津さんに話しかけられただけで、もう泣きそうになっている。沈くんも津さんのようなカッコいい男のひとになるのだろうか。

 その暁に、誰を愛するのだろう。

 茉莉さんの男運は今は絶不調だが、沈くんがいつかひっくり返してくれるのではないかと2歳児に期待をかける私だった。


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