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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
二章 私の気持ちと回る世界

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3.輝く希望

 屋上の柵に飛び上がって止まって、嘴で念入りに羽を繕っていく。練習とばかりに大きく羽を広げて、鉤爪は柵を掴んだままで羽ばたきを一回。飛ぶ準備は整った。

 全く縁がなかったので無知だったが、ペントハウスというのは、マンションの最上階に作られる特別な高級仕様の部屋らしい。そこを貸し切って『お見合い』は行われることが多く、その部屋にはSP、いわゆる護衛が付いている。


『危険だから、見つけても蜜月さんだけで入らないでね』

「はい、場所を伝えるだけにします」


 地上からは津さんと佳さんの漆黒の獅子とアルビノの虎の二匹が、匂いで失踪した男性を追っている。どちらが先に見つけられるかだ。

 消えた場所から追いかける津さんと佳さんと対照的に、私はそこを中心とした直径5キロくらいの範囲を外側から見ていく。内側と外側、その方が効率がいいというのが茉莉さんの案だった。

 羽ばたきは最初だけで、後は風に乗って大きな翼を広げて、ゆっくりと飛んでいく。最初に街の外れまで来て、そこから旋回するようにして、失踪した男性が最後に連絡が取れた場所……仕事の帰りの駅までを街を見下ろしながら確認して行く。

 途中ビルの屋上で休みつつ、飛んで少し経った頃に、私の目にカーテンの完全に閉められた、広いベランダのあるマンションの最上階の部屋が目に留まった。

 気になったのは、透けて見える、その中にいるひとたちだ。訓練である程度『ひとならざるもの』の正体を見破れるようになっていた私の目に飛び込んできたのは、熊、だったのだ。


「熊が、います。部屋の前に立ってる……」

『部屋の中は見えへんか?』

「部屋の中は……霞がかかってるみたいで見えません」


 確か、私の『千里眼』の能力は、屋根や壁が関係なく、中身が透けるように見えるはずだった。それなのに、その部屋は見えずに、部屋の前に立っている熊が一匹と犬が数匹見えた。


『「結界」の能力者かもしれないね。蜜月さん、気が付かれないように、少し離れた場所で待機して』

「分かりました」


 佳さんの指示に従って、私は近くの商業ビルの屋上に降りて、物陰に隠れて人間の姿に戻った。人間の姿に戻れば、ビルのエスカレーターで一階まで降りられて、マンションの入り口近くまでは行ける。

 狩りをするときに、獅子や虎はかなりの速度で走るというが、ぎりぎりまで物陰に隠れたり、周囲からじりじりと近付いたりして、最大速度を出せるのは一瞬だけと動物番組で見たことがある。

 軽く走って合流した津さんと佳さんは、匂いで近くまで来ていたようだった。


「蜜月さん、俺の上に乗れるか?」

「え!? 私、重いですよ!?」

「大鷲の姿で、や」


 鉤爪で津さんを傷付けないか心配だったが、(たてがみ)のある場所に止まると、津さんと佳さんが獅子と虎の姿のままで入って行く。コンシェルジュは普通の人間なのか、津さんと佳さんの姿が見えていなかった。

 前脚でボタンを押して、エレベーターに乗る佳さんと津さんの姿は、美しい猫科の大型獣なのに、動作が可愛くてそんな事態ではないのににやけそうになってしまう。

 大鷲がにやけるってどうやるんだろうと思うけれど、にやけそうな私がいるのだから仕方がない。

 最上階まで上がると、エレベーターが上がって来たことに警戒した黒服の護衛たちが、仁王立ちで待っていた。私たちの姿を見ると、本性の熊とドーベルマンに変化する。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」

「この御人を、見ぃへんやったやろか?」


 人間の姿に戻った津さんの隣りで、私も人間の姿に戻る。携帯電話の写真を見せると、熊の纏う雰囲気が殺気だったのが伝わって来た。


「邪魔ものだ! かかれ!」


 熊の命令で飛びかかって来るドーベルマンを、虎の姿の佳さんが噛み付いて次々と投げ飛ばしていく。投げ飛ばされてもしつこく佳さんに飛びかかるドーベルマンを他所に、熊は後ろの扉を塞ぐように大きな体を仁王立ちにさせていた。


「あんさん、お金で命は買われへんて、知ってはるやろ?」

「それは、こっちのセリフだ」


 大きな熊の手が津さんに振りかざされる。私を庇いつつも、津さんはそれを避けた。

 熊と獅子ってどっちが強いんだろう。

 獅子の姿になれば倒せるかもしれないと思ってから、私は津さんが雄の獅子であることに気付く。獅子はほとんどが雄を頂点とする群れを作って、雌が狩りをして、雄は縄張り争いしかしない。


「津さん、大丈夫ですか?」

「蜜月さん、ちょっと避けててくれるか?」

「でも……」


 話している間も、熊の手は津さんと私を狙って来る。津さんが庇って避けさせてくれなければ、武術など全く縁のない私は、どうすることもできない。


「津さん、私、蹴りますから」

「分かった、その後は任せてくれるか?」


 小さく言葉を交わして、私は大鷲の姿になった。どれだけ熊が立ち上がった姿が大きいとしても、大鷲は飛べるのだ。飛び上がっての蹴りは容赦なく顔面に炸裂する。

 追撃されないように羽ばたいて逃げた私の視界の端に、光るものが映った。腰の辺りの存在しない刀を一気に抜き払い、津さんが熊をばっさりと袈裟懸けに切り付ける。

 血は出なかったがダメージはあったのだろう、熊の巨体がぐらりとよろめいて倒れた。


「津、こっちも片付いたぞ」

「佳、蜜月さんを」

「分かった」


 部屋に入ってはいけないと、しつこいドーベルマンを全部投げ飛ばして気絶させて、人間の姿に戻った佳さんが、私の腕を取った。何かあれば走り込んでしまいそうな私を、止めてくれるつもりなのだろう。

 人間の姿に戻って倒れている熊の懐から鍵を探し出して、津さんが扉を開けた。

 むわりと広がる異様な匂い。


「蜜月さん、吸ってはいけない」


 口と鼻を押さえるように指示されて、私は着ていたカーディガンの袖で口と鼻を押さえた。


「興奮剤が使われとるな……中に入るのは危険や」


 興奮剤の効果がどんなものか分からないが、性的に興奮するものだったらここには妙齢の津さんと佳さんがいる。二人は兄妹で変な雰囲気になってしまったら困るだろう。


「だ、男性にしか効かないとか、ないんですか?」

「女性に性欲がないわけやないやろ」

「そ、そそそ、そうですけど」


 美形の口から、性欲とか出て来ると、ちょっと心臓に悪いです。

 かっこいい津さんにも性欲とかあるんだ。いや、あるよね。


『その場で待っていて』


 なんとなく気まずい空気を壊す助け舟を出したのは、電話越しの茉莉さんの声だった。

 耳を澄ませば、部屋の中の会話が聞こえて来る。


「もう少しで落ちそうだったのに、邪魔が入りそうね」

「落ちる……訳がない……」

「良い思いするだけだから。中には入って来れなさそうよ。ほら、聞かせてあげましょうよ?」

「さわる、な……」


 必死に抵抗している男性の声と、恍惚として艶めかしい女性の声。

 部屋に入れば、私たちも薬の影響を受けてしまうかもしれない。

 この状況を、茉莉さんはどうやって助け出そうと考えているのだろう。


「そこから、出て来られませんか?」

「拘束、されていて……頭も、くらくらして……」


 部屋の中に声をかけるが、男性が自ら脱出するのは難しいようだ。

 部屋の扉は開いている。充満している薬も、そのうちに薄れるだろうが、それまでの時間に間違いがあってはいけないし、薬は廊下に流れ出ているから、私たちも長時間ここにいてはいけない気がする。


「津さん、『嗅覚』!?」

「鈍らせてるから、酷くはないけど……長時間はきついかな」

「津さんを、避難させなきゃ!」

「蜜月さんだけ残すわけにはいかへんし、何より、目の前まで来てるのに、助けられへんのが」

「私が入る!」

「待って、佳さん」


 潔く扉の中に入ろうとした佳さんを止めたのは、茉莉さんの声だった。茉莉さんは、手に大きな猫を抱いている。

 ラグドール。大型の猫で、気性は大人しいと言われている種類。


「一緒に帰ろう? 迎えに来たよ?」


 ラグドールの姿になった依頼者は、茉莉さんの手からするりと降りて、躊躇わず部屋の中に入って行った。ヒステリックな女性の声が聞こえるが、彼女は怯まない。


「邪魔をしないで! 彼の両親に頼まれているのよ!」

「帰ろう。頑張って、耐えてくれてありがとう」

「迎えに来てくれたのか……」


 待っていると出てきたのは、ラグドールとジャーマンシェパードが寄り添って、その後で、下着姿の女性が激高した様子で追いかけて来ていた。


「私の商売の邪魔をしないで!」

「あんさんは、お呼びやないんや」


 よろめくジャーマンシェパードをラグドールが支えてエレベーターに乗るのに、茉莉さんと佳さんと津さんと私も、一緒に乗った。限界だったのか、ジャーマンシェパードはエレベーターの中で倒れてしまったが、人間の姿に戻った依頼者の女性がしっかりと支えていた。


「依頼者と彼を送って行くわ。和己さんと沈さんを藪坂さんに預けて来たから、迎えに行ってあげて」


 茉莉さんが車を出して依頼者と気絶したジャーマンシェパードの彼を送って行く。

 愛のない『お見合い』で子どもを作らせようとする『ひとならざるもの』もいるが、あの依頼者の彼女は恋人を信じて部屋の中に入った。

 私は津さんが部屋の中にいたら、助けに行けただろうか。

 依頼された女性と薬のせいとはいえ、肉体関係を持っていたら、ショックを受けたかもしれない。それでも、依頼者の彼女は躊躇わなかった。

 『ひとならざるもの』でも、愛情を持って恋人になるひとたちがいること。

 それは、私の中で星のように輝く希望となった。

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