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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
二章 私の気持ちと回る世界

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2.目星をつけて

 事務所の端に設置されたキッズスペースで、和己くんと沈くんが遊んでいる。ぬいぐるみを玩具の椅子に座らせて、保育園ごっこをしているようだった。和己くんがぬいぐるみによく聞き取れない歌詞のお歌を歌っていると、教室を終えた佳さんが合流して来た。

 実際に方針が決まって、動きが決まるまでは、まだ『ひとならざるもの』としても事務所の事務員としても初心者の私は、できることがない。パソコンに向かって茉莉さんが、闇の組織で子どもを産むために女性が派遣されていないかを探しているのだが、それを手伝うことができないでしょんぼり突っ立っていると、和己くんと沈くんを見ているようにお願いされたのだ。

 キッズスペースに座っていると、沈くんがおままごとのお皿に玩具のお野菜を乗せて持ってきてくれる。


「美味しそうね、いただきます」

「みぃた、どーじょ」


 あまり喋らなくて泣いてばかりで、茉莉さんのお胸から離れられないイメージの強い沈くんも、季節が変わって、成長していた。


「和己、良い子にしてたか? 津、どうなってるんだ?」

「いわゆる、『お見合い』や」


 それだけで佳さんには話が通じたようだった。『お見合い』と称して、子どもを作る行為をさせて、産まれるまで相手の生活を保障して、子どもが産まれたら売ってもらう。

 妊娠が望めない女性が、体外受精で他の女性に産んでもらうという話は聞いたことがあるけれど、今回はそれとは全く違う。男性の方はそれを望んでいないし、両親に反対されているが、恋人がいるのだ。


「佳さんに持って来られた『お見合い』って……」

「そういう意味合いもあったと思うよ。受ける気がないから詳細までは聞いていないけれど」


 前回の事件のときには全く気付いていなかったが、中央アジアの富豪の一族の頭が老いて来ていて、性急に子どもが欲しいという話。それは、佳さんを子どもを産む期間借りて、子どもを産ませて、金を払って追い出していたかもしれない、佳さんと津さんの言う、いわゆる闇の意味での『お見合い』だったのかもしれないと、ようやく私も気付いた。

 そんなものを佳さんが受けるわけがない。だが、そういう話が堂々と持って来られるくらいに、『ひとならざるもの』ではそういう闇の『お見合い』が多いのだと認識できた。


「私も狙われたってことは……」

「組織は女性を飼わない。女性は妊娠期間に時間がかかりすぎるから、商売がしにくいし、腹で育てるから、本人の意思がないと赤ん坊を生むまで到達しない」


 はっきりとは言わなかったが、私の脳内で、佳さんの言葉で『堕胎』という単語が浮かんだ。女性は望まない子どもを10か月近く、お腹に留めておくことはしない。それくらいならば、堕胎してしまおうという女性も多いだろう。母体と赤ん坊に危険な薬は使えないので、薬で操ることも難しい。


「相手の女性は、完全に同意してってことですか?」


 無理強いされてではなく、10か月お腹で育てた子どもを、相手に売ってしまう感覚が私には分からなかった。和己くんや沈くんでさえ、可愛くて、攫われてしまったら血眼になって探すだろうし、売られてしまったらどんな手を使ってでも取り返すだろうに、自分が産んだ赤ん坊が可愛くないなんてことが……。


「あるんだ……」


 世間に溢れる虐待のニュース。海外では、臓器移植のために子どもが売られている事実もある。それと同じ感覚で、血統のために子どもを売るビジネスが成り立つ世界、それが『ひとならざるもの』の世界なのだ。


「蜜月さんは、そのまんまでおって」

「津さん……」

「自分で産んだ子どもを売るやなんて、信じられん、許せへんて、思うてて欲しい」


 『ひとならざるもの』の感覚に捉われず、私は私でいていいと津さんは言ってくれる。

 こんな風に優しいから、私は勘違いしてしまいそうになるのだ。


「ジャーマンシェパードの血統書付きの家系って言うから、探しやすかったわ。相手も絶対にジャーマンシェパードだもの」


 相手の方もジャーマンシェパードの家系で調べれば、個人的に商売をしている『ひとならざるもの』の情報が見つかったと茉莉さんが報告してくれる。


「ジャーマンシェパードの子犬を売ります、みたいな感じでカモフラージュしてるけど、実際には彼女が産んでいるんだと思うわ」


 海外の個人的なSNSで、ジャーマンシェパードのブリーダーを装っている女性の情報がパソコンに表示される。

 『どの国にでもお伺いします』

 『出会いが大事なので、出会いの場所はこちらで指定させてください』

 書かれている情報は私には分からないが、茉莉さんから見れば、『ひとならざるもの』の子どもを作る『お見合い』を売り物にしていると分かるようだった。


「どうして、これで分かるんですか?」

「蜜月さん、この写真を見てみて」


 『ひとならざるもの』上級者にはなれないかもしれないけれど、ある程度理解できる初心者を抜け出したくらいにはなりたい私に、茉莉さんがパソコンでページを開いて、写真を示してくれる。『ひとならざるもの』はカメラや写真に写らないというが、そこには尻尾を見せた女性の姿が映っていた。

 何十枚もある写真の一枚から特定する茉莉さん。


「わざと映るように写真に撮られれば、本性を透けて見えさせることができるのよ。一般の人間には分からないけれど」

「このひとが、どうやって、どこに依頼人の恋人を連れて行ったか、ですよね」

「組織絡みだと思うわ。同じジャーマンシェパードとはいえ、この女性が男性を攫えるとも思えないもの。あのひとの組織が、絡んでいるかもしれない」


 志築明人。

 そのひとの名前を、茉莉さんは口にしない。

 怒りがあるのかもしれないし、悲しみがあるのかもしれない。茉莉さんの心は分からないけれど、組織絡みの事件を解決することによって、組織の中枢に近付けるのならば、私が協力しないはずはない。


「和己、行って来るね」

「う!」


 キッズスペースで遊んでいた和己くんのつむじにキスをして、佳さんがワイヤレス式イヤホンを装着して、携帯電話を通話状態にして、ポケットに入れる。


「蜜月さんは空から、津さんと佳さんは昨日失踪人がいなくなった辺りから、匂いで探してくれる?」


 虎や獅子の嗅覚は、人間よりも優れている。特に、津さんは『嗅覚』の鋭い能力を持っている。


「携帯のグループ通話を使うわ。何かあったら、全員に教えて」


 事務所に茉莉さんが残って、津さんと佳さんと私が、地上と空からいなくなった男性を探す。

 ワイヤレス式イヤホンを装着して、携帯を通話状態にして、津さんもポケットに入れた。

 津さんと佳さんの姿が揺らいで、漆黒の獅子と純白の虎に変わっていく。佳さんの本性は初めて見たのだが、虎は固体では最強と言われているが、雄の獅子の津さんよりも体が大きい気がする。


「蜜月さん、この画像の男性を探して」


 じっと見つめる茉莉さんのパソコン画面には送られて来たデータの写真が入っていた。ジャーマンシェパードの本性と、この写真の姿。見つけられるか不安だが、そんなことを言っている場合ではない。

 獅子と虎の姿の津さんと佳さんは、依頼人が置いて行ったいなくなった男性のジャケットを嗅いでいた。


「どっちが先に見つけられるやろな」

「今までは地上からだけだったから時間がかかっていたが、蜜月さんが上空から探してくれるとなると、遠くまで一気に行けて助かる」


 漆黒の獅子と純白の虎が喋っている光景にも、慣れなければいけないのだけれど、津さん以外で本性の獣の姿になったのを見たのは初めてで、佳さんの声が純白の虎から出て来ることに戸惑ってしまう。

 自分の正体は明かしてくれていたが、佳さんの本性は実際に見ると純白に銀色の模様で、物凄い迫力だった。


「大抵、こういう『お見合い』は邪魔の入らん、高級なペントハウスで行われるんや」

「ペントハウス……って、なんですっけ?」

「マンションの最上階に作られる高級仕様の部屋だよ」


 全然そういうものに縁がなかったので、間抜けな質問をしてしまった私に、佳さんが丁寧に教えてくれた。

 マンションの最上階。

 それならば、上空から見つけやすいかもしれない。


「絶対に探し出しましょう!」


 尻尾をぱたりと振って出て行く二人のために事務所のドアを開けて、見送ってから、私はビルの屋上に上がった。

 津さんの手助けはないけれど、携帯電話で繋がっているし、一人でももう飛べる。

 消えた男性を探すために、私は大鷲の姿になった。

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