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大鷲の翼は漆黒の獅子を抱く  作者: 秋月真鳥
一章 私の知らない私

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23.捕えられた私

 夜に備えて、ワイヤレス式イヤホンと携帯電話を充電する。空を飛んでいるせいか、電波を探して携帯電話の充電は思ったより減っていた。


「モバイルバッテリーを買った方が良いかもしれないわね。それも経費で落とすから、領収書を持ってきてくれる」


 茉莉さんのアドバイスでモバイルバッテリーは買って持ち歩くとしても、大鷲になっている状態では、携帯は身に着けているが、人間の姿の方にあるので、カードの裏表のように干渉できない状態で、繋ぐことはできない。

 一応、飛ぶ前には繋いでおこうと決めたが、いつ飛ぶことになるのかひっ迫した状態では分からない。


「今日は三人で張り込むんですか?」

「蜜月さんは、家で沈くんと和己くんを見ててくれるか?」

「私も、ついて行っちゃいけませんか?」


 連れ去られるかもしれない女性と、それを守る茉莉さん、津さん、佳さん。争いになるかもしれないから、私はお留守番を言い渡されたのだが、心配で家で待っておくことができそうになかった。


「『ひとならざるもの』の話をされても、あの女性は何が何だか分からないと思うんですよ。私だって、津さんと茉莉さんにこれだけ教えてもらっているのに、まだ分からないことだらけで」


 混乱する女性の気持ちが、私ならば分かるのではないだろうか。

 訴えかけてみても、津さんも茉莉さんも、良い顔はしなかった。


「蜜月さんが和己をみていてくれると安心なんだけど……どうしても来たいなら連れて行ってみてもいいんじゃないかな」


 難しい顔をしている津さんと茉莉さんに、佳さんだけは私の味方のようだった。

 和己くんと沈くんはときどき茉莉さんの部屋に泊まりに来ている、茉莉さんの弟に預けることにして、私も張り込みに参加できることになった。


「津は蜜月さんを心配しすぎる。もっと信用すればいいのに」

「蜜月さんが危ない目に遭ったら、どないするんや」

「そのときに助けてこそ、私たちがいる意味があるだろう」


 あらゆる意味で、佳さんは強いのだと思う。

 私を信頼することに関しても、腕力でも、精神的にも。

 ひとが一人死にかけていて、そのひとが最期に自分の子どもを欲しがっている。情に訴えかけられたら、私だったら考えてしまうかもしれない。

 見合い話を持って来られた佳さんの答えは、はっきりとした拒否だった。それだけ佳さんは自分というものを持っている。


「お邪魔にはならないようにします」


 そうは言ったものの、私は結局それを守れなかった。

 数時間後、私は人身売買の組織に囚われていた。


 夕暮れ時に高校の近くに車を停めて、茉莉さんが車の中でパソコンを使って警察と連携を取りながら周囲を警戒して、佳さんが運転席に、私が助手席に座っていた。

 晩ご飯の津さんのお手製のお弁当を食べながら、最初は和やかに見張っていただけだったのだが、高校の駐車場から車が出て来たあたりで、みんな警戒しだした。


「蜜月さん、運転手が分かる?」

「はい、あのひとです」


 茉莉さんの問いかけに、『千里眼』で車の運転手を確認した私が答えると、佳さんが車を追いかけるようにエンジンをかけて動かしだす。車は大通りに向かっていたが、住宅街の工事の標識の前で一度止まり、方向転換をして、別の道に入って行く。

 何かがおかしいと、その時点で誰もが気付いていた。

 ある程度距離を置いて追いかけていたのだが、女性の行く先を塞ぐように大きなトラックが荷台を開けて、止まっている。女性の車が停まろうとした瞬間、急に曲がって来た車が、女性の車に追突した。


「事故!?」

「違う、押し込んだんや!」


 スロープが付けられていたようで、女性の車は追突の勢いで、後続の車と共に、巨大なトラックの荷台に吸い込まれていく。

 素早く後続の車から出て来たひとたちが、荷台のスロープを片付けて、荷台を締めてしまおうとしている。


「あかん、間に合わん!」

「蜜月さん!?」


 思わず助手席から飛び出した私は、大鷲の姿になって飛んで、トラックの荷台に飛び込んでいた。荷台の扉が閉まって、中が真っ暗になるのが分かる。車を運転していた女性は、『千里眼』で見る限り、追突の勢いで気絶してしまっているようだった。


「何か飛び込まなかったか?」

「良いから撤収しろ」


 トラックの外から声が聞こえて、ガタガタとトラックが動き出す。後続の車に乗っていたひとも、私が滑り込んだのには気付いていないようで、そのまま扉を閉めてトラックの助手席に乗って、トラックは走り出したようだ。

 なんて思い切ったことをしてしまったのだろう。

 怖くて手は震えるし、心臓はばくばくと鳴っている。

 人間の姿に戻って、女性の様子を確認しようとしたが、ドアにロックがかかっていて開けられない。震える手で携帯電話を取り出して、茉莉さんにかけようとするが、何度も操作をミスしてしまう。

 手が震えて、怖くて膝もがくがくと震えている。


「ま、茉莉さん……ごめんなさい」

『蜜月さん、無事なのね? 携帯電話をそのまま繋いでおける?』

「は、はい、多分大丈夫です」


 買っておいたモバイルバッテリーに繋いで、充電が途切れないようにする。トラックは高速道路に入ったようだった。料金所のETCの音が聞こえた。


『位置情報は分かってるから、すぐに追いかけるわ』

「あの、ごめんなさい」

『この件に関しては、無事に救い出せてから話しましょう』


 出過ぎたことをしてしまった。

 もしかすると解雇されるかもしれない。

 このまま、この女性が連れて行かれるのを、ただ見ていることができなかったのだ。


「う……」

「大丈夫ですか?」


 車の中でうめき声が聞こえて、私は窓ガラスに張り付く。携帯電話のライトで照らしながら中を覗くと、女性は意識を取り戻したようだった。


「何が起きたの……? あなたは誰?」

「私は、あなたを助けようとしたんですが……失敗しちゃって、一緒に囚われてます」

「囚われて……どういうこと?」


 車で追突されて後続の車ごとトラックに押し込められたということを、彼女はよく分かっていなかった。それもそうだ、こんな風に強引に誘拐をするなど、誰が考えるだろう。


「これからあなたに色んな変なことを言うひとが来るだろうけれど、何も信じないで」

「あなたのこと、信じて良いの?」

「私は……」


 私も確かに彼女にしてみれば怪しい人間だろう。

 どう言えば信じてもらえるのか、分からない。茉莉さんならばこういう時にどう言うだろう。


「命をお金で売り買いする組織があって、あなたはその組織に目を付けられていたんです。あなたの産む子どもに価値があるといって」

「子ども? 私が、赤ちゃんを産むの?」

「えーっと、そういう闇の商売をしている輩がいてですね」


 ダメだ。

 助けて、茉莉さん。

 私では全然説明できません。

 自分の無力さに打ちひしがれていると、車のドアを開けた彼女は、私の方に詰め寄って来る。


「そうやって、私を油断させて、懐柔しようって魂胆じゃないの?」

「そうじゃなくて、私は……私たちは、あなたを守りたいんです。私の仲間がこのトラックを追っています」


 必死で説明していると、トラックの速度が落ちたのが分かる。どこか広い駐車場にトラックは停まったようだった。

 隠れなければいけない。

 そう思っても、彼女の手がしっかりと私の腕を掴んでいる。


「二人いる?」

「どういうことだ?」

「とにかく連れて行け!」


 大鷲の姿になれば、逃げだせるかもしれなかった。

 けれど、私は彼女を置いて逃げることはできない。私の腕を掴む彼女の手は震えていた。


 こうして、私は捕えられて、スーツ姿の男性の前に引き出されたのだった。


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