第3章 第33話
中は整理整頓されている部分もあったり、片付け中なのか、散らかっている部分もあったりと、まあ言ってしまえば本当に広い物置部屋と言ったような感じになっている。
その中でもついつい目がいってしまうのは、中央より少し手前にある布がかかった領域だ。
「そう、ご明答。この布の下にあるのがお前らの装備品だ」
上にかけられてあった布が宙を舞うように、勢いよく剥ぎ取られる。
出てきたのは、漆黒の艶があるローブと、これまた漆黒の艶ある手蓋、そして純白のローブと、あえて艶消しをしているのか、マッドな純白の胸当てと小手と足当てだ。
「ほう•••」
「綺麗だね•••」
「なかなかいいだろ?それがな、お前らが倒した中に”名前付き”がいたんだよ」
「へー。ある魔物の個体の突然変異したやつだね」
て教科書に載ってたよね?と、オリビアが所長に聞こえないように耳打ちしてくる。確かに教科書的にはそう書かれてあったような気がする。見た目は似ているが、強さも硬さも何もかも性質が違う、異常発達した個体。故に警鐘を鳴らすべく、別称をつけ、”名前付き”として別個体の位置付けにしているのだ。
そんなものまで倒していたのか。
「サーペントのネームドのバジリスクってやつだな。デカくて、毒も通常のサーペントよりも強力で普通にレイド戦が組まれるような危険な魔物だ。黒色の装備はこのバジリスクの皮を元にできた装備だな。つくったやつが言ってたが、蛇系統の素材は魔力親和性が高いそうだ。だから親和性が高いのが欲しいとかいってきたやつに渡せって言ってたぞ。だから、これはムメイのだ」
そう言われて、僕はその装備を手にとりに行く。
「!」
すごい、すごいぞ、この装備。
龍、とまではいかないが、魔力を流す際の魔力効率差の漏れ出る魔力がほぼ無い。しかもこの装備、蛇自体の特性なのか、光のあたり加減で色が補色のように反射する。普通にかっこいい。
いやあ、これほどの素材を活かしたまま装備に落とし込めるとは•••そんなもの実現できるのは、確実に腕のいいドワーフだな。前聞いた感じはギルドで囲っている、というよりもギルド長の昔馴染みみたいな感じだったな。まあそこをつくのは、まだそれこそ、藪蛇というものだろう。いつか会ってみたいね。
「ふっ。どうやらモルガンギルド長はいい鍛冶屋と知り合いらしい」
「まあな。まあ、それは今はいい。で、どうだ?感じは」
「素晴らしいの1言だな。もはや素晴らしすぎるくらいだ。この白いのはオリビエのだろ?こっちは何でできているんだ?艶消しされて妙に神秘的になっているが」
「これはな、だいぶ珍しいのが混ざっていてな。この防具の素材はキリンだ」
うっそ!
「首が長いやつ?」
「違う。全身が真っ白の馬みたいな魔物だな。強くはないけどな、あんまり人前に出てこなくて、すげえ珍しいんだよ。スタンピードってのは気が動転して隠れて過ごしてる魔物まで炙り出されるからな。特に今回みたいな大規模なスタンピードはこういう珍しい魔物も出てくるんだ」
「しかも魔力親和性も高い。いい魔物なんだよ」
「へー。ムメイもよく知ってるね」
「こういう珍しいやつは趣味で本とかで見てるんだ。たまたま、だな」
付与魔法の勉強をしてた時に、どんな素材がいいのかっていうので、それを調べる一環で魔物の本を見てたりしてたんだよね。珍しい魔物は調べてたものの、ネームドとかはよく知らないんだよね。あれはどっちかっていうと注意喚起みたいなもんだから種類が統一されているわけじゃないし、突然変異で固有種も多い。なので専門外だ。今度調べてみようかな。
「魔力親和性もよいが、やっぱり素材としての純度も高いぞ。今回は皮、骨、毛、全部を使って防具に落とし込んでいる。ローブは毛と皮、胸当てとかは皮と骨だな。キリンの骨は柔らかく、そして強度が強い。毛はクッション生に優れていて、皮は軽いのに強度は強く、発汗性、通気性もよくて暑いところも寒いところも問題なく使える逸品だ」
胸当てとかは骨が主に使われているから艶がないのか。ローブもボリューミーではなく、目立たないきめ細かいキリンの毛が、逆に上品さをだしている。それと艶がない防具と合わさって非常に色調というか、色の立体的なバランスがいい。うん、普通にかっこいい。
「ギルド長、こんないいものを作ってくれて本当にありがたい。捗るよ」
「いーや、全然いい。お前らは本当にこのギルドにいてくれて助かってるからな。まあボーナスだと思ってくれ」
装備を入れ替えていいか聞き、僕らは今の装備を全て外し、作られた防具を装備する。
「すごい•••見た目よりも、思ってるより全然軽いよ」
オリビアが感動する。
いや、本当に、すごいぞ。ローブは綿くらいの重さ、手蓋なんて触った感じぺらっぺらで紙みたいだ。なのに、その強度はおそらく普通の剣士くらいの剣筋なら全然余裕で耐えれるくらいありそうだ。それくらいに質の良さを感じ取れる。
「これは、本当にいいものを貰ったな」
「ああ、いいだろう?腕利の鍛冶屋だからな。まあ、これからは頑張って働いてくれや」
あ、そうそう。いうの忘れてた。
「ああ、そのことなんだが、ギルド長。訳あって俺たちは2ヶ月ほど動けなくなった。ありえんほどの有事なら駆けつけないこともないが、ここ2ヶ月は使えないものと思ってくれ」
ギルド長の顔が固まって天を仰ぐ。どうやら魂が空に旅立ったらしい。
ギルド長はそのあとこちら側に帰ってきて、まあ人それぞれに都合があるもんな、と自分を言い聞かせて納得していた。仕方ない、僕たちだって今は学生が本業なのだ。とんでもない有事の際には絶対に駆けつけることを条件にとりあえずは期末が終わるまでの期間、休業とした。
「まあ、お前らとは持ちつ持たれつだ。そのためのアンオブタナイトだしな。また落ち着いたら、その時は頼むわ」
「こちらこそだ」
うむ。働くことにおいて重要なのは、お互いを尊重することかもしれない。雇い主は完全にギルド長だ。だから雇用形態で言うと立場はギルド長の方が上。しかし仕事は僕たちがする。だからギルド長は僕らの意見を尊重する。ギルド長はぶっきらぼうだけど、僕らのことを大切にしていることがわかる。だから、僕らはギルド長に尽くそうと思える。まあ、みんながみんなそうじゃないけど、僕はギルド長の感じは好きだ。働くってのは、力とか名誉とかの上下関係じゃなくて、みんなで成し遂げるチームワークってやつが重要なんだと、思えるね。
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さて、冒険者ギルドで休業届(口頭)をしてきた訳だが。
「ムメイ、これからどうするの?稽古する?」
「いや、今日はやめておく。今日はこれから、貰った防具に付与魔法をつける。オリビエの防具も借りよう」
今回は即席じゃなく、三日三晩寝どころか、日をかけて寝ずに最高の付与を施そうじゃないか。むふう。
と、あとは父様に連絡だな。
「その間に父様に連絡をしておく。それで稽古をしよう。それまでは自主練でもよいか?」
「いいよ!師匠との稽古久しぶりだなー。それまでにもっと詰めておくよ」
よーし、僕も付与魔法、詰めて詰めて爪まくるぞっ。




