第3章 第31話 【期末試験】
スタンピードの大騒ぎが嘘だったかのように、その後は何事もなく、ひと月がたった。
ひとたび過ぎれば、事実は明日より過去のものとなる、というやつだ。スタンピードのあの緊迫感は街の中では過去のものになっている。
そんな日常の雰囲気的にも余裕が出てきて、月日も経ち、学校の生活にも慣れてきた。クラスの人たちの名前も覚えてきたところだ。相変わらず3人で一緒にいるけど。
僕はみんなのことを知っていって勝手に親しくなっているような気がするけど、みんなはなんかアーサー殿下の騎士になったみたいなことで僕と距離をちょっと作ってるんだよね。なんか、こう、探り探りみたいな。あとはサムエル何とか君を魔力で圧倒したのもいけなかったぽい。しかもそれがそれとなく他の生徒にも広がってるぽいから寮でもなんか距離取られてるんだよね。なので僕の交友関係はひと月経った今でも変わらず、なのだ。
オリビアはさすがと言ったところか、その純朴さ、そして真面目さがみんなには気に入られて友達がわんさかだ。しかも、とんでもなく可愛いからね。もう今では人気者だ。自主稽古も何もないオフの日はよく誰かと遊びに出掛けている。と言っても、どこかに買い物とかではなく、相手方のお家にお邪魔してティーなどを楽しんでいるらしい。実に貴族だ。でもみんなが良くしてくれるのでオリビアは楽しいみたい。うんうん、良かった良かった。オリビアが楽しいのが1番だ。僕は深海の中でひっそりと悠々自適に揺蕩うとでもするよ。別に寂しくて泣いてるわけではないよ。
「ということで春の候が終わる。みんなはもう学校にそろそろ慣れてきたことだろう。当校では夏の時期に新入生初めてのテスト、学年別のクラス構わずの学期末個人テストがある」
今は朝のホームルームの時間。今までは今週の授業や、今日やることなどの連絡だったけど、どうやら慣れてきたからか、これからは各学期ごとのテストやイベントについて話してくれるらしい。
それで、今日はいよいよテストについてってわけだ。
「まあテストというが、実際は個人の実力トーナメントだがな。そしてトーナメントに誰でも参加できるわけではない。まず、ふた月後に筆記のテストがある。そこで、上位64名以上に入らなければトーナメントの参加資格はない。そして、特撰クラスも他のクラスも平等によーいどんだ。他のクラスの上位層は死ぬ物狂いで狙ってくるぞ。なんせ最初のテストだからな。他のクラスはもしここでいい成績が残せたらもちろん、クラスの入れ替えも視野に入る。喰われぬよう、学年の覇者であり続けるよう、その白服が汚れぬよう、勤しむように」
筆記テストが中間テストで、トーナメントが真の期末テストってわけか。
クラスのみんなの顔を見てみる。
みんな待ってましたと言わんかのように、澄ましたような顔をしている。みんなわかっていたのだろう。さすがの貴族情報網だね。僕も、わかっていたけどね。といっても、オリビアが他の子に聞いたのをオリビアから聞いたのだけど。
最初は、テストってことでどのように勉強していこうかとか、特撰から落ちたらどうしようとか考えたけど、結局、やることは変わらないと悟った。入学試験の勉強と同じでがむしゃらにやるだけだ。あの時の勉強方法が合っていたから受かっているんだ。だからその勉強方法を続けるだけ。後は学校の問題の方向性を調べてからアプローチを修正すればいい、はず。後は結果が教えてくれるはずだ。
うむ、とりあえず期末試験に集中したいから試験が終わるまで他のことはちょっと中断しておこうかな。冒険者の活動もちょっとやめておこう。
そう言えば僕たちが頼んでた装備品とか、報酬ってどうなったんだろう?よし、それも含めて今日は冒険者ギルドに寄ってみようかな。
ホームルームが終わり、隣に座っているオリビアに話しかける。
「オリビア、今日放課後予定ある?」
「ないよー」
「じゃあ一緒に行きたいところあるんだけど、行かない?」
「いいよー。どこいくの?」
「制服だといけないから、着替えていくところ、かな」
冒険者ギルドに行こう、とは教室の中では言えない。まあ、こう言ったらオリビアには伝わるだろう。
「あ、なるほどね。確かにわたしたちが頼んだものもどうなってるか気になるもんね。あと、わたし、剣買いたいかも。学校だったら武芸用の木剣があるけど、武芸のなにかの実習とか、他の課外実習とかで真剣使わないといけない時に持っておきたいんだよね。しかも、わたしたちの担当の騎士の人がそろそろ実戦もしておこうとか言ってるから」
学校の生活に慣れて、それぞれの科目も次のステージへと上がっていく。オリビアの武芸の授業はどうやらどこか実習に行く予定らしい。おそらく魔物が出てくるところじゃないだろうか。魔物の森付近に行かなくても意外に魔力のムラがある場所は都市マドワキアと周辺王国の間にもあったりする。そういうところに遠征に行くのだろう。そうしたら昼から行って夕方に帰っても来れるしね。
僕とアディの武芸の授業はどうなるんだろうか。1に体力、2に体力、34も体力で、5に体力なスケジュールだ。一生体力作りに勤しみそう。まあお陰で日々の朝の自主トレも含めてだいぶ体力はついたけどね。基礎は重要だ。基礎をやりすぎて悪いことはない。焦らずじっくりだね。
「やぁ、ウィル」
「あれ、アーサー殿下じゃないですか。どうしたの?」
束の間の考え事をしていると、王子が来ていた。
「伝えたいことがあってね。私はトーナメントに参加できないんだ」
「え、なんで•••ってそりゃそうか」
考えてみればわかるってやつだな。
「王族に手を出したら死刑だもんね」
オリビアが横からひょっこり物騒なことをいう。
「まあ、それもあるけど、ここは学校だからね。そういうのは適応されないよ。ただ、ちゃんと評価できないって言うのが1番じゃないかな。手を抜いてないのか、その勝利は正しいのか、ってね。そう言うことになるなら最初から王族は出さない、というこの学校の考え方は潔くていいね。さすが王立だよ」
しかも納得できる内容だから他の生徒からも不満は出ないだろうしね。王族だけ特別じゃないか、とは誰も言えまい。なぜなら本当に特別なんだから。
成績はどうやって反映されるのだろうか。普段の生活態度と筆記と課外実習で評価されるのかな?なんにせよ王子は色んなことで大変だ。
「大変だね、王子」
「大変なのはウィル、君もさ。君はその王子の騎士なのだろう?なら、力を示さなくてはならない。伝えないといけないことは、1番になれ、と言いにきたのさ」
王子はにかっと笑う。
あっらぁ•••こりゃ、大変だ。




