第3章 第30話 【喜び】
偶然にも、アンオブタナイト級になった。アンオブタナイト級、それはギルドの奥の手、という印象だ。なら、ある程度の深い情報を求めてもいいはず。
「ところでギルド長」
「なんだ?」
「俺は人探しをしている」
「ほう。誰だ?」
「王国騎士団にいたロード、という人物を知っているか?」
「•••懐かしい名前を出すじゃねえか」
「知っているのか?」
「ちょくちょく魔物のレイド戦みたいのがあってな、それで王国騎士団と合同で戦ってたりしてたんだよ。まあそこであいつを見かけた時はよく言えば正義感が強いやつ、悪く言えば愚直なやつだったよ。ただ、新米のころから恐ろしく強くてなあ。自分の意見は曲げないくせにいつも前線につっこんでやがって、なんだかんだ笑顔で戻ってきやがる。そんな男ぐせえんところにどこか惹かれるところがあったんだよなあ」
兄様•••。そう、兄様はしっかりとした方なんだ。強くて優しくて、それで責任感もあって、どこでも褒められて自慢の兄様だ。
「でもなあ。ある時から顔がこわばっていてな。いつも笑顔だったあいつが、日に日に眉間に皺を寄せていたよ。気づいたら騎士団を辞めてたな」
そう、か•••。
「その後のことは知らないのか?」
「レガテリアに行ったとは聞いたが、そこから先はわからんな。なんでそんなことまで聞きたがる?お前のなんなんだ?」
「その方には、昔よく、世話をして貰っていたんだ。行方不明になったと聞いてな。どうしてるか知りたくて探しているんだ」
「なるほどな•••。お前さんにも過去があるんだな。ああは言ったが、ロードについては国家機密でもなんでもねえから、またわかることがあったら教えてやるよ」
レガテリア王国•••。バレッドさんもそう言ってたな。そっから先は実際にレガテリアに行かないとわからないか。
「それは助かる。またわかることがあれば教えてくれ」
レガテリア王国、もう1つの”武”の国。ちょっと調べてみようかな。
「レガテリア側からギルドに今回のスタンピードの件について感謝状が届いた。しかしなあ、レガテリアも色々調査で忙しい様でな、国をあげてお礼みたいなのは予定してないってことだ。まあ俺たち冒険者にそんなことする義理もないしな。要請がかかったから俺たちも行っただけ。報酬もしっかり貰えるし、それくらいの付き合いだ。でも、もし向こう側からアクションがあればお前を先に向かわせるよ」
「何から何までありがたいな。俺のことを信用してくれたのか?」
「バカ言え。素性も明かせねえやつをすぐには信用できねえ。ただ、嫌いではねえな、お前さんたちのこと」
まあ、こんな得体の知れないやつ信用する方が難しいだろう。1つずつ、だな。
「あと、後ろの剣士はオリビエなんだろ?さすがにお前も名前がないとこっちも連携が取りづらい。なんかないのか?」
ふっ、そう言われると思って考えてきたぜ。
「だから俺に名はないと言っているだろう。だが、ギルド長の言うことももっともだ。ならば、ムメイ、と名乗っておこうか」
後ろのオリビアが手を顔にやって大きなため息をつく。次にはイタタタという様な声が聞こえてきそうだ。え、名前いいでしょ?かっこよくない?
「ムメイ、ね。まあお前さんらしいな。わかったわかった。じゃあムメイとオリビエ、改めてギルドにようこそ」
ギルド長は手を差し出す。僕はそれに応え、慎重に、しかし厚く握手を交わした。
僕たちはそれから部屋を出る。ギルドの中は今でもどんちゃん騒ぎだ。
ギルド長はやれやれ、と首を左右に振る。
「お!出てきたか!」「お前らも飲めよー」「ギルド長!今日はぶっ倒れるまでやるんで止めないでくださいね!」
僕らは囲まれる。お酒の力ってすごい。なんか勢いで全て持っていかれそうだ。
「お前らなあ•••」
ギルド長はさすがにウザ絡みがすぎて、ちょっとおこだ。よし、しょうがない。僕がかっこよくここをおさめてやろう。
ギルド長の前の手をやる。ここは俺に任せておけ、というやつだ。
「俺は酒が飲めん。だが、こうやって馬鹿騒ぎできるのは、お前たちが戦い、そして生き延びたからだ。それは素直に感謝と安心と喜びだ」
馬鹿騒ぎしていたギルド内が僕の声に耳を傾けている。
「俺だって嬉しい。ただ酒は飲めん。そしてこの後も時間はない。そこでだ。今日の代金、全て俺が払わせてもらおう!!!!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
地響きがするほどの冒険者たちの雄叫び。こんなに喜んでもらえると気持ちいいね。ただ、気合の入り方がスタンピードの時よりも気合が入っているのは気のせいだよね?
冒険者たちはもう僕たちに興味がなくなったのか、タダ酒が飲めることに夢中で本当にお祭り騒ぎになった。
「うむ。ギルド長これで俺たちは失礼するぞ」
「待て、うむ、じゃない。金はどうするんだ」
「先ほどギルド長が言っていたではないか。ランクの恩恵に則り、つけでたのむ」
ギルド長は天を仰ぎ、これだからアンオブタナイトのやつらは•••と愚痴をこぼす。ただ、その顔はどこか嬉しそうでもある。やっぱりみんなが生きて帰ってきて騒げる、というのが長としても安心しているのだろう。全滅もありえた、それだけの規模だったのだ。と、良いように解釈しておこう。
ギルド長が諦めている間にとんずらしよう。
僕らは気配を消して、ギルドから出る。
「楽しかったね、オリビエ」
「もう、無茶するんだから。お金は大切に使わないとダメだよ」
夕暮れの鐘が鳴る。
よし、今日は予定通りに帰れそうだな。




