第3章 第27話 【アーサー・マドワキアの気持ち】
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最初に聞いた時は、まあすごく、面白いやつがいるもんだな、と思ったくらいだった。
元ヴァルヴィデア王直属近衛兵総隊長ヴァレッド率いるヴァレッド隊は王国騎士団の中でも評価が良かった。もちろん、最初は部外者という理由であまり気に入られてなかった。しかしそんな奴ら全員を功績と実力でひれ伏せさせた。その漢臭さから評価は鰻登り、もはや騎士団の中でも憧れができる程だ。そしてヴァレッド隊のいいところは完全な実力主義で決まる。どんな出生だろうと、どんな過去があろうと力と協調性があれば採用するのがヴァレッド隊だ。だからこそ、ヴァレッド隊の隊員はみんなが実力者であり、隊としての機動力、連携力は遥かにレベルが高い。故に、その副隊長であるバルカが中等学校入学試験で学生相手に遅れをとったことは騎士団の中でちょっとした話題になった。
バルカはどちらかというと戦況把握、天性の戦略術から軍師に位置しているが、それでも対人戦においても並大抵の騎士団員に遅れを取ることはない実力を持っている。
化け物はどの年代でも潜んでいる。それは人を統べる位置にいれば必ず目にする事実だ。だからこそ自らのそばに置く者、そして将来人を導くときに必要な人材を年齢構わずに見極める力を、私は持たなければならないと思っている。
だから私は騎士団でちょっと話題になったその受験者を、すごいやつがいるもんだな、くらいに心に留めることにしておいた。
そしてその才覚を目の当たりにしたのはあの入学式の帰り際の揉め事だ。
そのすごいやつがどうやら高等学校1年生主席のシャーリー・ローデュラン公女にちょっかいをかけてその取り巻きと、私の同級であるサムエル・ホークレンドニクスが止めに入ったあの揉め事だ。
ホークレンドニクス家は代々騎士団の隊長を務める歴史ある騎士の家系の1つだ。またホークレンドニクス家はその信頼から公爵家の護衛を務める役が多い。だから今回の件で名乗りを挙げだのだろう。そして、そんな家柄の子息が鍛えられていないわけがない。にも関わらず、そのすごいやつは魔力の解放だけでホークレンドニクスの者を引っ込めただけでなく、その魔力幅の揺れで高校の特撰クラスですら1歩も動けず、その場を制圧して収めたのだ。
私もこの身にその魔力幅の揺れを体感したが、1言で言うと異常だった。魔力の解放の上がり方の無駄の無さ、そしてその底知れずの魔力量、どれほどの鍛錬を積めばその領域に到達するのか。どれをとっても異常と感じざるを得なかった。だからなのか、私の勘と目が、この人物を、ウィル君を側に置くべきである、と直感した。そこからは直感に従うだけだった。
私の兄は昔、とても人思いの優しく、自分に厳しいお方だった。その兄が変わったのはいつからだろうか。国政に関わり、人の弱みを目の当たりにしたときだろうか。それとも帝国との小競り合い、魔王国からの防衛などの戦いの場に赴き、力が必要であると感じた時だろうか。誘引はわからない。けど、兄はいつの間にか力が全ての思想に陥ってしまった。
そしてドラゴン。
やつが騎士になってからさらに兄の思想は過激になっていっている気がする。確かにドラゴンの強さは計り知れない。いるだけでその圧力で膝をつきそうになるほどだ。それほどまでに畏怖を押し付けられている。やつをやつをどうにかしないと兄は戻ってこれない。嫌、もはや戻ってこれる時期は過ぎている。だから引導を渡すのはこの私であることが筋だ。だから私も、力を求める。
ウィル君はそれに相応しい人材だ。何も調べずにウィル君を騎士に任命したが私の直感はあたる。素性は後で調べれば良い。
それから私はウィル君について調べた。しかし、ウィル君の過去は至って何事もない普通のホグン村出身の村人だった。そう、あまりにも普通過ぎたのだ。この違和感は情報をあえて削ぎ落としている隠蔽された事実に触れる時に感じる違和感だ。特に怪しいのは6歳以前の記録がほぼない事だ。
私は6歳以前のウィルという男子を調べ上げてみた。
ウィルという名前はそんなに珍しくない。様々な事柄が出てきたが、1番もしかしてもしかするかもしれない事実は、ヴァルヴィデア王国の王子の話だ。ヴァルヴィデア王国は6年前に”血の披露会”が行われた。その時の披露される王子がウィル・ヴァルヴィデアだった。しかし後に当時の王族は解体となり兄はそのまま騎士団に、姉は公爵家に引き取られ、父母とその息子ウィル・ヴァルヴィデアは国を出て消息不明となっている。筋に寄るとこのマドワキアから出たとなっているが•••。そこがどうも擦り合わない部分であり、奇妙な点でもある。
それからして、レガテリア王国周辺にスタンピードが起きた。規模は都市壊滅級。何かの悪い夢かと思ったね。目視には入りきらない量の魔物の軍団が押し寄せてきているとの報告。レガテリアは持つが、周辺国家までサポートしていたら前線は押し下げられ、都市マドワキアまで侵入を許していただろう。正直、マドワキアのレガテリア側は食いちぎられると覚悟した。
可及的速やかに会議が開かれた。王をはじめとし、兄と私とそれぞれの臣下が集まった。あれよこれよと意見を出しあった。
しかしそれはいい意味で裏切られることになった。
次に届いた報告ではある2人組の冒険者たちの活躍。白色の魔力を用いて、聞いたこともない規模の魔法を1人で発現させ、都市壊滅級スタンピードをほぼ撃滅し、その残党をもう1人の剣士が全滅させたとの吉報。
これまた耳を疑った。本当に夢を見ているんじゃないかとね。
ただ、安堵共に次はその聞いたことのない魔法の規模から魔族ではないか、と疑い怪しまれた。さらにそいつらは正体を隠しているとわかってからは本当にマドワキアの味方なのかと、加速して議論されるのはすぐだった。でも、私はそんなのは後で良いと思った。どんな者であろうと、マドワキアを味方した事が重要なのだ。私は大いに喜んだ。どんなことをしてもギルドにその2人組をマドワキア以外の冒険者に出してはいけないと、どんなことを使ってでも滞在して欲しいとすぐに伝令を出した。
これでフラれたら運がなかったと思おう。
そして、私たちは考察に入った。次にこの規模が起きた時にどう行動するか、そして、なぜこのような事が起きたのか。1夜中議論が行われ、そして各所から情報をかき集めまくり、出た推論は帝国と魔王国が繋がるのではないかという事だ。ヴァルヴィデアの帝国絡みと予想された事件と辻褄が合ってしまうからだ。
その推論が出た時、場は静まった。
マドワキアはその2国に挟まれる形に位置している。その2国が共闘すれば一瞬でこの国は堕とされるだろう。
力が、力がいる。
幸運にも無名の冒険者は今はこちらのものだ。あとはありったけの力を育て上げなければならない。
とりあえずは徹夜明けでもあり、各々体と頭を休めるために1度解散となった。
私も学生だ。授業に出なくてはならない。
そう言えば今日は魔法の適性の授業だったかな。貴族のみんなは慣れ親しんでいるだろう。しかし、同学年の魔力を見ることなんてほとんどなかった気がする。小等学校では魔法の基礎しか習わないしね。ちょっと楽しみでもあるね。
私は昔から赤色の魔力、火単独の適性だ。私は嫌いじゃなかった。自分の中に純粋に1つの燃えるものがあるといったことが、一途で好きだ。今回もそのような結果になったね。さて、他の人はどうなのだろうか?
それぞれの貴族の子達が検査を終えていく。そして一般枠の子達が始まる。
僕は目を疑った。
なんせ、今話題の無名の冒険者の魔力とウィル君の魔力は一緒の白色だったからだ。
「ウィル君、君は•••」
驚きを隠せなかった。ウィル君の魔力の解放は知っている。しかし魔力の解放は淡い色になり、その人の魔力の色自体は分かりづらいのだ。だからあまりウィル君の魔力色には注目はしてなかった。でも、こんな偶然はあるのだろうか?そして適性は全属性。そんなのは眉唾物かと思ったよ。
ウィル君は傑物だ。しかし、その無名の冒険者と結びつけることはまだできない。ウィル君も充分実力はあるが、無名の冒険者は活躍から聞くと常軌を逸している。誰かと結びつけれるなんて事が、まだ想像できない。
いや、あるいはヴァルヴィデアの血なら•••。
ウィル君に聞いてみよう。そしてヴァルヴィデアの事も、スタンピードのことも話そう。
「アーサー殿下、僕にできることがあったらなんでも言ってください」
ヴァルヴィデアのことを話してもウィル君は何も意に介していなかった。別に無名の冒険者とウィル君が別でも構わない。その時は戦力が増えただけだ。
「助かるよ。私の騎士としてそれほど心強い言葉ないよ」
集めれる力があれば集めるだけだ。今は力が、いるのだ。戦える力が•••!
「あ、そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、そうじゃなくて」
ウィル君は1拍置く。
その1拍はなぜか長く、なぜだか、頭が冷静になっていく時間のようだった。
「友達として、だよ」
私は、焦っていたようだね。
何か大事なことをいつの間にか、落としていたのだと、気付かされたよ。
昨日の件で、いや、昨日今日じゃなくて、前から焦っていたのかもしれない。兄をなんとかしなくては、国をどうにかしなくてはと。私はまだ中等学校1年の身だ。急ぐにはまだ若すぎる。なのに私は視野まで狭くして、何をやっているのだか。
ウィル君•••いや、ウィル。君は本当に面白い人だ。君を騎士にする私の直感は合っていたようだ。私が間違った道に迷い込んだ時に、君は正しい道へ戻してくれるようだ。今回がたまたまかもしれないが、君は私にとってそんな存在になってくれる。勘だけど、私の勘は当たるからね。
予鈴がなる。
そうここは学校だ。なら王子ではなく私はただの学生だ。
「さあ、学生の本分の授業に勤しもうじゃないか」
「殿下、ちょっとアディみたいな事言ってますよ」
考えすぎるのも良くない。だが、マドワキア、帝国、魔王国のこの三竦みの歪みが生まれ始めたのは確かだ。
時が、動き出したのだ。




