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第3章 第26話


 僕たちは入学式が行われた大講堂らへんに向かって適当に歩いている。この時間帯は何もないために、生徒もこの辺にはいない。


「ウィル君、今さっきの適性検査の結果凄かったね。全属性だなんて聞くだけの存在かと思ってたよ」


「いえいえ。まだまだ修行の身ですよ」


 とりあえず謙遜しておこう。


「魔力の色も本当に綺麗だったね。白色っていうのは私も初めて見たよ。色んな人に聞くとやっぱり珍しいようだね」


「らしいですね。僕はずっとこいつと付き合ってきたのであんまり珍しさは無いんですけどね」


「はっはっは、確かにそうかもしれないね。見慣れてしまうと珍しいもののはずなのに身近に錯覚してしまう。ただ、白色の魔力はやっぱり珍しいらしいよ」


 といわれましても•••まあいっか。


「そう言えば、昨日の”魔物大挙襲来”を制したのは、ギルドからの報告では、()()()()()()()()()()()()と言われていたねえ」


 全然良くなかった!


「奇遇ですな!」


 とりあえずアホのふりだ!


「•••仮に偶然だとして、その冒険者の活躍は一夜にしてマドワキア全土どころか、周辺国家全てに名を馳せた。まあ名前はないとか言ってるようだけどね。ただ、私は嬉しかったよ。そんな強いやつが、1人で戦況をひっくり返せるやつがマドワキアにいるんだってね。ウィル君、私が強さを求めるのは兄を止めるためだと言ったね?」


「はい。兄の行き過ぎた思想にこの国は任せれないと殿下は言ってたね」


「そう、それが主な目的だ。でもそれだけじゃない。ウィル君、ヴァルヴィデアの事件は知っているかい?」


 僕は少し、息が止まりそうになった。別に僕がヴァルヴィデア出身とバレたところでなんとも無いけど、なぜだか心臓がキュッと引き締められたかのような緊張感が僕を襲った。たぶん、バレたらまた家族に何か危険が起きるんじゃないかと、ばらばらになるんじゃないかという漠然とした不安によるものからだろう。


 僕はその不安は妄想だと払いのける。


「ヴァルヴィデアの事件ですか?」


「数年前にね、武の国ヴァルヴィデア王国で王族のパーティで他国から襲撃事件が起きたことがあったんだ。そしてさらにその復興最中にヴァルヴィデアに邪龍が降り立ち、王宮で暴れ散らかし、とんでもない被害を巻き起こした事件が相次いだ。この2つの事件でその当時の王は王の座を降りさせられた。その時の王は過去最高峰の強さを持った”鬼人”と戦場で恐れられた王だった。その強さは畏怖と共に戦闘の頂の1人として崇め奉られていたほどの人物だった。マドワキアの武の領域で絶対に欠かせない人物だった。この2つの事件はタイミングもあったが、何かおかしかった」


 よく知っている。僕はその2つを目の前で見ていたからだ。


「1つ目の襲撃事件はヴァルヴィデア王家の成長に周辺国家の嫉妬して妨害工作として行われたとされた。2つ目の邪龍事件はただの邪龍化による災害と、偶然の災難とされた。2つ目の事件はそれでいいかも知れないが、1つ目の事件に関して、マドワキア王国の国同士の連携は並外れたものじゃない。マドワキアはマドワキア”連合王国”なんだ。マドワキアが主とはなっているが、この国が発展できたのはそれぞれの国同士で支え合ってきたからだ。だから今更マドワキアの国家間でそんなことは、そんな考えはよほどのアホが国を回してないと起きない」


 アーサー殿下はいつもの柔和な顔ではなく、鋭い目つきで喋る。そのプレッシャーは生き死にをかける戦いにおける威圧感ではなく、戦局を見極めんとする武将の眼光の様だ。戦士の圧とは違っているけど、10歳とは思えない重厚な思い背負った覚悟のあるプレッシャーだ。アーサー殿下•••あなたはとんでもないお方だ。すでに国を統べる才覚がある。


「それからさらに裏で調べ上げた。次に出てきたのはヴァルヴィデアの当時の王の弟が地位奪還のために起こした内乱に近いものということがわかった。そのカモフラージュのために周辺国家が使われたという事だった。でもこれも何かおかしかった。弟君の謀反も急だし、1番のおかしい点は次の王になったのは鬼人の叔父に当たる人物だったからだ」


 おじさんは王になる人ではないと、それは自分が王に向いてないからだと、でもそのおじさんが王になったのには何かがあると、父様と母様が言っていた。それは身内の見解だけど、外から見るとそう言う風に見えているのか。ていうか父様の弟、こっちが僕から見れば本当の叔父さんなんだけど、あんまり会った事ないけどそんな人だったのかな?そこばかりは良くわかんないな。


「ヴァルヴィデアの前々王の兄君。そのお方は私も良く父から聞いていた。武の国に置いておくには勿体無い人物だと。出会い方が違えば側近として確保しておきたかった人材の1人と仰ってた傑物だ。まあでも、それを上回る面倒くさがり屋っていうので色んな人に誤解されて評価は得られなかったらしいけどね」


 おじさんは、本当に優秀だとみんなが言っていた。それはどこでもそうだったんだな。でも本当にすごい面倒くさがり屋なんだよなあ。何度か父様がおじさんにそれとなく助言を求めた時に、任せる、以外の言葉を聞いたことがない。だからこそ、今回の王就任の件は僕からでも異質に映る。


「そんな前々王の兄君が王についたことはさすがに何かのサインとしか思えない。すると最近になってその兄君から報告書が来たよ。相当暗号化されて読解に時間がかかったけど、それほどの有事であったのは確かだった」


 ちょっと待って。


「殿下、それは僕なんかに喋っていい内容なんですか?」


「君は僕の騎士なんだろ?じゃあ情報は共有しなきゃね」


 殿下はイタズラな顔をする。僕にその責任、耐えれるのかなあ。でも、僕もそれは知りたい情報だ。


「まあ知ってもらいたいのは本当だよ。マドワキアを揺るがす()()になる可能性があるからね。その兄君の報告書には、その事件については帝国が絡んでいるという情報があった」


 え!?待って待って待って。待って。


「て、帝国?そんなことしたら、今も睨み合ってはいるけど、本当に戦争になっちゃうじゃないの?」


「そうだね、今もしている。所詮領土の誇示し合う小競り合いをね。でも今が崩れるとウィル君の言う通り血で血を洗う戦になるだろう」


「なんで?なんで今更?」


「帝国はどうやら魔族と組みたいらしいんだ。魔族、というより魔王国の高純度の魔法資源が欲しいみたいだね。理由はまだ明確にはなっていないけど」


 魔王国は魔族の国だ。それだけにその土地は潤沢な、それこそ普通の人が立ちいれば魔力酔いをするような高濃度の魔力に満たされてしまっている。それはまた物も同等でそこにある草木、鉱物様々なものがこっちでは考えられないくらいの魔力を有している。その資源の用途は魔力で今の生活が賄われてる僕たちの世界でとても有意義な資源に置き換わるのは明白だ。

 でも、魔族側がそれを許すのだろうか?母様が説明してた通りなら魔族側からこちら側に寄ってくることはあるのか?


「そんなことは魔王国側は許すの?」


「だからこそのマドワキアの陥落さ」


「踏み絵ってこと?」


「ていうのと、後はただ単に邪魔なんだろうね。帝国と魔王国はマドワキアを挟む形に位置している。どうしても何かしようにはマドワキアを通るか迂回するしかない。魔王国からすれば人類種は邪魔、帝国からすれば交渉材料に都合が良い、ということなんだろうね」

 

 全く、人というのは欲深い、とアーサーは呆れる。


 帝国か•••賢者マルディンさんの生まれとされている国。その多数の領土を広げてきて生まれた大国。それに抗う様に他国と協力して生まれたのがこのマドワキア連合王国だ。だから帝国とマドワキアには歴史的な確執があるのは言わずもがななのだけど•••。


「帝国側が現状からの進展を望んだわけですね•••」


「そういうこと。だから武の国の歴代最強といわれた鬼人を社会的に殺したのさ」


 実力で勝てないからね、とアーサー殿下はいう。そう言う倒し方もあるのかと少し感心してしまった。バレッドさんも言ってたもんなあ、父様は政がそんなに得意ではないって。そこをつかれたのか。後は()()くらいのことをしないと父様の地位は揺るがなかったのだろう。やっぱり父様は凄いな。凄いけど、父様の凄さに惚けている場合ではないね。

 

 今回の道筋が少し見えてきたぞ。


「今回の“魔物大挙襲来”も関連していると言うことですね」


「察しが早くて助かるよ、ウィル君」


 アーサー殿下が目を大きくして感嘆する様に、でもその興奮を抑えるように反応する。


「そう。ヴァルヴィデア側は前々王の兄君のおかげでそれ以降の侵攻と国を乱されることを防ぐことができた。その兄君は世間的には表舞台にも上がってない人だ。帝国側も不意を突かれて後手後手、予想外だったろうね。でも、兄君は前々王の不足の事態に備えていたと言っていた。その不当な評価も有事に際しての保険だったのだろう。本当に、侮れないお方だよ。ごめんごめん、横道に逸れたね」


 アーサー殿下は1息整える。


「スタンピードについてだったね。今回については偶然の災害、と捉える意見と魔王国側からの小手調べではないか、とも言われている」


 小手調べ、か。


「もう1つの武の国レガテリアの対応力、そしてマドワキアの総力を知りたかったんじゃないって言われている。今回のスタンピードは災害にしては規模がデカすぎる。人為的なものを疑ってしまう。あの規模はあそこで抑えれていなければ、レガテリアの領域まで侵入され、そのまま都市マドワキアまで半壊するくらいのとんでもない被害が及んでいただろう•••もう過去のことだが、想像すると、いや、想像もしたくないね」


「それでマドワキアの今の力と余力をみて、帝国と魔王国側で堕とす流れだったんですかね•••」


 アーサー殿下は首を振る。


「わからない•••。今回のスタンピードについてはまだ確証がない。でも、そうであったとしても、あの無名の冒険者のおかげでマドワキアの底力を示すことができた。いや、それだけじゃない。マドワキアはどこまで力を隠しているのかと警戒もしてくれたはずだ。だから私はそれほどの力を現すものが現れてくれて嬉しくなったよ。力がある、まだ、戦える準備ができる、そんな力をまだ集まれる、とね」


 防げてよかった、じゃない。王国はその先にこんなことが起きない様に、そして同等なことが起きてしまった時のために準備をしていないといけないのだ。これで終わりではないのだ。たまたま防げたことを、必然に防げるように整えなくてはならない。


 と言っても、アーサー殿下はもうそこまで考えてるのか。王位争い、アーサー殿下のお兄様の騎士を抜きにしても壮絶なものになりそうだ。

 

 でもなんだか危うい気がする。たぶん、アーサー殿下が兄に任せれないと決心したのは本当に最近なのだろう。なんだか焦っている様な、急いでいる様な気がしてならない。なんか顔もこわばってるし。しかも言っていることがアーサー殿下の兄上に寄ってきてないか?力を求めるのは仕方のないことだ。でも、それは道を誤ってはいけない。

 僕がやれることはなんだろうか•••いや、烏滸がましかったね。やれることじゃない。側にいることだ。もちろんそれは物理的なことじゃない。


「アーサー殿下、僕にできることがあったらなんでも言ってください」


「助かるよ。私の騎士としてそれほど心強い言葉ないよ」


「あ、そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、そうじゃなくて」


 僕は1拍置く。


「友達として、だよ」


 あれ、言ってみてなんだけど、なんだかちょっと恥ずかしいな。まあいっか。大切な事だし。

 騎士としてはもちろんだけど、僕と殿下はまだ学生だ。そこは仕事の関係だけじゃなく、それを抜きにした心と心の繋がりを育むことがまずは重要じゃないかと思う。物理的に近くにいるんじゃなくて、心の友ってやつだ。


「殿下。殿下の背中に背負っている重さと、それを背負い歩く道の険しさを僕は想像できません。ただ、重さを僕に投げてくれたり、道の険しさを整えることは騎士として尽力します。でも、それだけじゃなくて、殿下の、学生のアーサーとしての部分は学生のウィルになんでも言ってください」


 もちろん僕だけじゃなくて、オリビアとか他のみんなにも、学友じゃないですか。と付け加える。


 そう。僕と殿下はまだ中学生なんだ。大人になれば抱えきれないものを、誰にも預けずに抱えて持っていかなければならない時があるだろう。でも今はそれこそ、そのどうしようもない事を受け入れる準備の時期だ。その途中で壊れてしまっては意味がない。でも、殿下に今は学生ですから無理をしない様に、と言うのは身勝手すぎる発言だ。アーサー殿下にはアーサー殿下の事情があるからだ。

 それでも、こんなところで急ぎ壊れる人じゃない。アーサー殿下は確実に王の器だ。それも良き王の。


 だからこそ、王位候補の殿下ではない学生の、なんでもないアーサーの部分が王子のアーサーを支えていくことになるじゃないかな?だから殿下には、アーサーとして本音をぶちまけて欲しい。それ受け止めるのは、騎士としての僕じゃなく、学友としての僕たちだ。


「••••はっはっは。君は、本当に面白いね。そうだね。ちょっと視界が狭くなっていたよ。もっと落ち着いて広くみていこう。うん、ありがとう。やっぱり君を騎士にしてよかったよ、()()()


 こわばった顔の殿下はもういない。未来をしっかりと見ているいつものクールな殿下だ。

 待って、結構不届なこと言っちゃったかな?いやいや、そこは平民も貴族も関係ないって偉い人も言ってたし大丈夫だよね?あれ?王族って貴族なのかな?ま、まあ大丈夫だよね。


 少し冷静になると恥ずかしさと不敬さが感じられてどうしようかと頭が高速回転しかけたところで、昼からの授業が始まりそうになる予鈴が響き渡る。


「さあ、学生の本分の授業に勤しもうじゃないか」


「殿下、ちょっとアディみたいな事言ってますよ」


 いつも通りの僕たちだ。そして、このいつも通りをこのまま続けれる様に、その時に備えて鍛錬を積むだけだ。僕には僕にできる事を、だ。

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