第3症 第22話 【そこに名は無い、何でも無い冒険者】
アンオブタナイトランク•••!
僕は足場となる魔法陣を作り、その上に乗り、忍者ハンゾウの元へ浮遊させる。
「お、何だてめえ。足場を持続して浮遊するなんてやるじゃねえか。なんのようだ?」
「貴様、アンオブタナイトランクと言ったな。この魔物の数どうにかできるのか?」
「まずは名を名乗れ。名乗らないやつを信用することはできん」
「俺に、名は無い。そしてそんなことを言い争っている時もない。どうにかできるのかと聞いている」
「はっ!確かにな!この数だ。全てを蹴散らすことはできんが足止めくらいならできるぜ。で、お前は何ができるんだ?」
「30分だ」
「は?」
「30分あれば、こんな状況は簡単に収まる」
僕は淡々と告げる。
僕は名無しの冒険者。何もかもが不明でミステリアスな冒険者だ。ミステリアスとは動揺しない、情緒をつけない、喜怒哀楽しないことだと思う。だから僕は淡々と告げる。
「ぐはっ、グハハハハハハ!お前、威勢がいいな!気に入った!!名無しの冒険者よ、その自信に免じて俺が手を貸してやろう。30分は持つ、だが30分しか持たないぞ。それで何もできませんでしたじゃあ、俺が許さないぜ」
突如放たれるハンゾウからの威圧感。ほお、父様級のプレッシャーだ。それだけでもこの人がどれだけの実力かわかる。ハンゾウはああ言ったけど、少なくとも僕はあなたを信用できるよ。
『広範囲魔法を使う。魔物を食い止めている冒険者は直ちに後ろに引け』
僕は左の人差し指を首に当てて拡声魔法を発現させ、戦場にいる冒険者に響き渡らせる。
見たこともない不明な冒険者からの警告。ただでさえ荒れている現場がさらに混乱した様に思う。ただ、そんな迷ってる時間はない!
『もう1度言う。今こうしててもラチはあかない!!直ちに引けッ!!!』
冷静に、淡々と、無感情に、でも強気に、だ。
前線の冒険者たちは事態を飲み込んだのか、はたまたヤケクソになったのか一体として僕たちの方に引いてきた。よし、いい子だ。
ただ、こうすると•••。
「おいおい、そんなことすると魔物の大群も押し寄せてくるぜ」
そうなんだよね。でもまあ、そういう時は
「なんとかできるのだろ?」
他人頼みだ。
「グハハハハ!!言ってくれるぜ!!!任せとけよ、その目にしかと焼き付けておけ。これが”忍者”ハンゾウの”忍術”ってやつだ!!!」
ハンゾウは人差し指と中指以外を握り、人差し指と中指は立てる。その人差し指と中指を包み込む様に片方の手で握り、またその手も人差し指と中指を立てる。
なんのマネだ?
ただ、それから莫大な魔力がハンゾウから出力される。
前線の冒険者たちはこちらに戻り切れている。ただ、魔物たちももう目と鼻の先だ。その数は視界に覆えないほどの数だ。間近で見るとさらにその量の凄まじさがわかる。
「シャッ!!みんな戻ってきたな!!やあったるぜええええ」
ハンゾウの魔力が収束する。
『『ブッツブレロ』』
瞬間、魔物たちは何かに押し潰されたかの様に体が地面にめり込む。
圧倒的な質量が、魔物たちを襲う。
何だ、この魔法?風の元素に基づいた重力操作系の固有魔法か?いや、体系づけられた魔法の発現はなかった。言葉に反応して、イメージが具現化した様な印象だ。言ってみれば言葉に基づいた何となくの抽象的な魔法•••。
“言霊”か。
遠い東の島国に伝わる伝承魔法。詳しくは知らないけど、舌に特殊な魔法陣を掘り、言葉に反応して魔法が発現すると言った理論だったと思う。資料でちらっとみたことがあるけど、詳細なことはあまりなってないから何とも言えないが、それな気がする。
忍者というのも、その島国に伝わる何かの組織か。
ただ、状況は非常にグッド。魔物は目の前で潰されて止まっている。その重量に耐え切れず絶命した魔物もいる。
しかし、この量の魔物だ。ところどころ効きが悪いところもありタフな魔物は抜けてこようとしている。
「キングゴブリンだ!!」「抜けてくる魔物はそれなりの強さがあるやつだぞ!!」「抜けてこれる理由がある!!」
これだけ抑えても、次は魔物の個体の強さか。だが、これくらいなら問題なしだ。
「オリビエ」
僕が言うのと同時に、オリビアが父様からもらった純白の剣を抜き、迎えうつ。
オリビアの剣撃は1振りで複数の剣が見える、全てにおいて意味のある無数の剣撃だ。
迎え撃たれた魔物はプリンのように抵抗なくバラバラに切られる。すごいな、1振りでキングゴブリンがみじん切りになったぞ。
でもこれで、下はオリビアに任せておけば大丈夫だ。
オリビアの迎撃をみてからか他の冒険者もまとまり、各所で対応しはじめた。
よし、あとは申し訳ないが頑張って耐えてもらう。僕は僕の仕事だ。
『冒険者諸君、30分耐えてくれ』
僕は両手を前に掲げる。この視界に収まり切らない状況で手による位置情報のイメージ化をする。もちろん、手のひらではこの魔物たちの場所は収まらない。だから、指1本1本を手のひらとして使う。
僕は20重の大規模魔法陣を各所に発現させる。それは魔物ができるだけ入る位置、そしてそれぞれの20重の魔法陣が干渉しないように。最大の魔物討伐の結果を叩き出すんだ。その数は合計9つ、20重魔法陣を9つ同時なんてできるのか。いや、できるできないじゃない。やるんだ。もう僕の前で誰もいなくさせやしない。
「なんだこの魔法陣の量!?」「あいつ1人でやってんのか!?」「やべえ、なんかわかんないけどやべえ!!」「でもなんとかしそうだよな!!!」「耐えるぞお前らああああああ」
冒険者たちの士気が上がる。ありがとう。それでこの防衛戦の成功率はほぼ限りなく100%だ。
「数え切れない多重魔法陣かつそれをノナキャストだあ???おいおいおいおい、お前、まじで何もんだ?」
僕は魔法陣をさらに組み立てていく。より強く、より魔力の全てが使われる様に効率よく。
1つずつ1つずつ、取りこぼしがない様に。
魔法陣は完成していく。
もう少し、もう少し耐えてくれ。
「あともう少しだ!!」「あの魔法陣の中にだけは入るなよ!!どんなことになるかわかんねえぞ!!」「んなこと言われても入らねえよ!!」
みんなの士気はまだ萎えてない。オリビアは1人で暴れ回っている。オリビア最強だな。そんなオリビアと目が合う。
(ウィル、頑張って)
オリビアが口パクで応援してくれる。オリビアにそう言われたら、ぶっ壊れるほど頑張れる!
魔法陣は完了。
『広範囲魔法を発動する。魔法を発現しても気合いで立っているんだぞ』
僕はみんなに呼びかける。
「お優しいこって」
「お前にも言ってるんだぞ。アンオブタナイトランクの”忍者”よ」
僕は全ての魔法陣に魔力を注ぐ。
「!?」
ハンゾウはガクッとなり地面に落ちそうとなる。しかし何とか踏ん張り、僕のちょっと下くらいで止まっている。そして下にいる冒険者たちもばたばたと倒れている。
だから言ったじゃないか。気合いで立てって。だってそうだろ、こんな大規模の魔法を発現させたら魔力場の干渉はどうなるか僕にもわからないんだぜ?
まあ、それほど順調に発現していってるってことだ。
「さあ、止まれ」
魔法陣に僕の白色の魔力が流れ、その魔法が発現する。
生きるものの活動は熱量だ。この魔法陣はその対象となる熱量を削ぎ取る。それは魔法陣の上の空間ごとだ。
空気は凍てつき、魔物だけでなく、その上にあるすべての生命活動までもが凍りついていく。
そこには大きく広がる、まるで1つの氷のオブジェが出来上がる。何ひとつ動くことのできない、氷の国だ。
だが、まだ終わりじゃない。
その削ぎ取った熱量がまだ魔法陣中央に留まっている。
「さあ、弾けろ」
僕は指をパチンと鳴らす。
瞬間、熱量は魔法陣の真ん中で大爆発。大きな衝撃波となり、氷の国を弾け飛ばした。
一瞬の静寂。
あれだけいた魔物の大群がいた場所には、魔物だと思われる氷の残骸が転がっている。
それでも逃れ、生きている魔物はいるがもう少数だ。あとは個々に対応できるほどの数。みんなで対処して今回の依頼は終了だ。
魔力がごっそりなくなった感じがするけど、まだ魔力は全然余裕がありそうな気がする。ただ、疲労感が半端ない•••。魔力欠乏ではないけど大量の魔力を消費した魔力消耗症な気がする•••。
でも、とりあえずはなんとかなりそうでよかった。
「お前さん、本当に何もんだ?」
みんなの元に参戦しようと地面に降りていく途中で、魔力酔いから戻ったハンゾウが再度訪ねてくる。
「だから言っているだろう。俺に名は無い、とな。何でもない新米冒険者さ」




