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第3章 第21話 【魔物大挙襲来】

(ねえ、ウィル。スタンピードってなに?)


 オリビアが小声で僕の名前を呼んで僕に聞いてくる。名前がない設定についてしっかりと守ってくれてる様だ。巷ではここだけの話なんだけど、といってここだけの話が繰り返されて全土に広がる法則がある。ここだけの話はもうここだけの話ではないのだ。ありがとうオリビア。僕は今、名も無き冒険者だからね。


「”魔物大挙襲来(スタンピード)”、大量の魔物の集団がなんらかの原因で同じ方向に押し寄せることだ。災害から逃げる際なのか、何かしらの意図気的な要因なのか、どちらにせよこの時の魔物はパニック状態で手をつけられない。それが”魔物大挙襲来”だ。魔物が暴れながら移動するためにこちらも大規模の対応措置を取らなければひどいことになる。おい職員、規模はどんくらいなんだ?」


 僕はぶっきらぼうに聞く。こんな突き放す言い方はしたくないけど、これも冒険者で上になるためだ。心の痛みは十分に受け入れよう。


「なんだ君たちは!?他所の冒険者か!?」


「あ、えっと!この方達は今日冒険者登録をしようと来てくれた方です!」


 シンリアさんが現実を受け止めてこちらの世界に帰ってくる。飛び込んできた職員に僕たちのことを説明してくれる。


「そうか•••それは運が良かったのか悪かったのか•••。君たちも参加できるなら参加してくれ。そこで功績を上げればランクを飛び級して登録しよう。規模の話だったな、規模は”都市壊滅級”だ。とんでもない量の魔物が押し寄せてくるらしい。まだ魔物の森からは出てきてないがそこから出てくるのもジキだ。そして進行方向はマドワキア連合王国側との報告、時間は半日くらいは猶予がありそうだが、ここからでは至急に向かわないと間に合わん!だから用意ができてるならすぐに行く準備を!!」


 職員の人は他にもやることがあるのか、ざっと説明すると部屋から出ていった。

 

 外でも警報が鳴って、拡声魔道具で”魔物大挙襲来”の発生、冒険者の招集などのアナウンスがされている。”魔物大挙襲来”、知識でしか知り得なかったけど大変なことだな。国家総出で対処になるとはな。


「お、お二方はどうされますか?正直、この依頼はだいぶ骨が折れます•••。もしもあれなら、まだ冒険者に登録していないので参加しなくても」


「やる」


「え?」


「もちろんやるぞ。こちとら準備はできている。早速行くぞ、オリビエ」


 僕はバッと防具をはためかせ立ち上がる。うん、この動作に特に意味はない。強いて言うならかっこいい。


(ウィル、明日学校だけどいいの?)


 はにゃ?そういえば役に入り込んで全く現実を顧みてなかったけど、僕たちは学生じゃないか。明日ももちろん学校がある。え、どうしよ?


「シンリア嬢よ、ここからレガテリア王国まではどのくらいでいける?」


「ぼ、冒険者ギルド専用の道をノンストップでいくので半日もかからないくらいですね」


 いく気満々な僕たちに若干引き気味のシンリアさん。

 半日かあ。うまくいっても帰るのは早朝になるのかな。ええい、考えるのも面倒だ。何とかなるだろう。


「オリビエ、世の中には『まあなんとかなる』という有力な言葉がある」


 ええええ、まあなんとかなるかあ、とオリビアも何だかんだ行ってみたいらしい。本気で嫌がるならオリビアはまじで止めにくるからね。よーし、”魔物大挙襲来”、やってやろうじゃないか!



 僕たちは本当に半日経たないくらいでレガテリア王国の外れの荒野まできた。僕たちを引いてくれたのは手名付けられたレッドホースという毛並みが赤茶色の魔物の馬だった。身体強化の魔法が発現されているのか、とんでもないパワーとスピードで引っ張られて移動した。移動中吹っ飛ぶかと思ったし、吹っ飛んだ冒険者もいる。貫禄ある冒険者曰く、こんなことで飛ぶやつは最初からいらない、とのことらしい。いや、そこは頭数に入れられるなら入れた方がいいんじゃないの?


 そして着いた荒野は、とんでもない数の魔物と人が犇めき合う光景だった。

 

 声にならない声、指示なのか叫び声なのか判別できない怒号、魔物の叫び声。そして、魔物のなのか人のなのかわからない潰れたり破裂したり弾けたりする破壊音。血と、舞った砂煙や摩擦で焦げた様な匂いが合わさった匂い。


 戦場の空気だ。


 悲惨な、光景だ。


 僕たちがいる場所と、目と鼻の先、と言うわけではないけど遠くもない。その現状がしっかりと伝わってくる。


 他の冒険者はその光景を目の当たりにして、少し立ちすくんでしまう。


 オリビアは、オリビアは大丈夫だろうか。


「ねえ、大丈夫•••?」


「うん•••ちょっとむかむかしたけど、大丈夫。ここでわたしたちが阻止しないと、もっと大きな被害になっちゃう。そう思うとそれを食い止めれる冒険者って良い仕事だね。あと」


 設定忘れてるよ、ウィル。と僕の耳元で冗談ぽく呟くオリビア。全く、オリビアは強い。それは実力だけじゃなくて心も。よし、大丈夫だな。


「ふっ、ならば良い。オリビエの言う通り、何とかしないと更なる被害が出るのは確実だ」


 どうする?魔法でこの辺一帯を吹き飛ばしてもいいけど、それには今食い止めてる冒険者たちが確実に巻き添えになる。でも、この魔物の量は広範囲魔法じゃないと個々で対応するのは困難だぞ。


「これ俺たちだけでやるのか!?」「魔物の量がエグすぎる•••」「レガテリア王国の騎士は来ないのか!?」


 魔物の全体量を見て慌てる冒険者たち。


 レガテリア王国の騎士は来ないだろうな。王国から少し離れているし、防衛線もこの辺じゃない。あまり望めないだろう。


「お前ら!狼狽えるな!!こんなところじゃレガテリアも管轄外だ!!レガテリアの騎士はこれん!!」


 突然の号令。上空を見ると人が1人浮いている。


 黒尽くめの格好、頭は頭巾の様なもので覆い、口も布で隠されている。纏っている服は腰の帯で固定されているだけ、靴は親指と人差し指が分かれている靴下の様な靴だ。 


「俺は”忍者”のハンゾウだ!!俺がまずは魔物の侵攻を止める、手伝えるやつは手伝え!!」


 “忍者”のハンゾウ?


「おいまじかよ•••」「アンオブタナイトランクの”忍者”だ•••」「俺、初めて見たかも」「アンオブタナイト級が出てくるくらいの規模ってことか•••」

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