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第3章 第19話 【冒険のはじまり】

 後はそうだなあ•••とりあえず防具屋に行って膝下くらいまで隠せれる布切れを買おうかな。

 僕は仮面を取る。


「じゃあオリビア、後は防具用で布切れを買っていいかな?」


「いいけど、そんなもの防具になるの?」


「簡単な付与を僕が施すよ。それで普通の防具くらいになると思う。でも、魔力反応型だから魔力を通さないと意味がないから気をつけてね」


 魔力親和性が高い素材なら付与の魔法陣を組み立てるだけで、素材が反応し勝手に付与が発現する。でも僕たちが使うのはただの布切れ。魔力親和性もへったくりもないので自分で供給しなければならない。まあ、ただの体隠しみたいなものだからあれば良いのだ的なやつだ。それ以外だと制服しか無いし、王立学校の制服なんてここではすぐにバレるだろうし。だから体が覆い被さるほどのマント的な布切れを買って、下にはなんでもない動きやすい服を着とけば解決ってわけだ。


 今時刻は夕方に差し掛かっているので冒険者ギルドに行くのも遅いし、付与の魔法にもちょっと時間がかかるし、今日は寮にこもって付与の魔法を施して明日ギルドへ受付しに行こう。学校は週休2日制のために明日も休みなのでちょうど良い。

 

「よーし、じゃあ今日はもう帰ろうか。また明日オリビアに付与付きの布切れ防具渡すね」


「ありがとう。明日は朝から行く?そうしたら受注も見れるし、できるものがあればそのままその依頼をすることも体験できるしどうかな?」


「確かに、オリビアの予定で行こうか。じゃあ明日は朝集合で!誰かに見られるのも嫌だし稽古場に集合しよう!」


 くぅ〜。誰にも見られないにしなければならないのは、正体を明かせない冒険者の辛いところだ〜。


「なんかウィル•••また設定にのめり込んでない?」


 はて、何のことやら。まあとりあえず今日は付与だな!


 僕たちは武具防具屋に入りオリビアの何でもない細剣と防具用の布、というよりやや耐久性に優れた1番安い魔物の皮を買った。お金はオリビアとの折半だ。ここは男の子の僕が一括で奢るかっこいい紳士な姿をオリビアの脳裏に焼き付けて置きたいが、いかんせん僕もオリビアもそんなにお金を持っているわけではない。今はお互いの両親からの餞別のお金と、月替わりの時での両親からのおやつ代くらいの仕送りしかない。なんか他の貴族の生徒はいっぱいもらってるらしいけど。まあ、オリビアとそんな苦労のやりくりするのも思い出の1つだ。お金があればやれることが増えるのは事実だけどね•••とほほ。その分オリビアとの濃密な思い出を形成しよう。それはお金には変えられないものだ。お金じゃあ買えないものはたくさんある。うんうん。



 さてさて。


「早速取り掛かろうとしようか」


 今日買ってきた布のような皮を、備え付けの勉強机に広げる。


 どれどれー?僕に見せてごらんー?


 僕は手をワキワキさせて素材を嘗め回すように見る。今僕は狂気のマッドサイエンティストだ。


「いかんいかん。ではなく」


 付与をつけるために素材の魔力の波長を探るのだ。ついつい変な設定にのめりのめり込んでしまったな。


 はあー、なるほど。めっちゃくちゃ安い素材だったけど、さすが魔物の素材だけある。魔力親和性は普通の何でもない素材に比べると段違いに良い。まあそれでも安物だから父様から貰ったような素材のものに比べると遥かに劣るけど、それは比べる対象がおかしいか。


「まあとりあえず魔力を通してみて実際の親和性はどれくらいかやってみるか」


 これは文字列や魔法陣に魔力を流す要領で素材に魔力を通すだけだ。もちろん素材には何も無いから何も起きない、けど()()()()()方っていうのが何となくわかる。すっと通っていけば親和性はいいし、父様がくれた龍のような極上の素材なら魔力がもはや吸われていくような感じだ。逆に、岩にあたるようなとか、歯に何か詰まっていてなかなか取れないみたいな感覚の場合は親和性が悪いと言える。

 

 この素材は•••へー、なんだろ、あの店のおっちゃんは魔物の素材としか言ってなかったけど、色んな素材を混ぜて作ってるのかな?良い素材をところどころに散りばめている、というよりかは魔物の素材は使ってるけど、他の普通の動物の素材を使ってかさ増ししていると言ったような•••なんか通りは悪くは無いんだけど、所々に魔力が寄り道して行って魔力が部分的に発散されてしまう。


 まあ値段と合わせるとこんなもんか。むしろあの値段で魔力の通りが良いことは、とてつもない良心的と思われるような気がする。相場がよくわかんないけど。


 よしよし。魔力親和性はだいたいわかったぞ。後は付与を施すために魔力が寄り道しないように魔法陣を組み立てて、と。

 この素材自体に流れている魔力を読み取り、その流れに反しないように付与の魔法を選定する。この流れを波長を探る、というらしいけど、知っていてコツさえ掴めば意外とできる。じゃあなんで付与師が少ないかというと、やはり、その方法があまりにも流通してないからだ。これは付与師の中での職人気質な伝統なのだろう。言い伝えで残し、記録としては残されていないのだ。僕は母様が持っていた付与の数少ない論文をみて、それでも全然詳細なことは書かれていなかったから何度も試しまくって今に至っている。本当に僕の付与魔法は正しいかわからないけど、まあ付与できてるからいいかなと思っている。


 あー、1回製造の天才でもあり、付与の天才集団でもあるドワーフに会っていろいろ聞きたいなあ。本物の付与と言うものを見てみたいものだ。



 翌日、僕は付与を施したなんちゃって防具を持って秘密の稽古場にきた。

 

 とりあえず防具を着てみる。

 体に巻き付けるように着る。皮だけど、重みはそんなにない。布ような皮のような、合皮のためか、むしろ軽みがあるくらいだ。フードのようにも使え、また口元も隠れ頭の先から膝下まですっぽりと覆ってくれることに少しの安心感も生まれる。色は黒、仮面は無機質な白の無地であり、仮面が深淵から覗いているようで不気味さも生まれる。うん、実に良い。正体不明の名無しの冒険者にぴったりな格好だ。


「ウィルお待たせ。それが昨日のやつ?そんなふうにすっぽり着るんだね。動きにくくない?」


「僕は素手だからね。はい、これオリビアの」


「そっか。私は剣だからマントのようにして使おかな。どういう付与にしたの?」


「ありったけの『強化』だよ。オリビアと僕は、父様の言葉を信じると、ある程度は捌けるってことだから致命的な、瞬間的な一撃を耐えれるようにしたんだ。ただ付与を発現させるとその強化の歪みでこの防具は素材が硬くなる。だからやる時は本当に防御のときだけと思ってて」


 オリビアはなんちゃって布皮防具をマントのようにして羽織る。口元と胸は隠れているがそれより下は手が出せるようにはだけているような感じだ。


「なるほどね。確かに素材がなんか動かせづらいというか、可動性がすごい悪くなった気がするよ。本当に防御用って感じだね。ありがとウィル、大事に使うね」


 ニコッと、オリビアが微笑む。


 カッッッッッッッ。


 その笑顔が見れただけで付与をつけた甲斐があったよ•••。


 ふぅ。もう少し、オリビアの笑顔の癒しの余韻に浸りたいけど、準備もできたし行こうか。


 僕は仮面をつける。


「準備は整ったな。では行こうか、オリビエ。冒険というその未知の先へ」


 本当にそのキャラで突き通すの?とオリビアは呆れ気味にもはや受け入れている。勿論だとも。これが浪漫であり、浪漫を追い求めるのが冒険者だ。


 さあ、冒険の始まりだ。

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