第3章 第17話
虚実•••。
「なんとなくはわかるけど、師匠それどんな感じでやってるの?」
「細かく言えば虚実はいろんな考え方があるんだが、私のはお前たちが言う様に意識外か内か、だな。どんな時でもぼーっとする時があるだろ?そこを狙っている、そして、相手を無意識にその状態にしているって感じだな」
「なるほど。だから父様の剣が、存在自体が希薄だったのですね」
「ああそうだ。だからこそ、ウィルたちは常に意識外の状態に置かれる。”抜かれの状態”ってやつだな。今、私は昔に、いや、それ以上に感覚を戻したくてな。とりあえず今は希薄な状態をずっと維持しているところだ」
これでもまだまだなのか。普段の圧が強い父様の剣と今の希薄な剣が合わさったら、それだけでも本当に手をつけれないだろう。
「うむ、お前たちの意識外に潜り込めてるのは順調だが、私もまだまだだな。まぁ今の私のことを教えれるのはこんなところまでかな。ではお前たちへのフィードバックをしようとしよう」
「はいはい!わたしはどうだった師匠!?」
「オリビアはさすがの無駄のなさと言ったところだな。故に、その剣筋に全ての意味を込められる。だがその剣に意味を込められるレベルにまだ至っていない。その課題を乗り越えられた時、オリビアも”真”へと辿り着くだろう」
父様はやるべきことしか言わない。こうしたほうがよい、とか、こっちにするべきだ、とかは言わない。人はそれぞれ身体の違いがあるし、そう言うことに意味を見出せないことをしっかりわかっているからだ。父様はその人が望んでいることを理解し、その道へと誘導してくれる。
そして、オリビアのレベルはすでに皆伝の域は超えている。さらには完全に自分の型を確立している。あとはそれを実戦に昇華し、まずは”真”へと至れ、ということだ。
「はい!ありがとうございます!」
オリビアは父様と久しぶりに稽古ができて、結果が残せなかったことに悔しさは残っているけど、満足の様だ。
「次はウィルだな」
ごくり。
「”真”への到達者だけあって、レベルはその歳にして遥か高みにいるな。ホグン村での私を倒すほどだしな、恐らくウィルに敵うやつは、上を見ても今の時点でもほとんどいないだろう」
僕は黙って父様の言葉を聞く。
「だが、まだそれはサシでの話だ。もちろん戦いは1対1だけではない。しかし、ウィルも何か工夫している様に思える。魔力の使い方が変わってる気がしたが、それはそれを想定しての変化か?」
「はい、そうです」
まだ全然ぬるっとでダメだけど。
「ならば良い。しっかりと自分の立ち位置がわかっておるな。そのまま突き進め。だが、お前がいく道は王の道だ。王となれる器の騎士となるなら、お前は生半可な強さではダメだ。誰よりも強く、ただその強さは何よりもを圧倒してなくてはいけない。ウィル、お前が王の器を持つ王子を支えるなら、負けるな。誰にも負けない強さを身につけろ。この私にも負けない力を、な」
父様にも負けない力•••。今もどんだけ差があるかわからないのに。でも、そうだ。王子を守るなら何よりも、何からも守らなくてはならない。それが父様並みの力量のものであろうとも。僕はこの先の型は決まりつつある。今日も試そうと思ったけど、魔力コントロールがまだまだだ。試すにも至らなかった。僕はもっと、強くならなくちゃあダメだ。
「ただ、2人で稽古するにも限界がくるだろう。成長の速度も緩やかになるかもしれん。今2人ともは戦力としては申し分ない。だが、足りないものがある」
「「経験」」
僕とオリビアがの言葉が被る。そうだよなあ。僕たちに足りないのは圧倒的な実戦の経験だ。
「そうだ。圧倒的に実戦経験が足りない。2人とも免許皆伝しており、ウィルに至っては”真”に到達しておる。2人の稽古は”死の体験”ができるほどのものだ。しかし、実戦の空気感、経験外からの予測不能な出来事への一瞬での対処、実戦は明らかに情報量が違う。その経験が成長に、自分の限界を越える糧となるのだ」
全くもってその通りだ。
「そこでだ。ウィルがちょろっと手紙に書いていたが、冒険者、とてもいい案だ。冒険者に今すぐなり、経験をつめ。もちろんなりたては冒険者としてのランクも下の下だ。でもお前たちの実力ならすぐにトップまで上り詰めるだろう。冒険者として積める経験を全て積むのだ」
アーサー殿下は今後どういうプランなのだろうか。王の継承権の争奪戦は一体いつからなのだろうか。僕はある程度、学校が落ち着いたら冒険者になろうと思ってたけど、確かにのろのろしてる時間なんてのはないかもしれない。今できることを、やれることをやっておこう。
「ウィル言ってたよね。冒険者楽しみっ。ウィル、一緒に頑張ろ!」
オリビア大好き!
「うむ、いい関係だな。これからもお互いに切磋琢磨するように。今日は久しぶりにウィルたちと稽古できてよかった。とても有意義で楽しい時だった。私はまだひと月は都市マドワキアの近くにいるから、また何かあったら言ってくれ。そしてまた稽古をしようじゃないか」
ハッハッハと父様の笑い声が響く。
「父様、僕も楽しかったです。僕も強くなります!次に会うときは僕も、オリビアも、もっと強なってます!」
「師匠ありがとう!また稽古しよう!」
よし、冒険者の手続きでもしようかな。そんでもって、冒険者の手続きってどうやるんだ?
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帰り道がてら、帰るときは急がず、歩きながら父様に冒険者になる手続きを教わった。まずは街に冒険者ギルドと言われる冒険者を束ねる組織がある。そこにいき、冒険者になりたいって言って手続きをするらしい。
うん、すごくわかりやすい説明だ。
「ただな、冒険者とは所謂何でも屋だ。そういう理由で冒険者になるやつは来るもの拒まずで受け入れる。しかも結果を出せばある程度のことを許される。だからお金がないやつ、知性はないが腕っぷしはたつやつ、わけもわからず冒険者をしてるやつ、言うなれば元は荒くれものの集まりみたいなものだ。ウィルたちは絶対に見た目で舐められる。嫌がらせもされるかも知らん。特にオリビアなんて見た目がいいもんだから目をつけられるだろう」
「ふん、もう同じ遅れはわたし取らないよ!そんなやつギッタギタにしてやる!」
「それはいい心がけだ。まあ絡んでくるやつは力を誇示したい井の中の蛙のやつが大体だ。強くてもお前たちの足元くらいだろう。強いやつはそんな無駄な絡みはしてこん。しかもお前らの動きを見ればただものじゃないってことはわかる。それでも絡んでくるやつは強さに飢えたハイエナだな。そんなやつが絡んできたらそもそも周りから誰もいなくなるから無視すればいい」
本当に強い人ってのは自分の力は隠すからね。それかペテン師で自分の強さをわざと強い方か弱い方にミスディレクションするかだ。だから、強さだけの世界でアホみたいに力を誇示してきて上から圧力をかけてくるやつは、所詮それだけってことか。
「だが、用心に越したことはない。そして、そういう組織だったところは最初が重要だ。顔の判別は不明、しかし醸し出す雰囲気は異常、それだけで人はひと目おき、力量も誤ってくれる。まあ後はギルド側から見た目で昇級が見送られるかもしれんからな。とりあえず手っ取り早く上がるためにも見た目は隠しておいた方が良い」
確かに!
「子供ってだけで危ないからもう少し上のレベルは様子見ましょうとか言われそうですもんね」
「ギルドに登録する上で身元を保証するものはいらんからな。見た目さえ誤魔化しておけば実年齢もわからん。ギルドのスタンスは自己責任、制限する理由が明確になければ力量通りのランクに昇格していくはずだ」
「制限させる理由を最初に作らなければいいということだね、師匠」
「そういうことだ。この都市にもギルドがある。そう言ったことを考慮して、色々と段取りを整えて行ってみるといい」
どうしようねー?とオリビアと相談し合う。なんだか悪巧みしてるみたいで楽しい。自分の強さがどれほどのものか、試せられる。そう言った面でも楽しみだ。そうだ、強さといえば。
「父様、単純な疑問なんですけど、武の国とマドワキア中央騎士団ってどっちが強いんですか?」
父様はニチャア、と笑う。え、怖いんですけど。何かスイッチ押しました?




