第3章 第15話 【稽古】
1日、2日と経ち、今日は待ちに待った父様との約束の日。
昨日は楽しみで夜でも目がギンギンになっちゃってたよ。ちょっと余裕もって昼にしたけど、なんだかずっとハイな気分でおかしくなっちゃいそう。
「師匠久しぶりだなー。なんか、そわそわするね!」
「僕は、わくわくするって感じかな!」
2人思い思いの感想を口にしあう。それだけ父様が待ち遠しかったってやつだ。
さて、父様が指定した場所は大公園。僕たちも大公園に来て父様を探しているのだが、こっちが指定した時間にそろそろなりそうなんだけど未だに父様の姿は見当たらない。はて、どこにいるのやら。
「師匠いないねー」
「父様は脳筋だけどきちっとした人なんだ。だいたい約束は守ってくれるし、そもそも目立つはずだからわかるはずなんだけど•••」
父様は姿形がすごい目立つってわけではない。そりゃ顔は僕から見てもイケオジではあるんだけど、背が飛び抜けて高いとか、そういうのではない。ただ、いるだけでわかる圧というのがある。おそらく父様は自分の実力を隠していないのだ。歩き方、気配の探り方、立ち位置でどうにも強者としての圧が出てしまうのだ。そういう意味では目立つはずなんだけど•••。
大公園を再度見渡す。そこに父様の気配はない。でも、なんだろう?
おかしな感覚がある。
なんだ?人の気配はない、なのに魔力は感知できる。まるで人の形をした魔力が浮遊しているような•••。
違和感。非常に違和感だ。誰もいないのに足音が響き渡るような、そんな不気味な現象の中にいるようだ•••おかしい、何だかおかしいぞ!
魔力感知を最大限に発揮、僕の後ろに近づく魔力あり。
反射的に、首が勢い余って一回転するくらいの勢いで後ろを振り返る。
「おぉ、ウィル。やるなあ。それは魔力感知か?魔力操作は専門外だからなあ•••なんにせよ、2人とも久しぶりだ」
「父様!?」
「師匠だ!お久しぶりです!」
父様の気配•••全くなかったぞ。しかも父様、なんか雰囲気が変わった?
前までの父様はあっけらかんとした、豪胆な雰囲気だったけど、今は静かに、まるで水が流れるままに身を委ねているような全く覇気のない自然体だ。ただ、その奥には今まで通りの父様の豪胆な剣士の闘気が見える。それは濛々と燃える炎ではなく、青くひっそりと燃え、しかし温度は1番燃え上がっているような静的な獰猛さだ。敵に回すと力量がわからずに、その見誤りを見抜かれ一瞬で食い殺される、1番やっかいなタイプだ。
「師匠なんか感じ変わったね?」
「父様、どうされたんですか?」
「なあに。ちょっと身体を昔に戻しつつあるだけだ」
この父様、全く底が見えない。前で化け物だったのに、まだ先があるのか?
僕は無意識のうちに唾を飲み込んでいた。これは強者に対する緊張か、それとも強者に対する武者部類の一種か。
「父様、今日時間があれば、稽古をしませんか?」
自然と口に出た言葉は、どうやら後者だったようだ。
「ふははは。ウィル、交戦的興味心は嬉しいが、まあ、まずはお互いの近況について話し合おうじゃないか。その後で、稽古をしよう」
と、危ない危ない。父様の力に貪りついてしまった。冷静冷静。すぐ目の前にご馳走が来ると熱くなってしまう。わんわん状態だ。
「ウィル焦りすぎ〜」
オリビアに笑われてしまった。ふん。なによう。
「そんな笑顔が可愛いオリビアが見れてむしろ焦った甲斐があったもんね」
そうするとオリビアは顔を赤らめて俯いてしまった。えっと、ちょ?
オリビアも中学生、どんどんと年頃の子だ。こんな軽い発言でも気まずさというのが出てくるかもしれない。僕はまだまだガキってことか•••。
なんだか気まずい空気が流れたところで、父様がま、飯でも食いに行くか!といつもの豪胆さで場が和らいだ。グッジョブ、父様。
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大公園からちょっと離れて、奥まった路地にある定食屋に来た。個室と区切られていない机と椅子だけの空間があるけど、父様の行きつけらしく、僕たちは個室で食事となった。
「ウィルが面白そうな話を書いてたからな。それを聞きたくてな。個室の方がいいだろう?」
おいおい父様、気が利きすぎでしょ。これが大人のエスコートってやつか?
「というか、2人とも特撰クラスで周りは有名貴族ばかりだろう。その子たちとの話は国家機密レベルの話もぽろっとたくさん出てくる。そういう世界だ。だから信頼できる誰にも聞かれない場所ってのを用意しておくと便利だぞ」
なんかあったときは私の名前を出してここを使用しなさい、と父様は提案してくれた。なるほどなあ。そんな配慮も必要なわけね。位が高いってのも大変なんだ。殿下はあえて大公園でしてたけどね。もしかしてあれは僕を試していたのか?ノンノン、邪推はよそう。今はビジネスパートナーなのだからね。
「ありがとう師匠。なんだか悪いけど、もし何かあったら借りさせてもらうね!」
「よーし、まあご飯でも食べながらみんなの学校生活について聞こうかな」
それから僕たちはお互いの生活についての話に花が咲いた。ちょっと会ってないだけでこんなにも話すことがあるのか、と思うくらいには花が咲いた。毎日一緒に住むってのは小さな思い出の積み重ねなんだなあ、とちょっと感傷的にポエミーになっちゃったり。
僕はアーサー殿下の騎士になったことについて改めて報告。父様は手紙で知ってはいたけど、やっぱり少し驚きを隠せていなかった。いや、僕も未だによくわかってないけど。
その後は友達のアディの話、オリビアの授業などの初めての学校生活の話、などなど僕たちの話。それからは父様の話と色々話しまくった。
父様はとりあえずヴァルヴィデアに戻りつつある生活をしていて、今はその途中だという。色々あるのでゆっくりと帰って行っているらしい。その際に自分で色々稽古しているらしい。
「さて、そろそろ食事も終わったし、2人の元気な話も聞けたし、外に出ようとしようか」
つまり!
「稽古ですね!父様!」
「久しぶりの師匠との稽古、腕がなるよー!」
わっくわく〜。
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「ほう、ここがウィルが見つけた秘密の稽古場か。中々に、良いところではないか」
そう言って父様は息乱れぬ、涼しい顔をして稽古場を見渡す。おかしいな、僕とオリビアと父様は走ってここまで来た。僕とオリビアは息を荒らげている。でも父様はなんとも無さそうな、ふらっと立ち寄ったような具合だ。ホグン村での稽古の時もそうだったけど、最初の頃は僕が身体強化かけてるのに父様よりも僕の方がへばりそうだったもんなあ。単純に力の使い方と抜き方が上手いのだろう。そこは経験もあるだろうし、まだまだ僕の成長課題だ。
でも僕だって。
「ふうううう。よし、大丈夫です」
荒れている呼吸を一瞬の間があれば整わすことはできるようになったんだぞい。
「ふぅ。わたしもおっけーだよ」
1呼吸遅れてオリビアも復活。まあ、この息を整えるのは元からホグン村でぶっ倒れるくらいの稽古してたし、意識して練習すれば僕もオリビもいつの間にか使えるようになってた。でもオリビアは早すぎでは?最近だよね、この走っていくのやり始めたの。恐ろしい子だぜ。
「ほう。2人とも逞しくなったな。これは稽古も楽しみだな。さあ、どうする?いつもはオリビアが先だったが、いつも通り行うか?」
僕は今の父様と初見で戦いたい!
「オリビアごめん。僕が先にしていい?」
「いいよ。ウィルずっと師匠との稽古待ちに待ってたじゃん。べんきょーさせてもらうよっ」
オリビアだってずっと楽しみにしてたくせに、空気を読んでちょけてくれちゃって。くぅ、ありがとうオリビア。愛してるぜ。
じゃあ早速、父様との稽古を始めようかな。
僕たちはお互いに、いつも通りにいつの間にか間合いをとり、構え合う。




