第3章 第4話
今は各クラスがそれぞれの教室に戻ろうとしている時。出口に引率の教師が待機しており、出口まで各クラスの生徒だけで移動する。人が多すぎるのでこの時間帯は僕たち中等学校の新入生特選クラスと、ばったり鉢合わせたことから高等学校の新入生特撰クラスの移動する時間。だからこの2クラスしかここにはいないわけだけど、まだ他にも生徒たちがいるし他の生徒たちが来たら恥ずかしいから早く教室へ移動したい。ただ、
『喧嘩は全て買う、だ!』
父様のアドバイス、この人も何か思いがあるのかもしれない。でも粛清はされたくないな。
「君は誰だい。法律ってのが世の中にはあるんだ。僕のことを勝手に粛清しないでくれ」
とりあえず拒否してみる。
「はっはっは、面白い人がいるね」
また別の生徒が前の方で笑って語りかけてくる。あら?この人は、僕たちの新入生代表の男の人じゃないか。アディみたいに背は高くないけど顔は爽やか系の美形だ。アディは爽やか不思議ちゃん美形だけど、この人はなんだかお人好しの美形って感じだ。なのになぜだか存在感のある発言力がある。
「ホークレンドニクス家のものよ。ここは2つのクラスしかいないがまだ移動中の時間帯だ。他の生徒に迷惑がかかる。とりあえず移動しようじゃないか」
「あなたは•••。それでも、この庶民のシャーリー様にかけた不敬は許されることではない。ただあなたの顔を立てて早急に終わらせてやろう」
そういってサムエルなんとかは胸ポケットにあるハンカチを僕の下に投げ落とした。
「拾え、庶民。決闘だ」
決闘、か。
僕は魔力を練り上げる。
「力比べや喧嘩くらいならいくらでも僕は買うよ。でも、決闘は好きじゃない」
決闘は僕たちだけの問題じゃない。決闘はただの喧嘩じゃないからだ。決闘は公な戦いなのだ。それぞれの名を賭け、戦いあう。つまり、負けたものは個人ではなく、その名に負けを背負うのだ。それが名がある貴族なら、一族が負けるということだ。
僕は魔力をさらに練り上げていく。
「僕が負ける分にはいい。僕自身が負けの対象だからだ。だが君が負けたら君の家族は、一族はどうなる?」
それこそ、魔力場に干渉するくらいに。
ぐらっと、周囲にいた生徒たちがその魔力場の干渉に耐えれずよろける。
「!?」「嘘、でしょ」「魔力酔い•••」「た、ただの中坊1年だろ?」「なんだよ、この魔力量」
「•••」
「へえ•••本当に面白いね」
新入生特撰クラスの代表であるシャーリー姉様はぐらつきはしないものの、姉様でさえ冷や汗をかいている。僕たちのクラスの代表もなんとか耐えてるって顔だ。
「ッ!!」
サムエルなんとかに至っては膝が折れてしまっている。おい、君はそれでいいのかよ。
「家族が、一族がバラバラになることだってあるんだぞ。君はその覚悟が、度量があるのか?言葉に責任を持てよ、貴族」
僕の父様は気合いで魔力酔いを克服してたぞ。そりゃ歴戦の戦士である父様と比べるのは可哀想だけど、でもなあサムエルなんとか。そのなんとか家っていう歴史ある名前を持ってても膝が折れてちゃあ、守れるものも守れないぜ。気合い見せてみろよ。
僕はさらに魔力を練り上げようとしたが、出口付近で動く気配が2つ。出口で待機してた各クラスの引率の教師かな。ここらへんが引どころか。
「サムエルなんとか、その覚悟ができたらまた決闘を申し込んでこい。その時は、僕も相応の覚悟を持って申し受けよう。それまでにそのハンカチは胸にしまっておけ」
僕は魔力を発散させる。
その場の魔力場は元通りになり魔力酔いを起こしていた生徒たちも元通りになる。
ふむ、サムエルなんとかの思いがわからないままになってしまった。まあ、覚悟を持ってきたらまたその時に聞こう。その時が彼の本音でもあるだろう。
「•••ホークレンドニクス家って言うのは代々騎士の家系だ。彼の父親も王国騎士団の隊長の1人だ。そんな家系の環境で育った彼は決して弱いわけではない。オリビア君、ウィル君は一体何者なんだい?」
「すごいでしょアディ。うーん、ウィルはね、ただの家族思いの優しい人だよ」
教師たちが来た時には何事もなかったように、僕たちは教室へとそれぞれ案内された。
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「君、ウィル君?で合ってる?初めまして」
あれから教室へ着いて、少しの休憩時間が与えられた。正直あんなこともあったので教室の雰囲気は異様な空気となっていた。特に僕とその親しいオリビアとアディが浮いていた。ごめんよ、巻き込んじゃって•••。しかも今年の中等学校の特撰クラス1年生に一般枠の生徒は僕たち3人しかいないことも浮く原因ともなっている。
そうやって浮いている3人の一般枠の僕たちが固まっていると、先ほどの中等学校新入生代表が話をかけてきた。
「えっと、ごめんなさい。僕、貴族には疎くて。あなたはだーれ?」
アディはギョッと僕の方を見る。いや、知らないから仕方ないじゃん。てかなんでアディはそんなみんなのこと詳しいの?入学試験の範囲だったの?
「おっと、これはごめんごめん。自己紹介がまだだったね。僕はアーサー。アーサー・マドワキアって名前だよ。よろしくね」
え
「ウィル君、その方はこの国のご子息、つまり王子だよ」
アディがこっそりと耳打ちをしてくれる。
う、うそー!?そんなことあるー!?
僕はアディの方をくるっと見る。アディはにたにたと笑っている。君は無駄が好きな変態だったね。今の状況はとても面白いだろう。この変態め。
オリビアの方を見る。はて?とした顔をした後に僕に笑顔を向けてくれる。うん、可愛い。僕たち庶民は王子なんとかは無縁なんだ。知らないのが当たり前だよね。よかったよかった。
「あの、そんな大物人物がこんなちっぽけな平民な僕になんのようでしょうか•••」
「ちっぽけ?君が?」
アーサーはそう言って正気かい?君は?みたいな顔をする。そりゃ王子に比べたらちっぽけでしょうが。
「王国騎士団にヴァレッドという新鋭の隊長がいる。ヴァルヴィデア王国の近衛兵隊長をやっていた戦士だ。まあヴァルヴィデア王国は今色々とごたついているから何かがあってうちに来たんだろう。でも私はこの隊長が嫌いじゃない。なんなら好きだ。武の国で隊長をしていたと言うことは遥かな強者という事。だからこそ王国騎士団においてもすぐに隊長の座についた。その強さに惹かれるのは男の性というもの。そのヴァレッド率いる新進気鋭の隊は、出生関係なく実力だけで選ばれた戦士たちだ。しかし、それ故に騎士団での雑用は新米たちが引き受けることが多く、今回の一般枠の受験で武の評価をすることになったのがヴァレッドの隊だった。そこにバルカ・ノヴァという若くして副隊長になった騎士がいる」
あのバルカさんって副隊長だったの?
「そのイケイケなバルカが言っていたが、その試験で生意気な受験生がいたから世界を教えてやろうと試験の評価相手として志願したらしい。そしたら逆に手も足も出なく、世界を教えられたと言っていた」
ちょっと待った。なんかバルカさんそんなことを言ってた気がするぞ。
「さっきの魔力場の干渉する魔力量を感じでわかったよ。それ、君だね?」
「たぶんウィルだね。ウィルめちゃくちゃ強いからね」
オリビア君、静粛に。
「はっはっは!やっぱり君は面白いね。うん、ウィル君。私の騎士になってくれないか?」
「正気ですか王子!」「そんな出生もわかりない庶民は怖すぎます!」「今さっきの魔力はやばかったが逆に怪しい!」
正直、情報量が多くて頭がパンクしそうだが、一周回って逆に冷静だ。はて、この王子はどんな思いを企んでいるのだろうか。みんなの意見が正論すぎて僕でさえ疑問に思う。王子が思う何かがあるはずだ。




