第3章 第3話 【入学式】
王立学校の入学式。それは小等学校、中等学校、高等学校のすべてのクラスが集まって行う入学式だ。それぞれ小等学校、中等学校、高等学校の校舎の間にある大きな講堂で行われる。
ぞろぞろとさまざまな生徒が入っていく。僕とアディも一緒に講堂へ入る。
「あ、オリビアだ」
僕たち中等学1年の”特撰”クラスと思われる白い列の最後にオリビアがいた。他は黒を基調とした制服。本当に”特撰”の生徒の制服って違うんだ。
「へぇ、あれがもう1人の一般枠の子かー。あれ?すごい綺麗な子だね。”特撰”に受かるような子だからもっとゴリラみたいな人かと思ったよ」
今のは聞かなかったことにしておこう。
「ウィル!わたしたちなんだかすごいとこに入ったみたいよ!あれだけ勉強した甲斐があったね!あれ?その人は一般枠の最後の人?」
オリビアはぴょんぴよんと飛び跳ねてはしゃいでいる。勉強が報われて嬉しいのだろう。ただ、その白を基調とした制服に包まれている君は、あぁ、なんて可愛いんだ。その綺麗な金髪と白色の制服のコントラストが実に黄金比だ。念願のオリビアの制服姿。僕も、合格した甲斐があったよ•••。
「あれ、ウィル泣いてるの?」
「•••ウィル君。僕が言うのもなんだけど、君も変な人なのかい?」
おっといかん。ついつい感極まってしまった。
「えー、こほん。オリビア、この高身長爽やかボーイはアケディアことアディ。そしてアディ、このスーパー美少女マーベラスキュート女神オブ女神な女の子はオリビア。僕の同郷のウルトラガールさ。変なことをしたら消し炭にするので卵を触るかのように丁重に接するように」
「ウィル君、君は十分変な人だったんだね」
失敬な。
「それがウィルのいいところでもあるの。よろしくねアディ」
そうだそうだと僕は心の中で抗議をする。心の中で収まったのはオリビアとアディが自己紹介してる間に周りを見渡すと、人がとんでもなく多くなってることに気づいたからだ。
講堂にはぎっしりと生徒が集まっている。講堂は2階構造になっており1階はおそらく小等学生から中等学生、2階部分には高等学生がいる。2階部分は1階の半分までしかなく、なんというかフロア丸ごとが階段状になっているような感じだ。さっきの説明で小等学校は”特撰”がないってことだったので、1学年4クラスで1クラス20人程度、中高等学校は1学年5クラスで”特撰”は10人、他クラスは20から30人程度と言っていたので単純計算でざっと1200人くらい。ええ、数の暴力だよ。
まぁでも小中高等学校が集まればこんくらい多いのは当たり前か。
人の多いところはなんだか苦手だな。そわそわしちゃう。
「始まるね」
人が集まり、がやがやとしていた空気が徐々に入学式の始まりに近づくにつれだんだんと生徒同士の会話は減っていき開式の雰囲気へとなっていく。
オリビアの言う通り、入学式の始まりだ。
「まずは理事長からの挨拶でございます。では理事長よろしくお願いします」
波長を増幅させる魔道具を用いた拡声器によって講堂全体に聞こえるアナウンスが響く。
そして壇上に現れたのはツインテールに髪を結っている見た目は少女な理事長が来た。
え?
「ウィ、ウィルあの人っ」
僕はこくこくと頷く。あの人、受験前日にあった変装魔法でうろついてた人じゃん。え、理事長だったの?
「入学生、並びに在校生の諸君。先ほど紹介があった理事長のキルケ・エカテスじゃ。この度も新しい才能を持った将来有望な人材が入って来たのう。その才能を開花させるも枯れさせるも自分の力量次第」
理事長は値定めするかのように全体を見渡す。
「しかし、我々王立学校は手を貸せと言われれば全力で支援するのが心情じゃ!貴族も庶民も関係ない、大いに才能を磨き、そして開花させてみよ!!我々はいつでも望んでおる!!!さあ、そんな多く大きな才能が集まった新入生諸君、諸君らのそれぞれの新入生代表挨拶じゃ。入学、進学の際に最高の成績を納めた者たちじゃ。現時点での諸君らの目指すべき人物の1人であろう。しかと目に焼き付けておくが良い!では新入生代表者たちよ、前へ!!」
見た目は少女なのにとても胸熱なことを言ってくれる。この人が僕たちの理事長•••面白いじゃないか!
「彼女がキルケ・エカテスか」
「アディ知ってるの?」
「知ってるも何も有名どころだよ。この学園の現在の理事長ってのもあるし、そもそも魔法師としても有名だよ。彼女の異名は”毒の魔女”。彼女の毒の魔法は解毒できないと言われている。もはや呪いだね。その代償じゃないけど、あの姿は自分の試作段階の毒の魔法の影響で成長が止まったって噂だ」
「え?それって見た目は老いないってこと?」
「そうらしいよ。でも試作段階の時にいろんな魔法を試してたから再現は無理なんだって。まさに奇跡の産物さ。ていうか本当に知らないのかい?ここの理事長だよ?いや、待てよ。その知らないというのが総合的に無駄でもあるのか。なんと、知らないという無駄ではない行為が逆に無駄に繋がるなんて。ウィル君、君は不思議な人だ」
なんだか勝手に納得したようだ。そしてアディよ、会って間もないが君だけには変な人とは言われたくない。
そういえば。今さっきの中で気になったのは解毒できない毒魔法もいいけど、理事長の老いを止めた魔法。でも、本人もわからないなら再現は無理か。残念、本当に奇跡だ。その魔法がわからないのは悲しいけど、さすが我らが理事長だ。
そんな理事長の奮起によってそれぞれの新入生代表たちが移動していく。僕たちの白い列から1人、小等学校らしきところから1人、そして2階の方で1人が移動している気配。今から壇上へ上がってくる人たちが小中高それぞれの新入生代表•••。
それぞれが理事長の前に立つ。どうやら代表者のさらに代表者、高等学校の新入生代表が代表挨拶をするらしい。
うーん、理事長側にみんな向いてるから顔が見えない。性別はそれぞれわかるんだけど、高等学校の代表は女性の人、僕ら中等学校の代表は男性の人で、小等学校の人も男性。
「本日は私たち新入生のために、このような素晴らしい式を執り行っていただき誠にありがとうございます」
凛々しい、声の人だ。そしてその佇まいは堂々としており、代表になって背中で生徒を背負っている強い意志と責任感を感じる。
「これからの学校生活、様々な壁にぶつかり、自分の道がわからなくなることもあるでしょう。そんな時こそ冷静となり、周りを見渡し、この素晴らしき仲間たちと手を取り合い、それこそ学校の力を借りることでより高みへ、そして今までの自分をさらにより輝かせるように前進することを我々、皆で努めて行きたいと思います」
簡潔的で力強く、また共に頑張りたいと思う言葉だ。さすが王立高等学校新入生代表、すでに他の大人と比べても人間として抜きん出ているし、カリスマも備わっている気がする。
高等学校新入生代表は言葉を締めくくるように1拍おく。
「ご清聴ありがとうございました。高等学校新入生代表、」
その凛々しい声が再び紡がれる。
「シャーリー・ローデュラン」
僕は。驚くよりも、泣きそうになった。
ローデュラン家というのはこのマドワキア国の公爵家のこと。そしてシャーリーという名。
壇上に立つあのお方は、僕の姉様だ。
3つ上のシャーリー姉様はローデュラン公爵家の養子となり、そして今、新入生代表として挨拶をしている。きっと新参者として反発が強かっただろうに、それを乗り越え今は皆の上に立っている。そんな姉様の苦労と努力と、それを乗り越えている勇ましい姿に僕は感動した。
逞しく、生きられていたのですね•••。
新入生代表挨拶を終え、壇上から降りてくる姉様。立ち振る舞いは堂々としており、その先を見据えた目は鋭く、可愛さではなく気品と美しさが両立している。またその表情は怯むことのない自信に満ち溢れ、さらに慈悲を感じさせる。そんななにものにも左右されない毅然とした姉様に、この場の誰もが惹かれている。
講堂は我に帰り、遅れて拍手に包まれる。
それからはこれといったイベントはなく入学式は閉式した。
さて、これから僕たちはそれぞれの教室に移動してオリエンテーションだ。
その教室に移る際に、あのトラブルが起きたのだった。
クラスごとに講堂をでていく。出口付近で2階から降りてくる階段と1階から出ていくところが被る場所がある。そこで僕たちはバッタリと高等学校の新1年特撰クラス生と鉢合わせた。つまりばちこり姉様と会ったのだ。
「姉様」
僕は思わず口にしてしまった。その言葉を。
「はあ?誰があんたのお姉様ですって!?」
「もしかしてシャーリー様があんたの姉と言うつもりで?平民のくせに!?」
シャーリー姉様の取り巻きと思われるお姉様方がきいきいきゃあきゃあ宣う。お姉さまは無表情で僕を睨む。そして取り巻きは僕が折れるまで罵倒の言葉を浴びせてくる。お姉様のファンの愛がえぐいよ。
でも正直、姉様が元気にしてるだけで、そしてそれだけ愛されている姉様の現状が僕は嬉しい。取り巻きの声はそんなことを思っていると、なんだか遠くでモザイクがかかったかの様にぼやけて聞こえる。
僕はお姉さまの顔を見る。昔には既に整った顔をしていたけど、今見るとあの時は年相応の幼さを残していた。入学式のときよりも改めて近くで見てみると今では輪郭はシャープになり、鼻筋も通り、目は大きく猫の目のように鋭く、愛らしく、その唇は妖艶な隆起を見せ、大人の美しい女性になっている。
艶やかな紅色の髪は腰まで流しており、その美を煌めかしまるで姉様に後光がさしているかの様に髪までもが美を助長している。
ついつい声をかけてしまったが、確かに平民の僕が声をかけたら場違い、というか位違いでこういう結果になるのは目に見えていただろう。だからこの結果はしょうがないことだ。ここが学校でよかった。街中だったら打首か用心棒にぼこぼこにされていただろう。
「あんたどういうつもりよ!?でしゃばりになってよ!!」
取り巻きの1人が攻め立てる。
ごめんなさい、でも僕はもう満足しました。
「いえ、こんな綺麗な方が自分のお姉様であったらよかったと思っていたら、いつのまにか言葉が出ていました」
お姉さまはびくんと体を震わせる。
僕は、お気を害しましたら誠に申し訳ございません、と頭を下げた。そう、僕はお姉さまが元気にしていたら大丈夫なのだ。これ以上は取り巻き方の言う通りでしゃばりすぎだ。僕はただのウィル、向こうは中央王国の公爵、身分が違いすぎる。身を引くのが筋というものだ。ちなみにオリビアとアディは事情を知らないので急に新入生代表のことをお姉様と呼ぶヤバいやつとドン引きしてる。僕も不意に出ちゃったんだって、ごめんて。
では、と身を引こうとしたところ
「おい庶民、イキがるなよ。ホークレンドニクス家の名においてこのサムエル・ホークレンドニクスがお前を粛清してやろう」
と、なぜか僕たちのクラスの男子学生が僕に粛清をご提案してくれた。なんぜ?ていうか君誰?




