第3章 第1話 【別れ】
「準備できた?」
「はい、できております!」
今日は王都は出発する日。いよいよ明日に王立中等学校の入学式があるからである。というよりも王立学校全体の入学式だけど。なので今日に王都マドワキアにある寮へ移動して明日を迎えると言った感じだ。つまりそれは、父様と母様の元にいる最後の日でもある。
「それにしても一般枠で王立に入学するとはな、父、感激だ!」
そう言って父様は目をうるうるとさせる。父様がなんだか合格通知が来た時からおかしい。でもこの前は試験を受けるために前日に移動した。今日は入学のための移動。そして、初めての親離れ。なんだか僕も胸が熱くなる思いだ。
「もうあなたったら•••でも本当にすごいことよ。あなたもオリビアも」
合格してから父様も母様もずっとベタ褒めだ。素直にとても嬉しい。
「えへへ」
ただ、そんなに言われると離れるのが寂しくなりそうだ。別れの寂しさを悟られらないように、僕はいつも通りの会話をする。
「本当に、何も後ろ盾なしで一般枠に受かるなんて1人握りだからね、ウィル」
「そうだな。王立はほとんどが貴族の出だからな。しかも中央の貴族は昔から中央に根付いている。それだけ長く中央にいるだけの理由がやはりある。故に王立学校も中央にいる貴族の割合が多い印象だな。そう思うとやはり王族の肩書はあったが、所詮辺境の地の王族であったロードもシャーリーも本当に凄かった」
兄様と姉様の話題。
「そうね•••」
「ウィルよ、シャーリーと、ロードにも会うことがあったらまたそれぞれの近況を教えてほしい。なんなら、会ってはいけないという制約はないんだ、だから•••いや、これは欲張りだな。2人とも元気ならそれで充分だ。生きていればきっと」
「父様、母様。もし、ロード兄様とシャーリー姉様に会うことがあって向こうに時間があれば、連れて帰りますよ」
もう、父様と母様は色んなことに囚われすぎだ。実の父と母なのだから会いたいなら会いたいと言えばいい。でも、それができない大人の事情みたいなものがあるのだろう。だからこれは僕のわがままってことにすればいい。
「僕のわがままです。許してくださいますか?」
父様と母様は虚をつかれた顔をする。そして僕の意図を汲み取ったのか、やれやれと微笑む。
「ウィルのわがままなら仕方ないな!」
「ふふ、ウィルには頭が上がらないわね」
兄様と姉様の現状さえわかればいいってことだったのに、なぜだか色々条件が増えつつあるのは気のせいだろうか。まあとりあえず、姉様と話せそうな機会があれば話そう。そんな雰囲気がなければ最初の予定通り姉様を見守る会に徹しよう。
あぁ、もっと話していたいけどそろそろ王都行きの馬車の時間だ。
人との繋がりっていうのは、別れがあるということなんだろうと身に染みる。
「ありがとうございます。父様、母様に恥じないように学校でも精進します!」
「はっはっは!さすが我が息子だ!」
「ええ!うんと頑張るのよ!」
でもそれは今生の別ではない。だからいつも通り、最後は笑顔で、だ。
「では父様母様、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
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家を出て、稽古場だった更地へ向かう。その間に僕は家の周りを見る。最初にここに来た時はどうなるかと思ったけど、自然が豊かだし周りは静かだし、村の人は優しいしで、ストレスが何もないとてもいい環境だった。畑を作る時に魔力場の索敵もしっかりできたし、その時から魔力感知の力を知らずのうちに育ててたのかも。
だんだんと家から遠ざかり、稽古場へと歩を進める。稽古場はいつもの更地だ。ただ、僕らが来たこの数年で踏みならされている場所が目立つ。それだけここで鍛錬を積んだんだな。受験に行く時も感慨深いものがあったけど、ここは本当に色々な思い出がある。稽古をはじめ、”真”に至り魂の授与を父様から受け取り、そして受験の餞別として父様から手袋をもらった。なんか貰ってばっかりだな、僕。ここでどれだけ成長できただろうか。この土地には感謝しても仕切れない。だから、ここで貰った恩はみんなに還元できるようにもっと学校でも頑張ろう。
僕は稽古場と、家と、そしてホグン村の中心地に向かってそれぞれ感謝の礼をする。
よし、オリビアが待ってる馬車へと向かおう。
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「やあオリビア」
「あ、ウィル!馬車もうすぐそこまで来てるらしいよー」
オリビアが手を振ってこっちーっと合図をしてくれている。そんなオリビアの荷物はそんなに多くはない。大きめなボストンバッグひとつだけだ。僕も荷物はそんくらいで全然多くはない。服なんかはそもそもあんまりもってないし、向こうでは指定の制服が渡されるし。
そう、指定の制服。
僕がオリビアに夢を見ていた制服姿。
今年で10歳の僕たち。成長期は女性の方が早いらしく、オリビアはだんだんと成長期なのか背が僕よりも高くなっている。まだまだ幼顔は残るが顔立ちははっきりしてきてて、背は高くなっていき美人であることがもう隠しきれていない。これは学校でも人気者になるだろうなあ。そして制服姿。考えただけでとんでも化学反応だ。よし、まずはオリビアに変な虫が寄らないように僕が目を離さず見てあげなきゃ。
「ねえウィル、なんだか鼻息荒いよ?急いできたの?」
おっと。紳士な僕が隠れたのか出てきたのかわからなくなってたね。冷静冷静。ここは紳士にストレートに表現だ。
「オリビアは今日も可愛いなって」
「ェ」
紳士な僕がありのままの言葉を伝えると、オリビアが変な言葉を残して顔が紅潮していき言葉を発さなくなった。
あれ、これ、キモ過ぎて言葉を失ったってやつか?僕、そんなにキモい発言したかな•••。
オリビアが硬直してるそんな束の間に馬車が到着する。それにはっとオリビアは気付き、もう、ウィルの馬鹿、と言いバッグを持って馬車に乗り込む。僕は心の中でキモくてごめん•••と涙を流しながら続いて馬車に乗り込んだ。
うん。なんやかんや学校生活前の出だしは好調のようだ。




