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第二章 五十八話


 試験日ということもあって廊下は今、僕とヴァレッドさんの2人だ。色々聞くなら今がチャンス。


「ヴァレッドさんですよね?」


 ヴレッドさんは微笑む。その微笑みは、先程の王国騎士団のヴァレッドさんではなく、昔僕の元へ来てくれた時の雰囲気だ。


「はい、ヴァレッドでございます。ウィル様、本当にご立派になられましたね。先ほどの身体強化の魔法とその剣技の型、”あの時”よりも脳が痺れるほどの衝撃でした」


 そう言ってヴァレッドさんは目頭を押さえ俯く。え、泣かないよね? 

 でも、“あの時”からだいぶ時間が経って、ヴァレッドさんが今を褒めてくれるなら、その間の時間が認められた様で素直に嬉しく思う。


「ヴァレッドさんにそう言われると、とても励みになります。あと、僕はもうただのウィルですよ。そんな畏まらないでください」


 前もこんなやりとりをした様な気がするぞ。そんなことを思い出し、なんだかおかしくなり笑みが溢れる。


「ははは、ウィル様。前もこの様なやりとりでしたね」


 ヴァレッドさんも顔をあげ笑い合う。どうやら同じ気持ちだった様だ。

 2人っきりで歩く廊下に、ヴァルヴィデにいた頃の、郷愁を感じる空間に満たされる。


「今でも私は王様に忠誠を誓っています。だから私にとったらウィル様はウィル様なのです」


 全く、あの時からヴァレッドさんは礼儀正しい。それがヴァレッドさんの良さでもある。でもそれなら尚更に王立騎士団に入ったのが気になってしまう。


「ヴァレッドさん」


「ウィル様の言いたいことはわかります。これは現王のお考えであるとだけ言っておきましょう」


 私は今、なぜヴァルヴィデアがああなってしまったかを騎士団に入りマドワキアの中から探っているのです。と誰にも聞かれない様に小声で耳打ってくる。今この廊下は2人っきりだ。僕の魔力が感知できる距離にも魔力らしい魔力はない。だがどこで誰が聞いているかはわからない。そんな意図をヴァレッドさんは示してくれたのだ。


 つまり、”血の披露会”と”邪龍”に関しては()()()()()ということだ。

 武の国が狙われるというのは、どういうことなんだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()のだろうか。何が一体起きてるんだ?


 わからないことだらけだ。だから元王である父様のおじさんがヴァレッドさんを通して探りを入れているのだろう。あのおじさんも全容を掴みきれていないのだ。

 

「ウィル様もどうかお気をつけてください」

 

 ヴァレッドさん•••。ヴァルヴィデアのことは今でも他人事ではないのだ。僕たちはそのおかげで家族がバラバラになったから。だから僕はロード兄様とシャーリー姉様のことを知るために今学校受験をしている。

 本当は2人のことを知れたらそれでよかった。でも、そんな裏があるなら、ロード兄様は今何をしているかわからないけど、シャーリー姉様は公爵家の養子、もしかしたら何かを知っているかもしれない。シャーリー姉様の邪魔でなければ、聞いてみようか•••。でも、シャーリー姉様は公爵家の養子となり幸せではないのだろうか。その領域に足を突っ込んでも良いのだろうか。シャーリー姉様にとったらあの一連の流れは忘れ去りたいことではないのだろうか。はあ、考えれば考えるほど疑問と腹立たしさが湧いてくる。


 こんなことにしたやつらがいるなら、僕は知りたい。


「ウィル様•••威圧感が滲み出ておられますよ」


「! これは、すみませんでした。ついつい、考え込んでしまって•••」


「やはり、ウィル様は大きくなられましたな。私でも背筋がぞくっとする様な威圧感。私の方こそウィル様と手合わせしていただきたいものです。先ほども私が志願してお手合わせ願いたかったのですが、立場上負けてしまったら面目が立たないので断腸の思いで名乗りを上げませんでした。ですが、名乗りあげないでよかったです。なぜなら私とやっても結果は同じことになっていたでしょう。危うく面目丸潰れでした。はっはっは」


 今期のヴァレッドさんも大絶賛である。話を逸らしてくれたんだとは思うけど、たぶんその結果は違うと思うな。


「もう、ヴァレッドさんは口が上手いです。ただ、同じ結果かどうかはわかりませんね。ヴァレッドさんはだいぶ()()様なので」


 なんだかヴァレッドさんも()()()()()()()()()()()気がするからだ。


「ふふ、ウィル様。その慧眼はどこまでも見通しておられるのか。今更ですがウィル様はどうして学校受験を?」


「いえいえ、僕は何も見えてませんよ。そうですね•••僕がこの学校を受験した理由はロード兄様とシャーリー姉様を知るためです」


 僕はヴァレッドさんに兄様と姉様が今どの様に生きているのか、ただ何かをするわけじゃないけど今を知りたいといった想いを語った。

 そう言えばヴァレッドさんはロード兄様の行方を知らないのだろうか?


「なるほど•••。シャーリー様はマドワキア王国の公爵家のご令嬢ですのでお見かけは致しますが一兵士である私ではお話しする権利もございません。問題のロード様は私が入団した時にはもういらっしゃらなかったですね」


「そう、ですか」


 シャーリー姉様は学校で会える可能性があるからいいんだけど、ロード兄様についてはまだわからぬままか•••。


「ただ、もう1つの武の国”レガテリア王国”へ行くと騎士団のものが言ってましたよ」


 !!!

 

「ヴァレッドさん!それは助かります!」


 兄様の情報は全くないかと思っていた。でもここにきて新情報。少しでもあればどんどんとわかっていくはずだ。これは大きな1歩だ。


「ウィル様、とりあえずはここまでです」


 いつの間にか校舎の出口まで来ていた様だ。ふう、そうだな。まずは何よりも学校の合否発表だ。入学できなければ何も始まらない。


「ヴァレッドさん、久しぶりに会えて嬉しかったです。またいずれ、僕とヴァレッドさんは出会いますよね」


「もちろん。ウィル様が突き抜ける限り私たちはまた出会えます!またその時はよろしくお願いいたします」


 僕とヴァレッドさんは固い握手を交わし、僕は校舎を後にする。さあ、後は結果待ちだ。


 僕は校舎を出て、学校の校門まで行く。

 オリビアは僕よりも後だったのでオリビアの試験終わり待ちだ。それにしても、兄様と姉様を知りたいだけに学校受験をしたけど、近づけば近づくほど何か問題が出てきそうだな。


「ウィルお疲れ様!やー、緊張したよー」


 そんなことを悶々と考えているとオリビアがその綺麗な金髪をはためかせながらやってくる。


「お疲れオリビア。試験どうだった?」


「いい感じだったかな!魔法の実技も問題なかったし、”実技”の方も武の会場を選んでアピールできたかな!まさか採点の人が王国騎士団とは思わないよね!それでもだいぶ、いやでももう少しで勝てそうだったのになあ」


「その感じだと、だいぶいい感じだったみたいだね」


「うん!悔いはないかな。なんか魔法の実技の時にすごいざわめいてたけどウィル何もしてないよね?試験大丈夫だったの?」


「え?いや、まあ、いい感じだったよ!」


「怪しいー。またなんかしたんでしょ!洗いざらいおしえろ〜」


 終わってしまえば試験の緊張感はとけて、オリビアと試験について他愛もない話をする。このオリビアとの何気ない日常も犯されたくはない。

 

 だからこそ、そのためにつけた力だ。

 でも、まあ、とりあえずは。


「まあまあオリビア。とりあえずは、ホグン村に帰ろっか」


「そうやってはぐらかすー。でも、そうだね。戻ろっか。わたし達のお家に」

 


 ホグン村に帰り、その後はいつも通り稽古して生活に必要なことをして日々を過ごしていった。


 そして後日、王立中等学校から2人ともに合格の書類が届いた。

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