第二章 五十七話
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僕はちょっとぴりついている試験官に誘導されながら試験会場へ向かう。当の僕はもう開き直っている。うん、しょうがない。どんな結果になってもいいから全て思いっきり全力でやろう。今考えれば当初の全力を出し切ると言った予定通りだ。今回のは僕は人の目を見て話すの苦手だし、それから何かあったときは結局こうやって人の顔を窺っておどおどしてしまったのがいけなかった気がする。僕の悪い癖だ。止めよう止めよう。試験官が入ってきた時も堂々と続ければよかった。いや、さすがにそれはまずいか?
「”実技”の試験会場は2種類ある」
試験会場が近いのか試験官が僕に説明してくれる。
「1つは魔法について。魔法に自信があるならそっちの会場へ案内する。2つ目は武について。武に自信があるなら武の会場へ案内する。君はどっちだ?」
その2つなら言わずともがな武だ。”真”の名は伊達じゃないと言うところを見せたい。そんな意味でも目に見えてわかるのは武の方だ。魔法の方はちょっと力量が掴めてないから自信がない。武一択だ。
「武に自信があります。武の会場でお願いします」
「承知した。ではこちらだ」
僕は武の会場へ案内される。会場の扉を開けられ1人で入る様に促さられる。
「では健闘を祈る」
そうして最後までちょっぴり警戒していた試験官は去っていった。
会場は体育館で使っているんだろうなといった広さの会場。まさに実技試験の会場だ。
ぐるっと会場を見渡す。え、待って。中央騎士団の人たちが採点してくれるの!?
そこには意外、マドワキア王国の紋章が入った甲冑をつけている兵士たちが何人か横一列に座っていた。それが意味するのはこの兵士達がマドワキア中央騎士団の騎士達であるということだ。
中央騎士団、言わずともがな知れた王を守る王国最強の矛であり盾である最強の騎士団だ。確かに、王立学校を卒業した卒業生で王立騎士団に行くのがエリートの道のりだろう。だからこそ武に自信を持つ受験生を最初から評価しにきてると言うのも頷ける。•••行方不明になっているロード兄様もこの騎士団に所属していた。今実感した。騎士団と王立学校はずぶずぶ。やっぱり、この学校に入学できればロード兄様のこともわかるはずだ。
そして今は何より、この試験で、この”真”の力が王国最強の騎士団にどこまでうつるのか、力が激ってくる。
会場の空気が凍てつく。
騎士団達の態度が見るからに臨戦態勢に入った。僕のやる気が騎士団のスイッチを押したらしい。
「威勢のいい受験生だ」
騎士団の若くはあるが風格が漂う、30代に行くか行かないかの青年が立ち上がる。
「ここは最終試験”実技”の武の会場だ。試験内容は簡単、私たち騎士と打ち合いをすることだ」
これは、願ったり叶ったりだ。試験内容は騎士団の前で何か武芸を見せることだと思ったけど、まさかの騎士団の騎士との打ち合いとは。これほど自分の”真”の力を試すところはない。
「そして貴殿は威勢がとてもいい。未だに我々に対して闘志をぶつけてきている。騎士団の私たちを見て萎縮するどころか闘志を剥き出しにするのはとても筋がいい。荷物を置いて準備をしたまえ。私が相手をしよう」
「ならば、私が立会人となろうか」
別の騎士が立ち上がる。説明をしていた騎士の人に集中してたから他の騎士の方々がぼんやり写っていたけど、新しく立ち上がった人めちゃくちゃ屈強だ。その自信あふれる立ち姿は今まで幾度となく修羅場を乗り越えてきたことを表している。尋常ではない強者の風格がある。紛うことなき、歴戦の戦士だ。この青年の人よりも確実に強い。
でも、あれ、この人どこかで見たことが•••。
「隊長、それは贅沢すぎです」
「隊長そんなこと言うの珍しいですよ」「そうすよ、息を潜めて見守ってるだけでいいっすよ」「なんなら寝ててください」「隊長なんですからこの時くらいゆっくりしててくださいよ」
おお、尋常ではない人と思ってたけどまさかの隊長様でしたか。しかも部下からの労いかつユーモア溢れるコメントから人望の強さも窺える。強く、人望も溢れる、なんてカリスマ性のある人だ。うーん、やっぱりなんか既視感があるぞ。
「違う。バルカ、油断するなと言っているんだ。この受験生を舐めてかかると負けるぞ」
またしても空気がピシッと凍りつく。今までガヤを飛ばしていた騎士達が姿勢を正す。そして僕の方を改めて品定めするように警戒する。
「ほう、隊長がそこまで言うのは本当に珍しい。この子はそこまでの力があると言うことか」
「今は受験の試験の場だ。長居は不要。早速試験に取り掛かる。受験生よ、準備ができたら前に来るといい」
そう言って隊長と呼ばれている屈強な人が会場の真ん中まで前に出てくる。僕は荷物を置き、そのままその隊長がいるところまで赴く。
え、ちょっと待って。この隊長、見たことあると思ったら、僕が城を出ていく時に挨拶にしてくれたヴァレッドさん••••?え、ヴァルヴィデアは?
ヴァレッドさんも気づいているのか、僕に今は何も聞くな、と目で訴えかけてくる。おそらく、何かがあったのだろう。ヴァルヴィデアの王直属近衛兵の総隊長であったヴァレッドさん。王直属近衛兵はその王に忠誠を誓っている騎士だ。その方がマドワキアの王国騎士団に入るなんてまず考えられないことだ。それだけ何か大きな理由があるはずだ。うん、そうだな。今は僕はこの試験に集中することだ。学校にさえ受かれば全てに触れられる。
「受験生、素手でいいのか?」
バルカと呼ばれた騎士が僕に確認をする。
「はい。これが僕の型なので大丈夫です」
「面白い。何か試験に関して質問はないか?答えれる範囲で答えよう」
「魔法は使ってよろしいのでしょうか?」
「ああ、魔道具以外はなんでも使っても結構。全てを賭して全力でアピールしたまえ。それがこの試験の見せ場だ」
よし。じゃあ僕も全力を出せれる。
僕は素手、バルカ騎士は木剣を持ち、お互いの位置につき対面する。
「2人とも準備はいいな?制限時間は5分。真剣はなしで制限時間が過ぎる、またはどちらかの降伏で試験は終了だ。ではお互い構えて」
バルカ騎士は諸手で木剣を構える。さすが王国騎士団の兵士、構えるだけでもしっかり鍛錬された所作だ。隙のなさと、こちらの隙を確実に見逃しはしないという圧も果てしない。
だけど、僕だって武の国最強の鬼人と無駄に稽古をしてきたわけじゃない。そして、その鬼人に認められた”真”は伊達じゃない。
「!?」「まじか」「これは•••」「圧、すごいな」
僕は『強化』の付与を無詠唱で発現し手刀の構えをとる。この1年、僕は付与魔法にだって余念を欠かなかった。無詠唱に至るまで理解を深めた。そして、稽古だっておろそかにしていない。”真”の練度だって並大抵ではない自負がある。
「隊長の言ってたこと、わかりましたよ•••これはこちらも本気でいかしてもらおう」
さあ、いざ尋常に勝負だ。
「では始めッ!!!!」
制限時間は5分。評価のために時間は少ない。でもこの5分、僕は勝ちに行かせてもらう————!!!
僕は爆発的に身体強化の魔法を発現。魔力場に干渉させて強制的に魔力酔いを引き起こす。さらに身体強化の魔法にムラをつけて残像を残しながら一気に間合いを詰める。
バルカ騎士は魔力酔いに姿勢をぐらつかせる。だが王立騎士団、そこは気合いと経験で耐え、立て直そうと一気に後ろに距離をとる。
でも、それは視えている。
僕が距離を詰める位置は最初からそのあなたが退く位置だ。さあ、バルカ騎士。僕の横払いの手刀は今あなたの首を捉えているぞ。
「ッ!!」
バルカ騎士は咄嗟に僕の手刀をその木剣で受け止める。反射だけであの状況から攻撃を受け止めるなんてさすがだ!ならばさらに攻撃を増すのみ!!
その横払いの力のまま体を独楽の様に回転させ、回る刃の如く手刀で連撃しまくる。回れ回れ、どこまで攻撃を休めることなく回り続けろ。
バルカ騎士は全てを木剣で捌いていく。だが、目に見えてその防御は精一杯の捌きだ。なら後は1押し、さらに力を乗せて突っ込むだけだ————!!
僕はさらに身体強化の魔法を強める。自分の筋肉が極限まで高鳴りを上げている。休まない、休めない、休まさせない、一層早く、強く、攻め続けろ。
バルカ騎士はそれでもなんとか防いでいく。だが息も絶え絶えだ。僕の連撃を防ぐその木剣の質が手を伝わって感じとれる。
ああ。木剣よ、よく頑張った。ここまで主をよく防いでくれた。でもごめんね、その役目もここで終わりだ。
僕はその木剣の1番脆弱となっている部分を目一杯力を込めて薙ぎ払う。木剣はその部分を境に見事に砕け散った。
「嘘、だろ」「あのバルカさんすよ!?」「5分以内でって、おいおい、一体何もんだよ」「これ中学受験だよな?」
バルカ騎士は自分の木剣の折れた刀身を見る。そしてふっと微笑む。
「世界は広いな。剣が折れれば私になす術はあるまい、私の負けだ」
「そこまで!バルカの降伏によりこの打ち合いは終了とする!!」
ヴァレッドさんの終了を示す大声が、異様な空気となっているこの会場に響き渡る。うん、”実技”はいい感じでアピールできたかな。バルカ騎士、降伏させることはできたけど、もしもあれがなんの変哲もない木剣でなく、正規のバルカ騎士がいつも持ち歩く私用の武器ならどうだったか。僕は完全に魔法で強化できるし利があったの僕の方だ。ただそれでも、王立騎士団の騎士を降伏させた僕の”真”の型はだいぶいいんじゃないか?
なら、王立騎士団の隊長であるヴァレッドさんとやればどうなるか。
「受験生よ、試験は終わりだ。私に闘志を向けられても申し訳ないが、相手はできんぞ」
はっはっは、と笑うヴァレッドさん。
「あ、その、これは。す、すみません、ちょっとした出来心です•••。騎士の皆様、ありがとうございました」
やばいやばい。いい感じで終われそうだったのに、ついつい強い人がいるとどうなのか探ってしまう。うう、これも父様の血を引き継いでる証拠なんだと思うし、単に僕の探究心が強いんだと思うんだけど、なんだか戦闘狂みたいで恥ずかしい。
僕は帰る準備をして会場を出ようとすると、ヴァレッドさんが歩み寄ってくる。
「受験生よ、外まで送り届けよう」
「隊長自ら•••」「これはがちスカウトすかね?」「素晴らしい戦いだったからな」
まさかの隊長自らのお見送りである。というよりも、何か話すことがあるんだと思う。
僕とヴァレッドさんは会場を後にした。




