第二章 第五十三話
王都の周りには城壁があり、城壁に入る前に検問所がある。その検問所でパスされた人や荷物たちのみが王都入りできる。今いる街はその検問所前の街だ。日は暮れてるのに王都の目の前の街でもあり、ホグン村と比べれるとこんなにも世の中には人がいるのかと思ってしまうほどだいぶ賑わいを見せている。王都前ならいったい王都はどうなってるんだ?
馬車の中も最大で人が乗っている。多分明日の試験を受ける人なんだろうなって人もちらほらいる。
「いやー、すごい人だねオリビア」
「こんなにすごい人初めて見たよ。なんか、人に酔いそう!」
僕たちは乗り継ぎのために馬車を一旦降りる。
僕はヴァルヴィデアにいたけどほとんど引き篭もってたし、人がたくさん集まったと言えば”血の披露会”だったし、こうやって活気のある人が密集したところというのは初めてだ。
その人の多さと活気に、僕とオリビアは明日試験のはずなのに、そんなことを超えてはしゃぐ気持ちを抑えれない。
「え、オリビアどうする!?ここら辺でご飯食べちゃう!?王都に入ったら明日の準備とかしたいし支度して寝るだけだもんね!?今しかないよね!?」
「で、でも学園が用意してくれた宿泊所もあるよ!?そこで食事も用意されてるって聞くよ!?でで、でもちょっとだけここら辺見てもいい気がするよね!?」
やばい、僕もオリビアもこの活気あふれる空気にキマっている気がする。ただ知らない土地に溢れ出す好奇心が止まないよ!
「失礼。君たちは冒険者かね?それとも王都の学生さんかね?」
馬車から降りて周りを見渡しながらハアハアとどうしようかどうしようかと息を荒らげていると腰を屈めたちっちゃなご老人が話しかけてきた。僕とオリビは我に返り、話しかけてきたご老人に注目する。あれ、この人馬車に途中で乗ってきた人だ。ていうか、待てよ。このご老人••••
(オリビア、この人)
(うん、わたしも思ったよ)
がやがやと賑わう乗り継ぎ場、僕とオリビアは僕たちにしか聞こえない小声で合図を送り合う。このご老人、何かおかしい。とりあえず敵意はなさそうだし話を合わせておこう。
「ご老人、僕たちは冒険者でも王都の学生でもないですよ」
「明日王立中等学校の試験があるから今日移動してきたんだよ!」
「おお、そうかのう。それはすまんかったな。いや何、とても元気に見えたから冒険者か生徒かと思ったんじゃ」
•••僕は害がなければ何されようがあんまり気にならない質だけど、なんだか不気味だ。それにこのご老人、魔法で自分のこと偽ってるな?おかしさの正体はこれか。
「ご老人、駆け引きは無しにしましょう。敵意がないのはわかりますが、魔法で自らを偽って何を巧まれておられる?」
風の元素の派生か、または水の元素の派生か。光の屈折によって自分の姿を誤魔化しているな。
僕はオリビアが攫われそうになった時に、オリビアの魔力をなんとか探そうとした副産物かなんだかわからないけど魔力に敏感になった。ちょっと離れている場所でも魔力が発現している部分がなんとなくわかるようになったのだ。近くなら尚更、小さな魔力だって感じるようになった。
そして今、このご老人からは微細な魔力の持続を感じるし、明らかに何かの魔法を使っていることは明確。さらに言えばご老人にしては歩き方というか、身体の使い方が若すぎる 。姿の偽りは確かに可能であるが日常生活に溶け込むレベルになると相当な魔力コントロールが必要なはず。それだけでもただものではないことがわかる。
「ほう?最速でばれたのう、なんでじゃ?」
ご老人の体がメッキが剥がれていくようにだんだんと本当の姿が露わになっていく。ご老人の姿が全て消え去り、そこに現れたのは小さな、髪を左右に結ったツインテールにしている僕らくらいの女の子であった。
僕とオリビアは万が一に備えてスイッチを入れる。いつでも臨戦体制だ。
「おっと、お主らだいぶできるな?蛇に睨まれた蛙とはこのことだのう。そなたらみたいな童に見据えらるだけで冷や汗が出たのは久方ぶりじゃ。まあ待て待て。敵意はない。そうじゃな、これは言わばわしの趣味じゃ」
見た目は僕らくらいの女の子で、言葉はご老人のままの言葉遣い。なんてちぐはぐなんだ。見た目通りの年齢とは思えない。頭脳は間をとって大人なのか?
「趣味?」
オリビアが直球に聞く。
「うむ。姿を偽って様々な人に話しかける、それがわしの趣味じゃ」
「なんでそんなことするの?」
「まあ、老人の格好ならみんな優しくあれやこれや話してくれるし接してくれるからのう。そして、時にはそなたらみたいに正体を暴いてくる猛者にも出会える。第三者目線で見る人間観察みたいなものじゃ。後は自分の魔法が見破られなかった時の優越感じゃな」
魔法に対する承認欲求、僕は自分で色々考えて作って満足してるというのに、この人はそれをこんな公の場で使って満たしているというのか!?さすが王都!なんて貪欲なんだ!!悔しい、悔しいけど、その貪欲さは見習わさせて頂こう。
「お主らのことは覚えたぞ。わっはっは、疑わせて悪かったのう。いやーいい出会いじゃ。お主らみたいな熟達した若い子らがいるとこの国はまだ大丈夫じゃなあ。わっはっは、楽しみじゃ楽しみじゃ。ではまた会おうのう。明日の試験頑張るんじゃよ」
右手の親指と人差し指で自分の両方のこめかみを抑えて勝手に項垂れていると少女はツインテールを揺らしながら去っていく。
「えっと、一体何だったんだろう?」
「なんか狐に包まれた気持ちだね」
なんだか僕たちは気が逸れて冷静になり、ここの観光は試験が終わってもできるという結論になった。当初の予定通りこのまま乗り継ぎ、そのまま王都入りすることにした。




