第二章 第五十二話
いや、すごいを通り越しますよ父様。
物入りの時期というのはあの大打撃を受けた王宮の復興のためにあの”邪龍”を素材として売り流したのだろう。そして僕たちが追放されてこっちにやってきた時の軍資金として余った龍の素材を持っていたということか。問題は鍛冶屋だ。地上最高?これ絶対に父様の知り合いのドワーフとかでしょ。龍の加工なんてそれこそ並大抵の鍛治屋じゃ無理に違いない。スケールが大きすぎてわかんないけど。ドワーフ製の装備が2つ•••いや、まじか。興奮超えて心配が勝つぞこれ。試験前にとんでもない贈り物だ。ちょっと今まで必死に貯めてきた試験の知識が吹き飛びそうだ。大丈夫かこれ?
「ち、父様、ちょっとこれはインパクト強すぎますね••••」
「あ、あ、あ」
オリビアもあうあう震えている。
「ふはははは」
ふははははじゃないよ!
父様たちはしてやったりな顔をしている。でもこれを用意するのもだいぶ根気がいったはずだ。面食らったとはまさにこのことだけど、父様母様、本当にありがとう。
「あなたたちがそれだけすごくなったってことよ。誇りなさい」
母様、泣きそうです。
「うむ。本当に大きくなったな。そろそろ王都行きの馬車が出るだろう。こうしていると私もウィルたちが行くのに寂しさを覚えてしまいそうだ。旅立ち、大手を振るって見送るのもまた親であり師匠の役目だ。後は2人で世界を見てこい。試験の結果が出るまでは私たちもこの村にいるからまた稽古もしてご飯でも食べようではないか」
「ウィルもオリビアも、頑張ってきなさい」
父様と母様が笑顔で送り出してくれる。
「はい!父様母様、頑張ってきます!」
「師匠、ウィルのお母さん!行ってきます!」
なら僕たちも笑顔で旅立つだけだ。
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林の向こう側、塗装された道に馬車はつく。僕たちは父様と母様に手を振られ見送られながら馬車の元へ向かった。林を抜けると、馬車はすでに停車していた。そこにはオリビアのお父様とお母様もいた。
「お父さん、お母さん•••」
「オリビアのご両親もお見送りに来てくれたみたいだね」
「もう、朝家で行ってきますしたのに」
そんなオリビアはどこか嬉しそうだ。
「オリビアのお父様、お母様、おはようございます!」
とりあえず元気な挨拶だ。僕は引き篭もりで昔のトラウマで人の目をあんまり見て話せないけど、その分元気さで巻き返したい。あの人あんまり人の目見ないけど元気だよね、って周りにいる人を明るくさせたい所存だ。
「ウィル君、改めて本当にありがとう」
オリビアの若くて逞しいお父様が僕に頭を下げる。え、ちょ、僕何かしましたっけ?
「オリビアは見ての通り可愛くて頭も良い娘だ」
親バカ発言だけどオリビアが娘ならその発言も仕方ないし、そうなるのが正常だ。僕もわかります、お父様。
「だからこそ、僕たちはオリビアに世界へ羽ばたいて欲しかった。もちろんオリビアの僕たちに対する感謝の気持ちはとても嬉しい。そうして僕たちに還元しようとする気持ちも親ならこんなに嬉しいことはないだろう。ただ、その分オリビアには才能がありすぎる」
僕はオリビアのお父様の話を真剣に聞く。
「そんなオリビアと一緒に切磋琢磨してくれてありがとう。2人で王立学校を受けると、自身の気持ちで選択して、尚且つこの1年、その頑張りを見ていたらどれほどウィル君とオリビアが逞しいかは身にわかるよ。ウィル君たちに出会えたから、オリビアも外に出れる。本当にありがとう」
そう言ってオリビアのお父様とお母様はまた頭を上げる。
「オリビアのお父様、お母様、顔をあげてください。僕は何もしてないです。オリビアがただ素晴らしいだけです。それこそオリビアが自分で選んできたことです。その原動力はオリビアのお父様とお母様です。僕たちは何もしてません。オリビアとオリビアのご家族が素晴らしいだけなんです」
「ふふ、本当に、君は達観しているな。そんな君が横にいてくれると安心だ」
「そのままずっと一緒にいてくれてもいいんだけどね〜」
「ちょちょちょお母さん!!余計なこと言わないでよ!!」
笑い合うオリビアの家庭。本当にそれだけで素晴らしい家庭だとわかる。愛に満ち溢れている。
「もう、じゃあ行ってきますね、お父さんお母さん」
「ああ、頑張ってこいよ。ウィル君も元気でな」
オリビアのお父様とお母様に笑顔で見送られる。こんなに笑顔で見送られて、僕たちは幸せ者だ。
さぁ、王都へ出発だ。
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ごとごとと揺られながら王都へ向かう。
馬車には20人は乗れそうなくらいの広さがある。この村が始発なために今はその大きな空間に僕とオリビアの2人だ。
「これすごいね」
「いやあ、おったまげたよね」
オリビアと僕は餞別でもらった細剣と手袋についての話題で持ちきりだ。
「僕の手袋、魔力を少し通しただけで呼応するんだもの。実質2倍の効果なのかわからないけど生身にも作用するしこの手袋自体にも作用するんだ。だから手袋が全て吹き飛んだとしても生身で持続してるから大丈夫なんだよね。すごくない?」
さっそく僕は手袋を装着して肌身離さず持つことにした。父様と母様の温もりを感じるためなのもあるけど、有事の際に対応しやすい。帯剣と同じようなものだ。
「わたしのも魔力が勝手に流れていくような感じ。それだけでこの剣自体の強度と切れ味が上がってる気がするよ。あとなんかわたしも身体強化をしてるみたいになるんだよね。これって付与なのかな?」
「いや、たぶん素材の性質じゃないかな。もともと魔力が流れていて強度を上げていたり体の性質を高めていたりしてたんだと思う。身体強化の補助はよくわかんないけどその延長線じゃないかな」
恐らく”邪龍化”していた素材の影響で身体強化の効果が付随されているのだろう。これを説明し始めたらちょっとめんどくさいから心に留めておこう。
「なるほどねー。でもそれは付与ではないの?」
「付与はその物の波長を合わせて発現する魔法だけど、どちらかというと無理やり押し上げる感じなんだ。だからいくらでも付与魔法として性質自体をどこまでも上げれるけど、本体が耐えれなくなったら普通に壊れたりするよ」
オリビアが攫われそうになった時に僕がした付与で僕の木剣はぶっ壊れた。あの時にオリビアを攫おうとしてた人もそう言ってたしそういう事なのだろう。
「でもこいつたちは違って壊れるまでとかそこまではいかない。本来の持ってる力上限いっぱいを出し切れるところで打ち止めされる感じだ。付与のようで付与じゃない感じ、非常に興味深い」
しかもこんな特性を持つのは魔力が濃密に携わっている生物だけだろう。そんな素材は数が限られる。本当にとんでもない代物だ。こんなに良いものなんて、父様母様本当にありがとう。僕は手袋に頬をすりすりし愛情を注ぐ。
「わたしも常に装備しておこっと。確かに師匠の言う通り今の私ではちょっと重いけど、使わないと馴染んでこないよね。ふふ、どう?かっこいい?」
あぁ、かっこよく、そして可愛いぜ。完全で究極の戦士様だ。
その後は村での思い出を語り合ったり、試験の問題を出し合ったりなどしていつの間にか人が乗ってきたり、馬車を乗り継いでたりと時間はすぐに経ち夕は暮れて行った。
そして今、王都直前の乗り継ぎ場だ。




