第二章 第五十一話 【旅立ち】
やれることは全てやった。後はそれを出し切るだけだ。
ホグン村はマドワキア中央王国にあるも端の端に位置する。王都に行くには朝早くから中央王国行きの馬車で出発し、乗り換え乗り継ぐことでなんとか夜までに着くと言った感じだ。長旅ではあるが試験前の1日、馬車の中で揺れながら勉強もできないだろうしこれまでコンを詰めてしていた勉強を一旦休ませて、オリビアとゆっくり明日に備えよう。
日が登り始め、うっすらと空が明るくなるような早朝、僕は自分の部屋であらかじめ用意していた荷物を確認する。うん、忘れ物は無さそうだ。
僕はこの寒い時期に身体を冷やさないようにしっかり着込んで出発の準備をする。1泊2日だしそんなに多くない荷物ではあるが、よっこいしょと持ち上げる。1年間一生懸命に勉強してきたメモ帳などが入っている荷物、実際の重みよりもなんだか身に染みる重みがある気がする。しかし、同時にこの重みが自信にもなる。
僕は自分の部屋から出て居間を通るとそこには父様と母様もいた。朝早いからご飯も食べずに父様と母様には休んでてもらって1人で行こうとしてたところ、見送りに父様と母様も準備をしていたのだ。
「おはようございます、父様母様」
「おはよう、ウィル」
「おはようウィル。いよいよだな」
「はい、やれることはやってきました。後はその全力を出すだけです!」
「うむ、その心意義やよし、だな!」
母様と父様の労い、うぅ、早くもホームシック。
「ところでオリビアとはどこかで待ち合わせているのか?」
「はい、いつもの稽古場で待ち合わせしてます」
「そうか、じゃあ私たちから渡すものがあるから、私たちも付いて行ってもいいか?まぁなに、2人への餞別ってやつだ」
ええ!?そんなことされたらその餞別を毎日抱いて涙出しながら寝ちゃうよ!?
「いいんですか!?」
「息子と弟子の立派な旅立ちの一歩だ。師匠とその妻からのカッコ付けの花向けだと思ってくれ。さ、オリビアが待っているんだろ?」
父様、母様ありがとうすぎるよ•••。
「ありがとうございます。はい!いきましょう!」
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父様と母様もついてきていつもの稽古場へとやってきた。ここにきてから約3年•••この稽古場とは離れるには離れない場になっちゃったな。父様と始めた稽古が昨日のように思い出せる。なんだか感慨深く、この冬の寒さと相まってセンチメンタルな気持ちだ。
そんなセンチメンタルな僕に酔いしれながら稽古場を歩いていると、オリビアも同じタイミングで林の方から歩いてきていた。今ちょうど、寒い冬の早朝に白い吐息を漏らしながら、オリビアも来たところのようだ。
「やあ。おはようオリビア」
「おはようウィル。師匠とウィルのお母さんはお見送りに来てくれたの?」
「うん。あと、僕たちに餞別があるんだって」
「餞別?」
オリビアがきょとんと首を傾げる。うん、朝から可愛いぜ。
当の餞別たちについて、気になるので見ないようにしてたけど、父様は今、細長い物と小さな手のひらくらいの物を持っている。恐らくこれが僕たちに渡す物だろう。ただ、どちらも布がかかっており中身はわからない。
「2人ともいよいよだな。この数年、本当にお前たちは頑張った•••ウィルは”真”に至り、オリビアは”真”にも迫る免許皆伝者に成長した。そして自らの意思で世界へ羽ばたこうとしている。本当に、本当によくぞここまで成長した。私はお前たちの成長が心の底から嬉しく思う。そしてそんなお前たちは私の誇りだ」
父様は微笑み、僕たちに近寄る。
「そんな可愛い息子と弟子に私たちからの贈り物だ。まずはこれをオリビアに」
細長い布に包まれた物をオリビアに渡す。
「ありがとうございます師匠!これ開けてもいいですか?」
「あぁ。もちろんだとも」
布の中から出てきたのはオリビアの美しい金色に似合う、とても綺麗な純白のすらっとした鞘に包まれた、純白の細剣だった。
「剣、だ。え、こんないいものもらっていいんですか!?」
「うむ。オリビアのための剣だ。何かあってはいけないと、稽古で真剣を使わないのは私の方針でもあったが、外に出るなら剣は必要だ。今のオリビアには少し重いかもしれないが、もう少ししたら手に馴染んでくるはずだ。細剣にしたのはまあ、使えばわかる。あまりそういったアドバイスみたいなことを私は好きではないが稽古についてきてくれたお礼だとでも思ってくれ。そしてオリビア、慣れる間に真剣に触れ、そしてその剣が人の命も切り刻んでしまう物だという重みを感じて欲しい。それを経てこそ、真に剣が自らの物になるだろう。しっかりとこれからも日々精進するように」
純白の剣は魔力を宿していると錯覚するほど魔力が集まっているかのようだ。いや、魔力に対する親和性が高すぎる素材なのか。ちょっと待てよこれまさか•••
「次はウィル。ウィルにはこれを」
もう一個の手のひら大の布に包まれた物を僕は受け取る。
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「うむ。開けてみよ」
僕も布をはだけさせ、中の物を露出する。そこに出てきたのはオリビアの剣同様な純白な手袋だ。肌触りは絹のように艶やかであるのに、その強度は皮のように頑丈そうだ。しなやかで尚且つ強度も保たれている。紛れもない超一級品の素材だ。そしてこの手袋もまた、魔力の親和性に優れた性質を持っている。親和性がこんなにも良い素材は初めて見た。
「ウィルは”真”の型に合わせてグローブを送らせてもらった。素手でもウィルの型は良いとは思うが、やはり防具として身につけた方がいいだろう。この素材ならウィルの付与魔法の邪魔にならずに、さらにウィルの全力の魔力量にも応えれるはずだ」
これほどの親和性なら生身で魔法を使っても手袋も呼応して付与の魔法が連鎖的に発現するだろう。本当に防具も兼ねて、付与魔法の補助にもなる一品だ。こんなことができる素材ってやっぱり•••
「父様、こんなにいい物誠にありがとうございます。オリビアの剣といい、この手袋といいこれほどの物に正直震えて感動しております。肌身離さずに、父様と母様の温もりを忘れず、涙無くして使えない物として使わさせていただきます。そしてもし良ければでいいんですが、この道具の素材は一体何が使われているんでしょうか?」
父様と母様はいたずらな笑みを浮かべる。
「これはだな、”龍”の素材でできている」
「龍!?御伽話の生き物じゃないの!?」
うわあ。やっぱりだ。オリビアなんてびっくりして大きいなお目目がさらに倍くらいに開いてるよ。とすればあの時の龍か。
「まあ昔に龍の素材が手に入ってな。その時は色々物入りの時期だったからほとんど素材は売ってしまったが、その時に少しだけ余った骨と皮を状態よく保存していたんだ。本当はこっちで困った時の足にしようとしたんだが、どうせなら最上品として使って貰いたくてな。色々考えてお前たちに装備品として細工してもらった。オリビアの剣は細剣と言えど並大抵のことでは刃こぼれすることなく、並大抵の硬さでも切れないものはほとんどないだろう。そしてウィルのグローブはどんな魔力量でも受け入れてくれるはずだ。まあ鍛冶屋については言えないが地上最高の物であると言っておこう。ふはは、どうだ凄いだろう?」
僕たちは唖然とする。




