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第二章 四十五話

 男は構える。でもそれは明らかに戦う構えではない。目に見てわかる、防衛本能によるただの身を守る構えだ。

 僕自身でも実感する。自分のプレッシャーが以前の比どころではない、と。そして、相手のことが手に取るようにわかる。


 これが”真”に達した領域•••。


 相手の動きだけでなく、その意図すらも感じる。自分が到達していた未来視は所詮、足元でしかなかった。”真”に到達し、自分のイメージが全て現実になるとき、自分の経験と予測も今までの範疇を飛び越え、未来視も”真”に極まる。自分の考え、予想を網羅し、そしてそれに対応できる自分の動きすらも理論値を叩き出せるためになしえる領域。


 溢れ出る戦闘のイメージ。自分でも言ったが、手加減できる気がしない。


「!?」


 刹那、僕は男の後ろにいる。

 ああ、身体が動く。想像通りに、理想通りに。手、脚じゃなくて身体が1つの塊として関連して動く。そこに時間差はない。僕の考えが、意思が、思考が、身体の動きに直結している。考えたと同時に僕の想像は現実になっている。


「なん、だよ•••見えねえ•••」

 

 男は僕の付与魔法によって剣となった両手によって一瞬で切り刻まれる。


 あぁ、そうだ。その通りだよ。僕はお前が見えない、()()()()()()()()()()()()()()()()

 “真”に至った未来視は相手の意図もわかる、それは相手の認識をも掌握できるということ。僕は相手の意識外で動き、意識外から攻め立てる。相手は敵を認識できないままいつの間にかやられる。最小限の動きで最大限のリターンを、これこそがヴァルヴィデア流剣術の基礎で有り真髄である由縁•••”真”にたどり着いた今、その意味を本当に理解した気がする。


「くそ!なんだよ!全くわからねえ•••!!」


 乱舞乱舞乱舞。もう僕を縛る武器という制約はない。

 男は1動きもすることができない。お前には1歩も動かせない。僕は体捌きだけで、予備動作だけで男の動きを封じる。


 男は狼狽える。動けない、認識できない間に、いつの間にか攻撃される状況に。威勢の良かった男はもういない。ただその有様は、わからないことに怯え、迷子になり周りをきょろきょろと見渡す子供のようだ。


 男はそれでも抵抗するかのように剣を振り回す。僕はそれを()()受け流す。うん、今の『補強』の付与でも身体強化と合わせればこんくらい全然耐えれる。


 僕はその耐久度を確認すれば、男が振り回すその剣を両手で絡め取り、片手で刀身を掴み、その剣の根本を思いっきり力を入れて力の限りで剣を叩き折る。


「バケモン•••」


 生身となった男の首を叩き、男は地面へ飛び込むように意識を失う。


「安心して、峰打ちってやつだ」


 林に、静寂が訪れる。戦いが終わった証拠だ。


 僕はこの戦いを振り返る。あんなにできなかったこの男の無力化をこうも簡単にできたこと、”真”に至るか至らないかでこんなにも差があったのだ。いや、”真”に到達した達成感は後で味わえばいい。今はオリビアだ。僕は急いでオリビアのところへ向かう。


「オリビア!」


「ウィル、見てたよ•••。でもウィルが木剣を手放してから全然目に追えなかった•••師匠と同じ凄みがあった•••あれが、”真”の領域ってやつ?」


 オリビアはぼろぼろになって喋るのもしんどそうだ。ただ、体に、見える範囲では目立った傷跡はない。オリビアは疲れ切った顔をしており、横になってるのにふらふらと目眩がしているようだ。これは魔力欠乏の症状、ということは魔力が回復するまで安静にしていればいつかは体調が戻る。

 はあ、よかった。魔力欠乏に陥ってはいるがオリビアの無事を確認しひとまず安心する。


「オリビア、無理しないで。これ、魔力欠乏の症状だよ。安静にしてれば魔力が回復するのと一緒にだんだん治ってくるから」


 オリビアはふぅ、とひと息つき目を閉じてやすむ。オリビアは無事だ。でも、なんとかである。僕の力は、役に立ったのだろうか。もっと早く駆けつけれたんじゃないだろうか。


「ウィル、そんな悲しい顔しないで。わたしはウィルのおかげで助かったよ。ありがとう」


 オリビア•••

 

 僕はその言葉で、自分が頑張ってきたことが正しいことであったんだって、その安らかな顔で強くなっていて良かったんだって、心の底から救われたよ。



 オリビアを休憩させ、体力も少し戻り大丈夫になった時、僕はオリビアを襲った気絶している輩たちを土魔法によって地面から生えるように作った鎖で、そのまま地面に押し付けるように拘束した。

 その後は村の人にお願いしてすぐに街から衛兵がくるように手配してもらった。

 衛兵が来てオリビアを連れ去ろうとした男たちはしょっぴかれて行った。その時にいろいろ衛兵の人たちにその時の状況なんかを聞かれたが、ありのままを言うとなんだか嘘のように聞こえたらしくて話半分で、日頃からちゃんばらしていたおかげでたまたま助かったみたいな感じで話は落ち着いた。

 なんか腑には落ちないけど簡単に話をまとめるとあながち間違ってもいないし、まあしょうがないかな。

 そんなこんなをしていると、すっかりと日が沈み始める時間帯だ。オリビアは村に帰ると安心したのか再び家でぐっすりと寝ている。魔力は戻ったけど心身の疲労はまだ残っていたのだろう。僕は衛兵の事情聴取などなどを終えてオリビアの家に寄る。オリビアの父と母に感謝され、オリビアの元にそっと案内された。

 

 今は僕もオリビアの側にいたい。

 

 オリビアが素直に寝ていることを確認する。うん、オリビアは無事だ。それが何よりも幸いなことだ。

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