第二章 四十四話
「チッ、もう1人のガキが来たか。まてよ、お前も身体強化の魔法を極めてんのか?おい、どうなってんだよこの村はよ。でも何回か見たが村の奴らは普通だったよな、お前ら何もんだ?」
男は明らかな警戒を浮かべている。
子供の駆け巡る身体強化の魔法を2人も連続で見ればそうなるのもおかしくないか。でも、そんなことはどうでもいい。僕はオリビアをこんなことにしたお前を絶対に許さない。
「まぁ、いいか。お前も連れて行って」
「強化」
今さっきからうるさいんだよな。黙ってオリビアの前からどけてくれないかな?
僕は持ってきた稽古用の木剣に付与の魔法を施す。
施す付与の魔法は『切れ味強化』と『補強』だ。
「•••お前まじで何もんだ?」
返事なんていらない。僕は無視して身体強化の魔法を爆発的にオンオフさせ、魔力場を干渉、動きにムラを見せ、男の目の前に一瞬で迫る!
男は魔力場の耐え切れない変動に膝が折れそうになり、その状況に明らかに動揺を隠し切れてない。
僕は容赦はしないぞ。
その隙を逃さず、僕は数えきれないほどの斬撃をぶつける。
が、
「ッ!!あっ、ぶねえ!!まじで死ぬかと思った!!この魔力酔いの質、本当になんだお前!!お前まじで、なんなんだ!!」
男は滅多切りになるほどの傷を帯びているが、急所は避けている。目に見える傷よりよっぽど軽傷のようだ。
僕の付与魔法が木剣に対してうまく作用して真剣同様の力を帯びていることに、いつもならその成果に喜ぶだろう。だけど今はあまり興味がない。そんなことよりも目の前の男だ。
こいつ、思ったより硬い。
でもそんなの関係ない。硬いんなら、ぶっ壊れるまで攻めるだけだ。
正面から上から横から下から攻めて攻めて攻めて攻め続ける。
だが、男は受け止めるべき部分だけ受け止め、致命傷だけを避け凌ぎ切る。
「は!こちとら伊達に今まで死地を抜けてきたわけじゃねえのよ!!」
攻めて攻めて攻め続ける——————が、男を無力化するまで至らない。
男は完全に攻めを捨て守りに徹している。なんとかのところで、男は捌ききっている。
男は僕と鍔迫りあったわずかな瞬間、無理やり引き剥がすように斬り払い、その反動でわざと後ろに退き距離を取る。
凌ぎ切られる。つまり、それだけの技術があるということだ。
「なんで、なんでそんな技があるのにこんなことを•••」
男は鬩ぎ切った間に、呼吸が乱れているが、それでも僕の言葉がよほど理解できなかったのか目を見開く。
「は?はあ!?ハハハハハハハハハハハハハ!!!」
瞬間、我に帰り男は高々に笑う。
「てめえはやっぱりガキだな!世間を知らねえガキそのものの意見だ!技術があるからなんだ?それで世の中うまくいけばいいよ!だがな、どんだけ力を持っててもタイミングが悪けりゃ何も残らねえんだよ、この世の中はよ!!だからこんなことして生き残らなきゃいけねえやつだっているんだよ!!てめえみたいな脳タリンな理想と夢しか語らねえガキは本当に嫌いだ!!てめもあわよくば売り捌いてやろうかと思ったが撤回だ、屈辱に屈辱を重ねて哀れに無惨に、この世に生まれたことを後悔させてやるよ!!タダでは死なせねえよ絶対にだ!!!」
男の身体を駆け巡っている魔力が一段と濃くなる。身体強化を強めた証拠、僕が居ついている隙に、男の攻撃がくる。
無茶苦茶な攻撃ばかり、でもそれはなぜか筋の通った攻撃、完全に我流の剣だ。
僕は強化した木剣で防ぐ。真剣と木剣がぶつかったとは思えないような金属音が響き渡る。
「チッ!まじでお前なんだよ、付与まで使えるガキなんて聞いたことねえぞおい!」
「ッ!!」
ヴァルヴィデア流の剣術、我流の剣術、お互いに何度も剣を交じり合わせる。
僕の方が圧倒的に手数は多いし、明らかに傷を負わせている量も桁違いだ。なのに、なのに押し切れない!
状況がまずくなれば男は問答無用で距離を取るし逃げに徹し守りに徹し、不意に攻めてくる。そんな暇をつくらないほどに攻め続けるが防御に徹した武ほど崩せにくいものはない!
攻めれば攻めるほどずっと違和感を感じていた半歩の遅れが邪魔をしてくる。自分の想像が、攻め崩せるイメージが体に追いつかない!くそ、居つくな!そんなの関係なしに、ここで!こいつを!無力化しろ!!
その時、何度目かの剣が競り合ったかわからないくらいの時、僕の木剣が鍔ぜりあった部分から崩壊し、砕け散った。
「!?」
「は!!武の神は俺に味方してみてえだな!!そんな木の橋切れがてめえのアホみてえな強化に耐え切れなくなったんだよ!!誇れよ!!物が耐えられねえ、それだけ強え付与魔法だったってことによ!!そして嘆きな、愛されなかった自分の運をよ!!」
男が好機とばかりに迫り来る。
剣が、ない、どうする、考えろ、今の状況で何が、必要か、何か代わりを————いや違う。
これで、これでいいんだ。
武器も何もない、この状況が正解なんだ。
僕は折れた木剣を手放す。
僕はたどり着いた。今まで何度も登っては、ずっと見えない頂に、その最果てについにたどり着いた。当てはまらなかったパズルのピースがガチっとはまる。今まで霞かがった視界が晴れ渡り視野が何倍にも広がる。僕がずっと感じていたイメージからの半歩の遅れはこれだったんだ。
今思えばそうだ。僕は稽古の際に常に自分の身体の範疇で想像していた。そのときに武器分の差を入れることは僕は無意識下で出来ていなかったんだ。だからこその半歩の遅れ、武器のリーチ分の差がずっと付き纏っていたんだ。
「戦意喪失か!?いまさら降参なんて遅え、許しを乞おうが泣き喚こうがてめえ、は!?」
「強化」
僕は自分自身の腕から手にかけて付与魔法を発現させる。そう、武器の差があって武器が邪魔なら、自分自身を武器にすればいい。
自分の身体は自分が1番知っている。それは身体強化の魔法の際に、極地にたどり着いた時に、自分の魔力の流れを掴んだことで知り得た。だから武器に付与をするよりも自分の身体を付与する方が簡単だ。そして自分の身体なら、自分のイメージ動きと現実との差はゼロだ。
僕は両手の母指の第一関節を曲げ、他の指はまっすぐに伸ばす。左手を少し前に、そして右は肘を腰に軽く添える。
手刀の構え—————自分自身の付与、しっくりくるじゃあないか。
この両手が僕の剣だ。
「構えろよゲス野郎。今の僕は今さっきよりも手加減できる自信はないぞ」




