第1章 5話
「••••なぜでしょうか」
「国というのは少し、大きく言ってしまったな。国というか、私たち王族が解雇になった」
なるほど、そういうことか。
「責任を取らされた、というわけですね」
「なんというか•••ウィルは、本当に理解がいいな。そうだ。まず、ウィルが部屋から出られなくなった原因の”血の疲労会”のときにすでに私のことをよく思っていない貴族から反発があった。その事後処理でここ最近は忙しかったのだがどうにか鎮圧しかけていたところで、今回の暴れ龍の事件が起きた。これがトドメとなって、貴族だけでなく国を担う1番安全ではならない王族•王城が1番危険な状態になった責任をとれと言ってきたのだ」
「でも、それは、父様に関係があるのでしょうか?」
“血の披露会”の失態はわかる。あのような多くの貴族や商人が集まった場所に賊が入るのを許したのは確かに批難する要因にはなるだろう。でも、暴れ龍はどうだろうか?そんなほぼ災害みたいな出来事に対してその言い分は罷り通るのか?
「運が悪かった、としか言いようがないな。それか、上手く運ばされたか、だな」
おそらく、後者なのだろう。血の披露会の時点で上手くいかなければ、今回の暴れ龍くらいの策を用意していたに違いない。なら黒幕はどこなんだ?こんな国の王族を落としたところで利益はあるのか?次に続く王は引き落とした1つではあると思うけど、黒幕ではないだろう。
ここで黒幕を考えたところでわかったとしてそいつらを吊し上げてもたぶんこの現状に変わりはない気がする。
だったら今後について話し合うのが1番なんだろうけど•••
「父様、いくつか質問よろしいでしょうか?」
「うむ。答えられるものは答えよう」
「今回の暴れ龍の件でみんなはどうなったのでしょうか?僕があのとき見た光景は覚えてる中でも、とても残酷なものばかりでした」
「たしかに重症者はたくさんいる。生死を彷徨ったものだっていた。みんながみんな無事ではないが、なんとかみんな生きているぞ」
「それは、よかったです」
あんな中でみんなが無事なのは不幸中の幸いだ。
でも、今後の生活が苦しい人は出てくるだろう。そのことに対してなんとかできないのは、悲しいし、悔しい。
「重症の方で後遺症が残った方はどうなるのでしょうか?」
「そのことについては国が全て責任を負うつもりだ。本人、そしてその家族についても今後見ていくことを約束した。こればかりは私のけじめだ。」
なんか、父様はやるときはやるんだな。引き篭もってたばっかりだったし父様の国の主たる風格を目の当たりにしたのは今日が何気に初めてかもしれない。披露会の時は父様も動き回ってるのは見ていてかっこよかったけど、正直自分のことでそれどころじゃなかったし。母様の尻に引かれてるとこしかみたことないや。本当に王様やってたんだな。
「ウィル今失礼なこと考えてないか?」
「いえ、そのようなことはまったくありません。民を思う父様に感動していただけであります」
「いつも情けない父親しかみていないから意外なのよね。父様はかっこいいのよ?腰が抜けたのも本当はびっくりして椅子から転げ落ちただけだからね?」
え、なにそれ父様はドジっ子なの?可愛い。
「母さん•••」
母様のツッコミで父様がいつものようななよなよ父になっている。でも顔は朗らかに嬉しそうだ。その光景に母様もにっこりだ。仲が良くて僕も嬉しい。
そして最後に聞きたいことを聞こう。
「最後の質問なのですが、僕たちはどうなるのでしょうか」
今まで和やかだった空気がぱりっと引き締まる。1父親だった父から国王への覇気へと戻る。
「まずウィルのことだが、ウィルは私と母さんと一緒に母さんの遠い親戚の場所に移る。ウィルがまだ幼いからの措置だ。もう裕福な暮らしはできないが、むしろ貧しくなるが許してくれ」
これは、一家バラバラになるのか?
「いえ、それは全然構いません!それなら兄様と姉様はどうなるのでしょうか!?」
「ロードは王族の名前を破棄され、ただのロードとして生きていく。成人していると言うこともあり騎士として生きていくことになるだろう。そしてシャーリーはその才を認められ、中央王国の御子息がおられない公爵の養子になることになった」
条件を聞くだけならいい方だろう。しかし、これはあまりにも•••
「あまりにも別人の人生ではありませんか•••」
僕はまだいい。年齢も低いしどんな境遇でも変わらずに生きていけるだろう。ただ、兄様は?姉様は?
兄様は世間が天才と認められたお方だ。ただ今後はどうだろう?没落の名前がつき、ただでさえ妬ましく思われたところにつけいる隙ができるだろう。
姉様は、本当に貴族社会の言いなりじゃないか•••!
「僕たちが•••父様たちが、何をしたって言うんだ!家族を、兄様姉様の人生を!!バラバラにするほどのものなのですか!!!」
僕は無力だ!
結局魔法を使えるようになろうと引き篭もりから回復しようと社会の流れにはなんにも影響されない!!
なんで、なんでなんだよ•••じゃあ!なにしろって言うんだよ!!これ以上なにをしろって言うんだよ!!!
怒りで頭が埋まっていく。
力が、力が欲しい。何にも負けない、屈しない、誰をも何よりをも!!ひれ伏せさせる圧倒的な力が•••!!!
そのとき、温もりが感じられた。
目の前が見えていない怒りに今更気付き、現状を知る。
母様が僕を抱きしめ、父様が僕の頭を優しく撫でてくれている。
「ウィル、その道はだめだ。全ては私の責任、私が全て背負えばいいだけのことだ。そのための私だ。そして私たちは誰も死んでおらぬだろ?死ななければまた会える、どうとでもなる。だからウィル、覇道はお前が背負うものではない」
「ウィル、私は優しいウィルが好きよ。魔法のことを考えて、それをみんなのために使う優しいウィルが、私は好きよ」
「僕は、僕は•••」
温もりが、身体に広がっていく。今までの怒りの感情が頬を伝って薄れていく。
僕は本当に弱い。母様にはさっきも慰めてもらって。僕はまだまだ弱すぎる。身体的にも精神的にも。
「ウィルよ、私たちは一緒だ。そして言うのが遅れたが、私たちがこれから暮らす場所も辺縁ではあるが中央王国だ。ロードとシャーリーに会ったとき、お前の成長ぶりで驚かせてやろうじゃあないか。だからその日まで一緒に頑張っていこう」
僕は何も言えず、ただ止めどない涙を、手で拭きながら頷くことしかできなかった。
それでも、前を向けることはできた気がした。
父様と母様の温もりが本当に暖かい。
乗り越えていこう、父様も母様もいる。
そしてまた一家で集まって、みんなでご飯食べて、笑い会うんだ。
僕はもう悲観しない。絶望もしない。怒りに身をまかせない。
ロード兄様、シャーロット姉様、待っていてください。このウィル・ヴァルヴィデアが必ず、迎えに行きます。
僕は決意を固め、顔あげた。おそらく僕の顔はぐちゃぐちゃだろう。
でも、これだけは言いたい。
「父様、母様。僕はみんなのためにがんばりたいと思います」




