第二章 四十二話 【変化】
僕は相変わらず”真”には辿り着けず、オリビアはめきめきと成長していく日が通り過ぎていった。
現在は冬が過ぎ、寒さは残るがだんだんと草木が活気づいてくる季節へ衣替わりしようとしていた。そう、年が迎えたのだ。
「あ、今日もいる」
最近は厳しい寒さもないためか、商人が村に来ることも増えてきている。最初は物珍しく、また面白い魔道具など売ってないか稽古前にオリビアを迎えに行くついでにオリビアと覗き見してたけど、来る割にはあまり変わり映えしない商品しか置いてないからいつしか見に行くことも無くなった。本当に売る気あるのだろうか?
今日もオリビアを迎えにきたけど、どうやら家族で畑を耕したりとちょっと用事があるらしく稽古場に先に行っててとのこと。久しぶりに1人で稽古場に行くことになることに、僕は寂しさを感じながら、稽古場にとことこと歩いていく。
それにしても最近の商人は武芸にも秀でているのだろうか?なんだか物を売るにしても体の動かし方が武芸をやっている感じの人だったけど。
まぁ、人には色々な道もあれば趣味もあるか。
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「よーし、オリビア。今日はもう大丈夫だぞ。さ、ウィルのところに行ってきなさい」
ふぅ、なんとか終わってよかったー。今日は稽古できないかと思ったよ。でもお父さんもお母さんのこと色々手伝えてよかった。さぁ、今日もウィルと稽古するぞー!
「ありがとうお父さんお母さん!じゃあ先に行ってるね!」
今日は春を迎えるにあたって色々と準備をする時だった。ウィルには先に行っててって言ったけど、なんとか今日も稽古ができそう。ウィルは休息も大切だって言うけど、1日の遅れは3日の遅れ、2日の遅れは1週間の遅れ、3日の遅れは1月の遅れなんてことも言う。休めばいいのか毎日頑張ればいいのかどっちなんだい。
稽古する更地の場所は、わたしの家がある村から出て塗装された道に出てから4-5mの林を抜けたところ。ウィルが先に待ってるし早く行かなきゃ。
稽古場に向けて村の広場を通る。あれ、商人が今日もいる。なんだか最近よくきてくれるなー。でも、全然商品変わんないし売る気あるのかなー?ってウィルと言ってたっけ、ってやば、横目で見てる場合じゃないや。
えっほえっほと小走りで村から出ていく。そのまま塗装された道をそのまま行き、更地へ続く林に入ろうとする。
いつもはそこは誰もいないような場所だ。
よっぽどの用事がない限り、誰もそんな更地に近寄らないし更地に抜けようだなんて思わないから。
でも、今日はそこに7、8人の男たちがいた。見た目は普通の農家のような服装。ただ、この村では見たことがない人たちばかりだ。
「お嬢ちゃん、いいところに。道に迷ったんだけど教えてもらってもいいかい?」
そのうちの1人が私に話しかけてくる。
なんだ迷子の人かー。ここらへんは辺境だし道が塗装されているとはいえそんなに綺麗に整備されてるとは言えないからなー。迷うのもわかる気がするよ。
とは、わたしは思えなかった。
なんだか嫌な予感がする。早く去ろう。
「村はあちらですよ。じゃ、わたしは用事あるんですみません!」
無理やり行こうとすると話しかけてきてない男たちが前を遮る。
「ごめんお嬢ちゃん。よくわからないから一緒に来てくれないかな?」
話しかけてきた男が話しかけてくる。早くここから去れとわたしの勘が告げてくる。その勘が正しいと言うように、わたしを囲むように段々と男たちが周りに配置してくる。不穏な空気感がどんどんと漂ってくる。なんだか、これ本当にヤバそうだ!
「ごめんなさい!本当に行かなきゃなんで!」
その場から去ろうと掛け出すが手を掴まれる。
「はぁ。お嬢ちゃん、勘のいいガキは嫌いってやつだ。大人しくこっちに連れられろ」
「いやー、本当に綺麗なガキですねー。こんなにいい髪質の金髪に人形みたいな大きな目をした整った顔。こりゃ相当高値で売れますぜ」「田舎にこんな子がいるとは勿体ねえ。やっぱりこういうのは市場に出てもらわないとなあ」
男どもは下卑た顔で喋り始める。にやけた顔でわたしを見下ろす。
その邪悪な態度に身の毛がよだつ。
最初から、最初からわたしが狙われてた•••?
なるほど、わかった。最近頻回に商人が来てたのはおかしいと思ってたんだ。商品も補充されるわけでもないし変わり映えもしない。あれは様子見に何回も来てたんだ。わたしがどんな時間帯でどんな動きをしているか見てたんだ。それで、とうとう1人になったわたしをここで待ち伏せしてたんだ•••。じゃあ、村にいた商人も仲間の1人か。どうにか連絡を取ってここで待ち伏せしてたってわけか。
男どもがわたしが逃げれないように近づいてくる。
じりじりと囲んで逃がさないようにする大の大人たちを見て気持ちが悪くなる。でも、なんか、わたしがそんなプレッシャーで勝手についていくように思ってるのだろうか?なんだか腹立ってきたぞ。そんなんで、そんなプレッシャーで行くと思うのかよ、舐めんなよ。
一瞬で周りを見渡し武器になりそうな物を探す。よし、いいのがありそう。でも囲いからは逃げれそうにはない。
ならば—————
わたしは身体強化の魔法を体に駆け巡らせ、男の手を振り払い、目的のものを取る。
とったものはただの木の棒、ただ大きさはいつも使ってある木剣とほぼ同じ。武器としては、充分だ。
「おいこいつ!」「魔法を使うぞ!」「しかも半端ねえ」「でもおい、金色の魔力だぞ」「ここまでレアなこともあるのかよ!さっさと捕まえようぜ!」
「おいおい、魔法を使うってのは聞いてたけどよ、予想外すぎるじゃねえか。全然見えなかったじゃねえかよ。まあでも、そのためにお前を囲っておいたんだけどな。その身体強化したアホみたいな速度で逃げられないようになあ?」
こいつらどこまで知ってるの!?
予想外ってことはわたしとウィルの稽古は見られてないってこと?最近のウィルとの魔法練習だけ見てバレる前に逃げてたのか、いや、よそう。考えても出ない答えにようはない。わたしはすぐに思考を切り替えて今の状況を確認、実力がバレてようがバレてなかろうが、どちらにしてもヤバい状況なのは変わらない•••ならやられる前にやるしかない!!
わたしは筋肉に悲鳴が上がりそうなくらいの身体強化を自分に施す。短期決戦で決めて、ウィルの場所へいく!!!
「は?」
目の前のやつに一瞬で懐に入り、木の棒で顎を砕く。その衝撃で糸が切れたように顎が砕かれたやつが後ろに抵抗もなく倒れる。
よし、まずは1人。
息を切らさず、その真横の敵の脳天を真っ向斬りで叩き割り、気絶させる。このまま押し通るからね!!
「こいつ!」「ふざけんな!」「容赦すんな!」「囲って身動き取れなくしろ!」
男どもが騒ぎ立てる。ふん、負けるもんか。ウィルや師匠にだって見えないほどの動きって言われてるんだから。身体強化もろくにできないお前たちなんかにやられるか!
わたしはもう1人も意識を刈り取り、相手の戦力を削いでいく。あと5人、油断なんてしない!!
身を躱し、不意をつき、1人ずつ1人ずつ倒していく。そして遂には相手は1人となった。最初に喋りかけてきた男だ。
「あなたで最後だ。今度からこんなことしないことね」
「おいおい、おいおい!ここまでやるガキなんて聞いてねえよ!なあ!まあでも」
ごとん、と男が倒れる。
「そんなに喋ってたら隙だらけだよ。何言いたかったか知らないけど、早く終わらせたかったから許してね」
はあ、よかった。相手がろくに身体強化もできないチンピラだからこの人数差でもどうにかできた。でも、こんなに強く身体強化の魔法をかけたのは初めてだし、この人数差で戦ったのも初めてだから、慣れない戦いで魔力の燃費も考えれなくてそろそろ魔力がつきそうだ。ふぅ、さあウィルのところへ行こうか。
その時、背後から足音が聞こえてくる。
「あーあ、全員やられちゃってまあ。もう1人のガキと魔法ごっこしてたからただのひよこちゃんと思ってが、這いずるようなその身体強化の魔法•••武芸には秀でてたってわけか。はあ、これは俺の調べ不足ってやつだなあ」
な、なに、この人。
ただ気怠そうに立っているだけなのに隙という隙がない•••。
男はめんどくさそうに、そのもじゃもじゃな頭をぼりぼりとかく。
今の雰囲気からは全くわからなかったけど、この男の人、あの村にいた商人だ。立ち振る舞いでこうも違うの•••この人、明らかに武道に精通してる人だ•••!!
しかもその立ち振る舞いからその領域は並大抵じゃない。
「さぁ、お嬢ちゃん。一緒に来てもらおうか」
嫌な汗が、体を伝う。




