第二章 第四十一話
「父様!なんだか父様との稽古は久しぶりな気がしますね」
「そうだな。日中に家を空ける時が増えてきたからな」
父様は僕たち2人を見る。
「うむ、2人ともまた一段と逞しくなったな。これは稽古が楽しみだ!」
豪快な父様の笑い声と共に稽古の準備が始まる。うん、前の父様がいる稽古が戻ってきたみたいだ。
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準備を終えたオリビアと父様が木剣を構えて対峙している。父様は皆伝前用の片手剣の構え。父様は皆伝前は相手側から打たせるのが通説だ。だからオリビアの準備はいくらでもできる。さあオリビア、父様に新しいオリビアを見せてやれ———!
オリビアが身体強化の魔法を組み立てていく。もちろん今のオリビアはそこに魔力による魔法文字列はない。
金色の魔力がオリビアの身体を駆け抜けていく。そして魔力がオリビアの身体を駆け巡り、その領域へ至った身体能力の魔法が発現する。
瞬間、オリビアの姿が消え父様の斜め後ろ、その死角を付く。
よし、父様は完全にオリビアを見失っている!
オリビアはその隙をつくように下段から切り上げる、が、父様はそれを無理やり見向きもせずに片手の木剣のみで受け止める。
父様やば!でも、これは•••
「オリビア、その身体強化の使い方よくぞ身につけた。私もついつい全力の身体強化を施してしまったぞ。見事だ!」
お返しと言わんばかりに身体強化を用いたその剛剣でオリビアを吹き飛ばし距離を取る。
父様の、本気だ。父様の魔力は雄々しい赤色だ。その豪胆無比な魔力に包まれた父様からは圧倒的なプレッシャーが放たれる。
オリビアはそのプレッシャーを目前と身に受けてとても窮屈で苦しそうだ。冷や汗が目に見えてわかる。
でも、オリビアが父様の本気を引き出したんだ。父様が本気を出さないといけないと、オリビアのその圧が父様の本能に、本気の身体能力を引き起こさせたんだ。
息づく暇もなく、父様はその距離を詰める。上段からの駆け引きもない真向斬り。オリビアが咄嗟に木剣で防ぐ。その時、木剣と木剣がぶつかり合ったとき、空気を震わすような轟音が鳴り響く。いや木剣同士の音じゃないでしょ、これ。
オリビアはなんとか耐えているがメリメリとその受け止めた木剣ごと膝をおり、地面へと押し付けられていく。
「勝負あったな」
「ッ!!負け、ました•••」
オリビアは父様の木剣を受け止めているが、その状態でオリビアの首筋に木剣を突きつけたのだ。実戦なら後は剣を引くもよし、そのまま切るもよしでオリビアに後はない。ただ、オリビアは父様のその強さの領域へ踏み込んだ。これは、僕の見立て通り———
「オリビア、よくぞ私に本気を出させた。よくぞその齢でたどり着いた。ウィルと鎬削りあってるおかげか•••お前たちは素晴らしい!」
「??」
オリビアは疲労困憊し地面に座り込んで肩で息をしている。そのせいで状況がよく掴めていないようだ。
「父様ということは?」
「ああ。オリビア、おめでとう。免許皆伝だ」
「???」
オリビアは父様の圧力、そして免許皆伝のワードにどうも頭がオーバーヒートしているようだ。
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一息つき、オリビアの息が整う。
「えっと、わたし師匠に負けたよ?」
「オリビアは父様の領域に踏み込んだんだよ。すごかったよオリビア!」
「オリビアの無駄のない体捌きに至った身体強化の魔法、まさに迅雷疾風の如し目にも止まらなぬ速さだ。後は技術がより高みに行き、突き抜ければすぐにでも”真”へ辿り着くだろう」
うん、僕もそう思った。オリビアの型は悔しいが完成されつつある。その目にも止まらぬ速さはオリビアの考えついたことを体現した型だ。僕だけでなく父様にも初見で可視が不可能ということはその速さと言う領域では免許皆伝を超えている。オリビアが自分を貫き通して行き着いた証だ。
「えっと、なんだか負けたのに実感がわかないなあ•••。でも師匠を本気にさせたってことだよね。それは素直に嬉しいかも!でも、ねえ師匠、”真”って何?」
そう、問題としては”真”について語る時、ヴァルヴィデアについても語らないといけないことだ。
父様はヴァルヴィデアについて語る。真・ヴァルヴィデア流剣術にはじまり、さすがに王であったとは言わないが、数少ない真・ヴァルヴィデア流剣術の使い手であること、そして僕たちはその国の中でもその高位にいたこと。だからこそ”真”についても知っていることを。
ホグン村は田舎ではあるがマドワキア連合王国の中枢ではある。そのためにオリビアは周辺国家のことはざっくりとは知っている。その1つの”武の国”であるヴァルヴィデア王国、そしてその極伝に携わる僕たち、オリビアは何を思っているのだろうか。
「真・ヴァルヴィデア流剣術•••。ヴァルヴィデア王国に伝わる究極の剣技•••。やっぱり、ウィルや師匠たちってすごい人だったんだね」
父様は、僕も、この稽古にオリビアを受け入れてからオリビアにいつかは自分たちが何者かを話さないといけないという現実も受け入れていた。
「でも、そんなの稽古見てたらわかるよ。だから最初に言ったじゃん。ウィルたちみたいな、すごい人に自分もお父さんとお母さんに恩返しできるように力をつけたいって。だから今更すぎるよ!はあ、よかった。とりあえずはわたしも強くなってるってことだよね?よーし、まだまだ頑張るぞ!」
僕たちは、考えすぎていたのかもしれない。確かにオリビアに知られたところでそれは今更だ。こんなところで凄まじい稽古をしていること自体がイレギュラーなのだ。うん、オリビアは逞しい。僕と父様は顔を合わせる。なんだか厳粛な空気にしてしまったことが今となっては面白おかしくなってきてしまい父様と2人で笑いあう。
ああ、本当にオリビアに会えてよかった。
「よし、じゃあ次はウィルだな!」
そしていつも通りの時間が流れる。父様との稽古の結果?それもいつも通り打ち負かされたよね。




