第二章 第四十話
それからと言うもの、稽古前にはオリビアと魔法についての勉強、そして木剣による稽古というような流れが慣例化してきた。
「初級魔法『火球』」
オリビアの手のひらに赤色の熱を持った火の玉がめらめらと燃えている。
それは紛う事なき『火球』の成功である。
ホグン村も遂に冬真っ盛りでこの寒さに『火球』が暖かく身に染みて、めちゃくちゃ暖かみにありがたさが湧く。
オリビアは肺の空気を全て吐き出すかのように安堵のため息をする。その吐息も真っ白だ。
「いい感じだねオリビア。だいぶ安定してきたね」
「ふぅ、いい感じ!とりあえずは詠唱魔法として始めてみようかなって。イメージもついて魔法陣も不安定にならなくなったよ」
うんうん、この分だとすぐに無詠唱での魔法発現ができるようになるだろう。オリビアはいつだって飲み込めばすぐなのだ。
「でもウィルが前言ったように適正はあるかも。初級魔法だけだけど、やっぱりやりやすい元素っていうのがあるもん」
「まあ向き不向きは何事もあるからねえ」
4大元素の魔法はやっぱりそれぞれに特徴がある。その特徴に自分の魔力が、性格が当てはまることも不思議ではない。ただ僕はどんな魔法も使い勝手のよさ、使い勝手は悪いけどそれを超えるリターンで考えちゃうからそれぞれにあまり苦手意識はないけど、確かに最初は何もかもに苦労したなあ。
「でもそれを乗り越えたら魔法に対しての世界観も変わるしどんどん楽しくなってくるよ!」
レッツ魔法泥沼世界へ。
「なんかやばい勧誘みたいだけど。ただ、そうだね。使えるようになってくること、わからないことが増えて色んなことが見えてくることは楽しいね」
オリビアが悟ったように微笑む。一陣の風が吹きオリビアの綺麗な金色の髪が靡く。周りは寒さで木は葉も落ち、枯れ干からびている。そんな景色であろうとオリビアの儚げで逞しい笑顔はどの景色にも映える。
オリビアは絵になるなあ。
次の年迎えで僕たちは9歳だ。オリビアもだんだん完璧で究極の可愛さから、大人びた美しさへと花開こうとしてる。そういう意味でもあの時から年月が経ったんだなあと実感する。
「どうしたのウィル?」
「いや、ちょっと考え事。僕も歳取ったなあって」
「ええ?何言ってるの?まだまだこれからでしょ!」
ははは、オリビアに会えてよかったよ。こうやって切磋琢磨しあって、魔法についても毎日話し合えるし、毎日が楽しいよ。
「よーし、そうだね!じゃあ今日は4大元素以外の知識を授けましょう!」
「それ!わたしも気になってたんだよね。元素っていうほどだし魔法もたくさんの組み合わせがあるんでしょ?じゃあその組み合わせられた魔法って何になるの?」
「そう、オリビアの言う通り魔法にはたくさんの、それこそ無限の組み合わせがある。その組み合わせは4大元素を強化したような魔法にだってなるし、それこそ4大元素の枠を超えた魔法にだってなる。4大元素の魔法で名義されているのは初級、中級、上級の3つしかない。これは魔法を使う上で誰でも使えて、尚且つ上の魔法を使うためには鍛錬が必要だからといういい塩梅だからなんだけど、それ以外の魔法は『初級程度』のといったそれぞれの難しさの段階で別けられたりする。そしてオリビアが気にしてる4大元素の枠組みから外れた魔法を”固有魔法”って呼ぶんだ」
「固有魔法•••」
「そう、それぞれの魔法を解析して分解、複合して研究して作られていった魔法たちのことだね。種族によって違ったり、それこそ家柄によってそれぞれ違ったりするよ」
「家柄で違うってどう言うこと?」
「うーん、例えば貴族とかかな?」
貴族はそもそも貴族として鎮座しているだけあって歴史が長い。その分今まで発展してきた魔法の練度も歴史と共に長いと言うわけだ。
「あー、なるほどね。ウィルはなんか面白い固有魔法とかないの?」
「あるにはあるけど、あんまり使ったことないからどんな威力になるかわかんなくて使い所に迷ってるって感じかな。あ、1つ面白いのがあるよ」
「なになに!?」
前に父様と狩りに出かけた時に使った風属性の発展系の固有魔法である固定魔法だ。確かにこれの固定力を僕も知りたいと思ってたところだ。父様に試してもよかったんだけど父様とは剣術面をしっかり教えてもらいたいから中々言い出せなかったんだよね。だから申し訳ないけど、オリビアで試させていただこう。
「位置固定系の魔法なんだけど、オリビアは外れることができるかな?」
「ぷっちーん、その勝負受けてたとう!」
オリビアは腕を組み、どっしりと佇む。どこからでもかかってこいと言った感じだ。
僕は言葉に甘えて遠慮なく魔法を組み立てていく。
手は座標的位置固定をイメージしやすくオリビアの方へ、そして前の固定魔法の魔法陣にアレンジを加え、改良した2重の魔法陣をオリビアの足元に展開する。
「うぐ!?」
ビダッとオリビアは身動きができない。
「うぐぐぐっ!!」
オリビアは負けじと全身に金色の魔法を駆け巡らせ、全力で身体強化の魔法を自らに施す。
が、びくともしない。
まあ、オリビアは剛のタイプの身体強化じゃないしちょっとタイプ不一致すぎたかな。僕は魔力の供給を遮断して魔法を解く。
魔法の強度はあんまりわかんなかったな。
「はあはあ、はあ。ウィルのこの魔法面白いどころじゃないよー。ぜんっぜん身動き取れなかったよ?なにこれ?」
「面白いでしょ?これはね、風属性の派生系ってやつ。大型の獲物相手に作り出したやつなんだけどどうだった?」
「もう全然動けなかった。身体強化の魔法最大限にしたけど無理だった•••」
「大丈夫、これ3メートルくらいのすごいでかい熊も動けなかったから」
とりあえずオリビアはあの熊より力はないらしい。まあ逆に身体強化の魔法と言えど子供が3メートルの熊よりも力が出たらそれはそれで恐ろしいか。
「じゃあさすがに無理だよ!」
ふむ、じゃあどこまで固定できるんだろ?謎が深まるばかりだ。
「これ戦闘で使えたりしないの?」
「まだまだ近距離戦では無理かなあ。座標の設定も必要だし発現までにラグがあるからね。やっぱり大きな獲物を集団で討伐みたいな時に誰かに注意を引いてもらってって感じでその隙に発現!って感じかな?」
「確かにあんな魔法陣が出てきたらすぐに離れるよね」
うん、どのシーンにも使うのはまだまだ発展途上である。
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今日は父様がいる日だ。あれからオリビアは父様と稽古していない。是非とも父様に見せたいところだ。父様驚くぞー。僕の見立ててでは———
「みんな久しぶりだな。調子はどうだ?」
父様登場である。




