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第二章 第三十八話 【成長】

 月日が経ち、本格的な冬が来た。

 ホグン村は冬には雪がちょっと積もる。だから冬の稽古はしっかりと準備運動をしないと身体がカチカチで言うことも聞かない。僕はオリビアと軽く走り込んだりして体を温めてから稽古に取り掛かる。さて、今日はどんな稽古になるのだろうか。僕とオリビアは対峙する。この稽古によーいどんはない。お互いに集中し、始めたい時に始めるのがいつものことだ。


 でも、


「今日は本当にウィルに一本いれちゃうからね」


 なぜか、今日はオリビアの雰囲気が違う。それは稽古の前に喋りかけてくるって言うのもそうだけど、でも何か、何か違う。


 いつも通りオリビアが身体強化の魔法を発現していく。


 その違和感が僕の感覚に語りかけてくる。おかしい、何かがおかしいと。そのざわめきがオリビアに対して警鐘を鳴らす。父様と対峙した時と似たような危機感が僕を襲う。

 今、オリビアは身体強化の魔法を発現している。でも、そこに、魔法文字列がない———。


 オリビアの身体強化の発現、いつもはオリビアの身体を包み込むようにオリビアの金色の美しい魔力が発現するはず、なんだけど、でも、


 でも、これは!?


 今、その美しい金色の魔力がオリビアの()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!


「ウィル、いくよ?」


「!?」


 瞬間、いつもの比にはならないくらいの速さのオリビアの詰め。

 今までは所作で早さを表していた。今は普通に身体強化の魔法で速さ自体も底上げされてる。もはや初見で目で追うことは不可能なくらいだ。

 

 今まで稽古の始まる合図はなかった。でもオリビアは今始めの合図を自ら送った。それは、『対応できるのか?』と言った挑戦状の叩きつけだ。


 オリビア、僕は君を侮っていたよ。


 僕は瞬間に最大で爆発的に身体強化の魔法を発現、魔力場を干渉するくらいの魔力の緩急による猫騙しで対応。

 オリビアは初めての実戦での魔力酔いなのか思わずその勢いが殺され膝がぐらつく。その隙を、僕は逃さない———最大の身体強化を用いてオリビアに複数の”死”を突きつける。ただ、今は木剣を喉元に突きつけたのみの状態だ。だがその隙でつける致命傷になるイメージは全て押し付けた。


「あ、ぐ•••くそぅ」


 オリビアは項垂れ、息を吐く。

 僕は木剣の先をオリビアの喉元から下げる。

 一瞬での勝負の決着、でもその中に含まれている情報量は今までとは比べ物にならない。

 

「オリビア、それって駆け巡る身体強化の魔法だよね?」


「はあーーーー、ウィルの魔力酔い初めて直にくらっちゃった。しかも、今明確に死が見えたよ•••。ウィルのお父さんとやった時のような息が、詰まる、おえ、感覚だあ。はあーーあ、今回は行けると思ったのになーーー。ふぅ。そう、そうだよ。駆け巡る身体強化、だと思う。わたしはあの時に身体強化の魔法ができても全然ウィルやウィルのお父さんに歯が立たなくて、ウィルの言う限界をすぐに悟ったの。だからね、すごいわたしも考えたの。魔法だけでもウィルたちの”駆け巡る身体強化”に追いつきたいって。そしたらね、わたしって全然自分の身体を使いこなせてないんだって気づいて、そこからたくさん試してみたよ。それでたどり着いた、のかなって感じかな?これでウィルに負けたのは悔しいけど、どう?できてた?」


 僕は目を丸くする。

 なんて、執念だ。僕は自分の弱さを補おうと何年もかけてたどり着いた領域だ。それをオリビアは数ヶ月でたどり着いたのか•••。

 オリビアはすぐそこまできているのに、すぐに追い越されそうなのに、なんで。なんで僕はこんなにも心が躍っているんだ。尋常じゃない速度で成長していく強敵が現れたから?それとも自分を追い越さんとばかりに駆け上がってくる好敵手が現れたから?いや、多分どれもこれも正解だ。僕の前に強いやつがいる。それだけだ。はあ、僕もやっぱり戦闘狂なのかな?魔法が大好きな根暗なはずなんだけど。でもこのわくわくが止まらない。


「完璧だったよオリビア。僕たちはまだまだ強くなれる。一緒に強くなろう、オリビア」


 それから僕たちは稽古を続け、最後にオリビアにどんな風に駆け巡る身体強化の魔法にたどり着いたのかさらに詳しく根掘り葉掘り、聞きまくった。



「ねえオリビア。身体の使い方を全然分かってなかったってことからどうやって駆け巡る身体強化の魔法に行き着いたの?」


「うーんとね、身体を全然使えてなかったからまずはどんな風に筋肉がついてるのか調べて、次に筋肉ってどういう風にできてるんだろうと思ってお母さんがお肉とかの料理とかしてるときに色々観察してみたの。そしたら色んな束でできてるんだって気づいて、じゃあそれ全部に行き渡るように()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、今の魔法の形態に至ったって感じかな?」 


 おお。やっぱり起点になるのは筋肉をより細かくそれぞれに見合ったように身体強化しようと想像することなんだ。あとは魔法文字列を流すように発現する練習をすればいい、と。なるほどなるほど。これで次に説明するときに言語化しやすくなったぞ。


「ふむふむ、ありがとうオリビア。こんな短期間で身体強化をここまで自分のものにするなてすごいよ。よし、じゃあ約束通り他の魔法も教えていくね」


「え!?ほんと!?やったー!魔法も早く習いたかったんだよね!」


「でも父様の方針で稽古の時は魔法は身体強化だけってのは忘れないでね。わかると思うけど接近戦での勝負はそんな暇がないからね」


 水を差すようで悪いけど、本当にそうなんだ。父様とのレベルになると大きな魔法を構築する暇なんて一瞬たりともない。まあそこになんとか組み込もうとはしてるんだけどね、これは秘密の話だ。ふふふ。


「うん、そうだよね。でも生活に使えたり、便利なことに使えたらお母さんやお父さんの助けになることも増えるからさ、学べるものは学んでおきたいかな!」


 オリビアの志は具体的でぶれない。それがオリビアの急激な成長の理由の1つだろう。そしてそれを遂行しようとするオリビアの執念があるからこそできる(わざ)でもあるのだ。


「その心意気やよしだ!じゃあ今日のところはこの辺でやめてまた稽古の前とかに魔法の勉強も一緒にしていこう」


 やることが増えるということはその分成長している証だ。僕も負けちゃあられないな。


 そうして今日という目まぐるしい1日は終わり、僕らは帰路についた。

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