第二章 三十六話
父様がいない日がだんだんと多くなってくる。今では10日に1回ではなく7日に1回くらいのペースで父様は日中家を空け、一応夕方くらいには帰ってくるといったことが多くなった。
そして今日も父様はいない日である。
今日は母様と農作物の収穫である。マドワキア連合王国は春夏秋冬、豊かな4つの顔をもつ時期で構成されている。現在は秋冷の候、もう少しで寒い冬が来つつある時期で、ここいらで食料を確保できるだけ確保していなければ冬を乗り切れないと言うやつだ。ただ、秋冷と言っても夏の暑さという送り土産はまだ健在のために日中の農作業は普通に汗がだらっとでる。
「いやあ、暑いわねー。ウィル大丈夫?しんどくなったらお水飲むのよ?」
ありがとうございます母様、と汗を拭いながら農作物をよいしょよいしょと収穫していく。自分たちで作っておいて自画自賛になっちゃうけど、どれこれも瑞々しく、逞しく、立派なものばかりである。実はこれには秘訣がある。もちろん、日々の管理や愛情注ぎ丁寧に育てることはもちろんだが、土地にもこだわることである。それは適正な”魔力場”の選択である。
この世の中には人間だけでなく、もちろん生きとし生ける万物全てにおいて大なり小なり魔力が通っている。植物にもあるし、海や大地にも魔力が通っている。そしてこう言った生物や自然同士が自然に干渉しあってる全体の場のことを魔力場という。
魔力場は常に一定ではなく、魔力場はさまざまな要因で変動するし、その場所、その土地で千差万別である。僕が急激な魔力の放出による魔法発現によって魔力酔いを起こさせる猫騙しの原理は最初ただの思いつきであったが、この魔力場の変動で起きるものであることがわかった。他に例えば、魔族が住む魔王国の魔力場はとても濃く反映されている。それは魔族の魔力の高さ、そしてその豊富な魔力同士が集まることで共鳴していったためではないだろうかと言われている。戦いなどによる魔力の変動に慣れていない普通の人は魔王国にいけば激しい魔力酔いになる、らしい。このように魔力場は色々なのだ。
そしてこの僕たちの畑は、魔力場が農作物の成長にも関係あると考えて僕が丁寧に見つけた、魔力が決して少なくもなく、そして多過ぎもしないとても住み心地の良い土地。そして村ではあるが、村だからこその広大な土地。そう言った魔力が適正に豊富な場所で農作物を育てると目論見通りとても大量に活き活きとした野菜などなどに成長してくれた。日々の生き物に感謝だ。
「今日も豊作ですね、母様」
僕の両手でいっぱいな量がざっと20人分くらいはある。
「いっぱいとれたわねー!こんなにとれたならこれ、村の皆様方に配っていこうかしら」
「いいですね!村の皆様に日頃のお礼しましょう!」
「しかもちょうど今日は商人がくる日だったわね。ふふ、ちょうどいいし生活用品とか物色しましょうか」
おお、商人は魔道具とか売ってるのをこの前ちらっとみたから今日も魔道具が売りにあるか楽しみだ。うんうん、今日の楽しみができたぞ。
「それは楽しみですね!」
「よーし、じゃあちょっと休憩して準備していきましょうか!」
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僕と母様は日頃お世話になっている村の皆様方に採れた農作物を準備してかく家に渡し回った。
「あなたのところの野菜は本当に活きがいいわねえ」「今日こっちも採ったばっかりなんだ。これあげるよ」「おお、助かるよ、ありがとう」
この村はだいたい10家族くらいの小さな村だ。いろんな人ともう顔馴染みだ。気をよく受け取ってくれたり、逆にお返しにいろんなものを貰ったりもする。第二の故郷がこんなにも温かい優しい村でよかったとしみじみ。
全ての家を回り終えて、結局僕たちの農作物は交換こした感じになってしまった。ほくほくの状態でいざ商人の出店をむかう。
商人の出店は今日も小さな賑わいを見せている。どれどれ、今日はいったい何があるんだろうか。お!魔道具もあるぞ。なんか珍しいのないかなあ。
「ふふ、ウィルは本当に魔法あるところに目がないのね」
その言葉にいつの間にか僕が前のめりに魔道具を覗き込んでいることを自覚する。
つ、ついつい夢中になってた。知らないうちに知らない自分が出てたみたいでなんだか恥ずかしい。
「そうねえ、よし。ウィルのためにこれを買おうかしら」
そう言って母様が手に持ったのは包丁である。
「母様それはどのような包丁ですか?」
「これはね、言ってみればただのちょっとよく切れる包丁かな?今まで普通の包丁を使ってたんだけどね、結構刃こぼれができちゃって新しいのが欲しかったのよね。ウィルの溢れんばかりの興味心に感服して今日はこっちの”付与”つきの包丁にしようかしら」
え!?付与!?
この世の中にはオリビアに説明した”4大元素魔法”と”無属性魔法”がある。この中で無属性魔法は他を依代にした魔法だ。何かに対して魔法を発現する魔法、そしてその中に”付与魔法”と言うのがある。身体強化が身体に及ぼす魔法なら、付与魔法はモノに及ぼす魔法である。付与の種類は無限にある。そして付与は職人色が強く、その付与は秘匿され不透明なところが多い。有名なのはドワーフの作るモノ。武器であれ、なんであれドワーフは付与を施すことが多い。そしてそのドワーフの付与は個性溢れ、尚且つ秘匿性も高い付与である。そう言うのも相まってドワーフのモノは価値があると言われている、あの頃はイメージできなかったけど母様がくれた資料で見たような気がする。つまり、
「これは切れ味が上がる付与がなされてる包丁ですか!?」
「ふふ、そういうことね。でも本当にちょっと切れるくらいよ?他の家庭でも使われてる便利道具くらいの感覚って感じかな。でもすごい便利でねえ、主婦の間で流行ってるのよ〜」
切れ味補正の付与!?やばすぎ!!
簡単な切れ味補正の付与は今回のように包丁など一般家庭にも使用されており特段秘匿性が高いわけでもなく大量生産にも使われる一般的な付与だ。でも、でも!付与がついた魔道具はまだ解析したことがない!ええー、母様ありがたすぎ!
申し訳ないけどめちゃくちゃみさせていただきます。
「ウィルもこれで付与魔法に触れてくれれば嬉しいわ。これで魔法の知識を広げてね。でも基本は私の調理道具だからね」
よーーーし、付与について学ぶぞー!




