第二章 三十五話
「父様、未来視の開眼ってどれくらいの方がいるんですか?」
寝そべったまま綺麗な青空を見ながら聞いてみる。うん、日も落ち始めて清々しい時間帯だ。
「未来視の開眼か。いい質問だ、ウィル。未来視の開眼はほぼ、”真”に至ったものは開眼していると言っておこう」
“真”に至った人は開眼しているのか•••数的には少ないってことなのかな。
僕はまだ足踏みしてるけどそれはどうなんだろう。
「でも父様、僕はまだ至ってないですよ?」
「”ほぼ”、と言っておるだろウィル。まあ、でも特殊なところが多くてな」
ちらっと、父様はオリビアの方を見る。オリビアは少し離れたところで今さっきのおさらいと言わんばかりに自主練習に励んでいる。こちらには見向きもせずと言った感じだ。
オリビアにはヴァルヴィデアという武の国に伝わるヴァルヴィデア流剣術を教える、としか言ってない。父様が元武の国王の血筋であるヴァルヴィデア家だとはオリビアには黙ってるし、誰も知らない。母様の遠い親戚の人もたぶん知らないと思う。武の国は未だ何かがあるとのこと。元部の国の王、そして剣鬼と呼ばれ恐れられた巨大戦力である父様というのは恐らく危険視されている。だから無闇矢鱈に正体を晒すのは僕たちにとっても、周りにとっても良いことが起きない。でもオリビアとは師弟の関係、オリビアが免許皆伝すればいつかは”真”について話さなければならない、その時になんでヴァルヴィデア流の最奥について知っているかも話さなければならない。それはつまり僕たちがヴァルヴィデアにとって根強い関係であることも話さなければならない話。父様もオリビアにいつ真実を話すか迷っておられるのではないだろうか。
「未来視の開眼はヴァルヴィデアの血筋しかほぼ開眼してないんだ」
またほぼ!
ほぼって言うのが気になるなあ。まあ先代の人たちは色んな弟子をとってるから色んな人がいるからだと思うんだけど。オリビアだってヴァルヴィデアとは関係ないしね。
「それはなぜなんですか?」
「逆に聞こうウィル、なぜだと思う?」
父様からの質問返し。ええ、なんでだろ。未来視は体感上、今までの経験と自分の考えうる予想を噛み合わせた状況把握の究極系のイメージの集合体だ。それは戦闘だけでなく、全てにおいて適応される。父様の勘の良さは日常の事柄をそれとなく平然と未来視に触れ合わせているからだと思う。いや、自分で言ってておかしいんだけど、あの情報量の処理は僕の頭だと火が吹きそうになるんだけど。それを日常生活に落とし込めるってどういうことなの?慣れなの?と、これは別に後で聞くとして。今までの情報を整理すると、父様の『”真”に至ったものは開眼していること』、『ヴァルヴィデアの血筋にしか開眼していないこと』、うーん、これからは推測するに、たぶん
「”真”に至った師範に教え込まなければ開眼しないということでしょうか?故にヴァルヴィデアの血筋にしかほぼ開眼しなく”真”に至ったものは開眼していると言うことではないでしょうか」
と言うことではないだろうか。
「ご名答だウィル。いやあ、本当に聡明だな。その場の推察と仮定と判断では今の私以上じゃないのか?」
それは父様との稽古のおかげです。推察と仮定の部分においては魔法について色々考えている影響かも。どちらも父様や母様がいたから成し得た成長だ。ありがとう父様、母様。父のように広く逞しい空を見上げ、母なる大地を背中で感じ感謝を体に染み込ませる。
ただ、僕からしたら父様の勘の凄まじさと行き当たりばったりでも処理するポテンシャルの高さは羨ましすぎるけどね。
でもなんで”真”に至ったものに教えてもらう必要があるのだろうか?
「未来視の開眼はウィルも体感したからわかると思うが自分の経験とその予想の究極系だ。普通の稽古や実戦で身につく才に溢れるものもいるだろう。しかし、それは針の穴を目を瞑って通すようなものだ。死に際にたどり着く境地であるかもしれん。ただヴァルヴィデアの血筋は違う。武の国における戦闘民族の血は、稽古においても死を直感させる本気と技を使う。免許皆伝の際における私の一刀流のスタイルでもウィルに殺し合いのプレッシャーを、イメージを叩きつけた。そしてウィルもそう感じたのではないか?」
確かに、父様との稽古は言い表すなら殺し合いだ。木剣同士では出るはずのない喉に突きつけられた時の切先からの出血、そして明確な死のイメージは幾度となく叩きつけられた。
「はい、1本とられるときはいつも死の想像は免れませんでしたね」
「そうだ。ただ皆が皆できるわけではない。それができるのは”真”に至ったものができる、武の極地によるものである。武を試行錯誤し深く深く潜り深淵に至ったものだからこそなせる押し付けなのだ。だからこそ”真”との稽古は経験で死を上書きし、予想は死を乗り越えなくてはならない。”真”に至ったものとの稽古はただの稽古に見えて死を超える実戦以上のものだ。ただこの稽古についてこれるのも気合いがいる。もちろん、私はオリビアにだって手を抜かない。お前たち2人の覚悟は大したものだよ」
「だからこそ至れる未来視への次元、ですか•••」
死を乗り越えた、死を覆す未来へ広げる選択肢。はあ、なんてところに足を突っ込んでしまったのだろうか。激ってくるじゃあないか。そして死を覆してなお届かない武の極地、”真”の次元。空は広くとても深い、ただそこにあるのだ。僕は空を掴む。未来視にたどり着いた僕、きっと”真”への道はもうあるのだ。あとはそれに気がつくかどうか、至るかどうかなだけだ。
「みんなちゃんと成長しているぞ。これからもまだまだ精進するように」
え!?もしかして今褒めてた!?と遠くからオリビアが駆けつけてくる。父様はこの和やかな空間に微笑む。僕もこの和やかな空間が大好きだ。でも、父様もいつかは本格的に家を空ける日がくるだろう。そして僕もオリビアもいつかは村を出る。今が貴重な時間だ、でも、いつか終わりは来る。
よし、と僕はまた気合を入れ直した。




