第二章 三十四話
僕は木剣を持って父様の前に構える。
父様の圧はすごい。いつも通り、押しつぶされるような圧だ。でも僕だっていつまでも押されてるだけじゃあない。
呼吸を整え、身体強化の魔法を発現する。そして俯瞰して父様を視野にとらえる。魔法も戦闘もイメージだ。
父様、今しがた僕は父様を屠れる間合いにいますよ。
瞬間、父様の身体強化の魔法の爆発的な発現。父様が僕の目の前に迫り来る。
「ッ!!」
全方位からの猛攻、さっきとは裏腹に父様からの猛攻だ。威力も狙い方も、その1つ1つが致命傷となり得る質、ただひたすらに僕は捌いていく。
「ウィル!先ほど合間見えた時の殺気は中々だったぞ!!ついつい臨戦体制になって突っ込んでしまったわ!!!」
いや、突っ込んでこないでよ。やられる前にやる、脳筋らしい父様だ。そしてそれを成すことができるのが、父様だ。父様は口を動かすがしっかりと体も動かしている。右に左に、もうわからんくらいの箇所からの連撃。
でも、身体が反応する。父様の攻撃がわかる。次の攻撃、攻撃してきそうな場所、そして、その攻撃が鮮明にイメージできる——————!!
これは、この景色は、父様の言う、未来視の次元なのだろうか。
「!!驚かせてくれる!!ウィルの眼もそこに至ったか!!ならば超えろ、この私を!!!」
猛攻による猛攻、父様は止まらない。でもその全てを僕は捉えれる。そして、その先すらも視える。
すごい、これが未来視•••!
体感してわかる、原理としては今までの経験と自分の対処の想像力が織りなす状況把握の究極系。視える、視えるがその情報量に脳が焼き切れそうだ。
父様の連撃を全て捌き、父様に隙はない。でも、今視えるこの景色を最大限に利用して、その合間をこじ開ける!!
僕は父様の猛攻を防ぎつつ、身体強化の発現のむらを作って前進。
僕だってやられるだけじゃない。
父様が前進した僕を、その豪快で繊細な二刀流で叩っ斬る。
「!?」
しかし、そこに僕はいない。
確かに父様は僕を叩き斬っただろう。でもそれは残像ってやつだ。父様から見たら斬られた僕が幽霊のように消えたように見えただろう。僕の身体強化の魔法の質は、父様にすら残像どころか実体に見えるまで練り上げられてるらしい。
そして今、僕は父様の後ろにいる。
隙を得たとは思っていない。父様は窮地に立たせられた時の手数が尋常じゃない。油断はしてない、どんな反撃をも覆してやる気だ。ただ、でも、これは、この視え方は!?
瞬間、嵐のような斬撃が僕を襲う。
僕が見た未来視は、逃切れないほどの斬撃。
そして実際は、先ほどとは比べ物にならないほどの父様からの全方位での目に負え切れない、かつ、有無を言わさないほどの暴力的な威力を持った斬撃が飛んでくる。
「なん、ですか、それは•••」
どうにか急所は守ったが前進打撲だらけだ。防いだ、と言うより嵐が通り過ぎるのを亀が甲羅に籠るように、ただ身を縮こめて目を瞑っていつのまにか逃れただけだ。今立っていられるのはただの、まぐれだ。
「段々と私が本気にも関わらずに、私の後ろを取れるようなことをしてくるようになったな、ウィル。そしてその眼の、開花。全く、お前はどこまで成長するのだ?とても喜ばしく思うよ。ただ、まだもう少しのようだな」
くっ、そ、何が起こったんだ?さっきの復習だ。父様の猛攻ならぬ猛撃、なるほど。気づけば簡単だ。後ろを取られて父様はその身体能力ゴリ押しの当てもつけない剣撃を十分にぶっ放したのだ。
いや、せこくないか?
父様はまだまだ引き出しがある。もっと強いんだ。僕はほんの父様の足元にたどり着いただけなんだ。まだその高みは遥かに高い。それで父様と撃ち合えてるなんて、なんて、なんて烏滸がましいんだ。
パシんと、両手でほっぺを叩く。
「父様。続き、お願いします」
気合いを入れ直せ、僕。
父様は笑ってまた稽古が再開した。
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ひぐらしが鳴く頃に。
僕は地面に寝そべり空を仰いでいた。今日も父様に届かなかった。父様の域は遥かに、まだまだ遠い。
「ウィルよ、”真”には至らんが開眼できたようだな。その齢でよくやった。身体強化の魔法の使い方ももはや極伝級だな。本当に切るまでウィルの実体だと思ったぞ。いやはや、大した成長ぶりだ」
“真”の道はよくわからない。こればかりはやっぱりいつか辿り着くと思うしかない。ただ未来視の次元は凄まじかった。並大抵のことなら視れると思う。ただ、頭にかかる負荷は尋常じゃなかった。これも慣れていくしかないのだろう。そもそも未来視ってどの段階でみんな開眼するものなのだろうか?




