第1章 3話
引き篭り魔法修行計画を行なって1年の月日がたった。
未だに僕は外に出られないけどなんとか日々を生きている。
魔力についてだが、僕の魔力は寝て起きるだけぶっ倒れ魔力増幅ルーティンによって正直全力で単純に魔力を垂れ流してぶっ倒れようとしたら1日あっても足りないくらいまでの量になっていた。
そこで効率よくぶっ倒れるようにつくったのが魔力だけを吸い取る意味をなさない“多重魔法陣”である。
多重魔法陣とは、文字列を重ね合わせ魔法陣を組みたてそれぞれの干渉作用によって強い魔法が発現する原理を応用し、魔法陣そのものを重ね合わせることにより魔法陣同士を共鳴させ、さらに強く複雑な魔法を発現させる理論である。
現在僕が持っている本での知識では多重魔法陣は4重魔法陣までとなっている。しかし、これは僕が持っている本での限られた知識なので僕はさらに重ねられると考え、試行錯誤に試行錯誤を繰り返し、度重なる失敗や危うく魔力干渉による爆発で部屋が吹き飛びかけたことなどを乗り越え、魔法陣の共鳴しあう点とまた干渉妨害にならない点のそれぞれ最強点を結びつけることによってとりあえずは魔力を吸うだけの意味をなさない8重魔法陣を開発することに成功した。
この8重魔法陣であるが、8重もあるためか水の入ったバケツをひっくり返したかのように魔力を使われる。
これにより一気にトブことができ効率的に魔力欠乏を起こさせてくれるのだ。別に怪しい魔法陣とかではないことを付け加えておく。
そのことを母様に扉越しで話すと、「なにその理論?」とかぶつぶつと「確か6重魔法陣が最高じゃ・・・」とよく聞き取れないことを仰っていた。さらに魔法は発動する時に大きな光を放つと強い魔法と思われがちだがそれは魔力がうまく変換できずに漏れてしまっていて余分な魔力エネルギーが光に変換されているだけで、確かに大量の魔力を使うので大型魔法なのは間違い無いけど全て魔力を現象に置換できる方がよいという魔力変換効率について話すと最終的には言葉も返ってこなくなった。おそらく母様は国政が忙しくあまり現在の魔法に精通していないのであろう。
でも僕の無事を知るといつも嬉しそうにしてくれるのだ。
だから僕ももう心配させないように外に出ようとするのだが、扉に手をかけようとすると足は鉛のように重たくなるし、いざ扉までたどり着き開こうとすると硬くて重くて開けられないのだ・・・これが精神的なことだとは理解している。でもあのときの死の恐怖が身体に焼き付いて離れないんだ。
母様は無理はしなくていいと仰ってくれたが、でもいつか早くその優しさに応えたいと思っている。父様はいつもの国政に加えあの事件の処理の最終段階ということで忙しく、喋る機会はなかなか極端に減ってしまった。
兄様や姉様は騎士団や学校で帰ってくるのは難しそうなようだった。でも手紙は何通もきていてそのみんなの頑張りが僕の日々の糧になっている。
どうにかしていつの日か恩を返すために僕は今日も引きこもり、勉学と修行をするのであった。
それからまた1年の月日が経ち僕は6歳となった。
来年になると小等教育を受けられる権利があるために小等学校へ入学できるが、このままだと部屋から出られないために小等学校に行くのは難しいかもしれないな・・・
なん度も試してみたが僕の身体は未だにいうことを聞かないのだ。そんな僕自身に僕はうんざりしていたし、その己の憎しみを魔法のやる気に以前にも増して狂ったように費やしていた。
魔法に関しては多重魔法陣もいくつか使えるような魔法を編み出すことができた。自分の独学なので正直これが理にかなった魔法なのか正当な魔法なのか否かはわからないが実用化できたのは成長の一歩であると言えるであろう。
他にはいくつか案があるが試してみていないので理論止まりとなっているものがたくさんある。それを試作して次に進めれば順調といった感じだ。僕は外には出られないけど、正直魔法の研究は進んでいっているし実用的なものも増えてきた。だからなんだかんだこのような状況がしばらく続くものだと思っていた。
ただ、それは平和的な観測で、下界を知らない子供の妄想であったのだ。
しばらく日が経ったとき、日中に母様と会話をしていると城が慌ただしくなり、そして突然に城そのものをぶん殴られたかのような大きな揺れに見舞われた。
「母様!なにが起きたんですか!?」
「わからないわ・・・ウィルはここにいなさい。少し様子を見てくるわ。」
何かよくないことが起きている気がする。あのときの、“血の披露会”のような緊張感がこの城を走っている気がする。母様は近くの従者に声をかけて原因を追求すべく部屋の前からはいなくなった。
そして、しばらくすると城の慌ただしさは最高に達していた。いくつもの駆け抜ける足音の数、幾度ともなく起きる城の揺れ、そして聞こえてくる何かが砕け散る“破壊音“。
そして扉の向こうでこの慌ただしい雑音の中で誰かの声が響き渡る。
ーーーーー龍が現れたーーーーーー、と。
龍とは端的に言えば、この世界に古代から君臨する最強の一種である。
古代から存在する高位の龍は言葉を紡ぎ、時に世界に助言をくれる神の使徒とも言われており、聖なる種とも言われている。ただそれは人の都合のいいようにではなく世界の均衡を保つのが龍の役割とされていて、歴史をみても醜い私利私欲の王国同士の戦争ではどちらの王国も聖なる龍により滅ぼされたこともあったという記述さえもある。それ故に身体のポテンシャル、魔力の量は尋常ではなく龍と対峙すると大抵の者は駄々漏れるその魔力量に魔力酔いを起こし立つことも困難なまま手も足も出なく、蹂躙されるという。
しかしそれでも聖なる種と呼ばれるのはめったに地上に龍は顔を出さないからで、普段は龍がすまう幻の里である龍の里に生息しているからである。
もし龍が現れるとしたら、原因は2つあるとされてる。それは世界の均衡が崩れる時、そして龍が“邪龍化”した時である。
龍は尋常じゃない魔力を要するといったが、その魔力の多さが成長する過程でときに爆発的に増幅し魔力量に身体がついて行かなく理性を失い凶暴化することがあるのだ。それを邪龍化とよぶ。この龍が龍の里を飛び出し無限に暴れまわるのだ。そのときはもちろんその地域での紛争などは一旦停止し、世界で路頭が組まれ討伐部隊が組み立てられる程だ。時には龍もかけつけ1匹に対して大討伐部隊が形成されるが、理性を失った龍は知性がない分暴力的に破壊に特化しており、それほど大災害と言えるべきものなのだ。大体は邪龍化する前に龍の里で聖なる龍に始末されるが完成してしまった龍がこちら側に来ることがある。
でもそんな例は少数で、それが今・・・?
止めど無く、続く揺れだけではなく轟音と怒号、そして悲鳴が今では響き渡っている。
母様は、父様は、そして城のみんなは今一体・・・。
僕はふつふつと怒りが湧いてきた。この、うじうじと引きこもっている自分に、強い怒りが込み上げてきた。
僕が、引きこもりの僕ができるのは本当にこれくらいのことだ。趣味で遊びで、本気で魔力をひたすらに練り込んで、耐えられない魔力濃度に体が魔力中毒を起こしたことも何度もあった。でも身になることだとは思って、いつかこんな僕にでも親しく優しくしてくれた家族や従者に恩返しをしようとひたすらに、大袈裟だけど、鍛えていたんだ。
龍が城に来た魂胆はわからない。龍が地に降り立つのは邪龍になっているかもしれないし、もしくは意図的に邪龍化させられたかもしれない。
でも僕には関係ないことだ。僕の恩人が危険な目に合っている。それなのに未だに外が怖くて引きこもっているのか?それはノーだ。ここで殻を破れなくてなにが男の子だ。人生にここぞどやらなけばいけないことはたくさんあるんだ。そしてその一つはまぎれもなく、今だ。
あんなに硬くて重くて忌々しかった扉はもはや空気のような軽さで、そして鉛のように踏み出せなかった足は羽がついたかのように自然と部屋から歩き出せた。
城内を歩く僕をみて慌ただしくなっている城の兵士や従者たちはまるで龍をみたようなギョッとした目で見ている。僕は前までだったらその目が怖かっただろう。だがそんなものは今は眼中に入らない。僕は目の前のことしか目に入っていない。
城を駆け上がり事の中心へ足をはこんでいく。そこは城の最上階である、屋上であった。
屋上には龍と交戦している冒険者と兵士たちがいた。龍のために即興の討伐隊が駆けつけてくれたようだ。
しかし龍はいくつもの傷はついているもその狂気性は失われていない。そして薙ぎ払われていく冒険者や兵士たち、半壊された城、まさに阿鼻叫喚の光景だ。
僕はすぅっと深呼吸をする。そして今まで扱えうる最大限の魔力を最高度に濃縮させた。
僕の魔力のあり得ない振り幅に、その場の者は龍さえも一瞬動きをとめた。
「僕はこれでも怒っているんだ」
魔法陣を展開していく。
「踏み出そうと何回も試みたのに殻を破れなかった自分に。」
魔法変換効率に最大の重点を置いて魔法陣を一つ一つ、組み重ねていく。
「そうすれば今回だってもっと被害は少なかったかもしれない」
場は、荒れ具合からは想定できない静寂さにつつまれている。
「でも、そんなのは言っても仕方ないんだ。だから!ここで!!僕は1歩を踏み出す!!!」
度重なる魔法陣が組み立てられ、位置固定の魔法に龍の四肢が鎖で固定される。そして10の魔法陣が重なり折り合い、濃縮された魔力が現象へと変換される。
龍は今の状況に抗おうと暴れ回る。しかしそんなことは無意味だ。
「ここで暴れたこと、償ってもらう」
魔法陣が龍の頭上に展開されると同時に、龍の体は龍自身の熱量の限界を遥かに超えるが如く赤く光る。龍からはとてつもない熱が発せられ、まるで龍自身が太陽となったかのような灼熱そのものとなり、ここが今、火の海にいるのかと錯覚すら起こしてしまう。龍自身はその状況に身悶え、声も出ない唸り声を上げるが、次の瞬間、熱は発散し残るは炭化し煙をあげる絶命した“龍だったもの”であった。
そして僕の意識もそこでぶっ飛んだのであった。




