第二章 七話
「それはなぜだい?」
父様がオリビアの目線まで座り込む。
「わたしはお母さんとお父さんが大好きなの!でも、私はいつもお母さんとお父さんに頼りぱなし。だから、力が欲しいの。お母さんとお父さんを守れる力が!」
ああ、オリビアは僕と一緒だ。
「あなたたちを見ていたらとてもすごかった!いつの間にか移動してたり、剣の速さも全然見えなかった!だからわたしもこんな力を持てたらって!」
オリビアは僕たちのことをよく知らないだろう。そしてヴァルヴィデア流剣術というのも知らないだろう。でも、大切な人を守りたいがためによく知りもしない人たちに飛び込む勇気はとてつもない壁だった筈だ。でも守られてばかりの歯痒い自分を叱咤し、その壁を乗り越えて大切な人のために自ら一歩を踏み出す覚悟は痛いほどわかる。
僕は父様を見る。父様は少し困った顔をした。父様はオリビアを見る。オリビアは覚悟を決めた目で父様を見返す。父様は諦めたかのように顔を綻ばせた。この子の覚悟、そして僕の意を取り組んでくれたのだ。
「これは、向こうの親御さんに挨拶しないとだな」
オリビアは大きな目をさらに見開き一間置いてその場で飛び上がるほど喜んでいた。
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その後、父様と僕はオリビアの家に行き、かくかくしかじかを説明した。オリビアの父親と母親は若く活気がある人たちだった。父親の方は爽やかに見えるがその体はしっかりと引き締まっているようでいかにも好青年という人だった。母親はおっとりしているが物おじせずにまたオリビアの自分達を思う気持ちにとても感動していて軽く涙しているような感情豊かな温かい人だった。父親も母親もオリビアの気持ちを誇らしげに思っていた。そのために稽古をつけることを認めてくれた。
オリビアの両親はとてもオリビアのことを思ってくれていることがわかる。この田舎で一人娘ということもあるのだろう。稽古を受ける際にオリビアにやるからには最後まで諦めるなよと激励を飛ばしていた。時には厳しく、それでもオリビアの気持ちを優先していることがよくわかる。だからオリビアも甘えずにそんな両親のために何か自分にできることはないのかと言う考えに至れたのだろう。
僕も同じだ。どんなことからも、どんな脅威からでもみんなを守れる力が欲しい。同じ志をもつオリビアとならより良い切磋琢磨ができると確信した。
「オリビア、僕の名前はウィル。ただのウィルだ。改めてよろしく」
だから僕は改めて自己紹介をした。誇り高きオリビアに敬意を込めて。
「よろしく!わたしはオリビア。わたしもただのオリビア!」
お互い握手を交わす。より良い未来への架け橋のように。
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それから、オリビアと父様と僕との稽古が始まった。
オリビアはまず僕が最初に行ったようにヴァルヴィデア流剣術の基本を叩き込まれた。剣術などしたことのないオリビアはまずは素振りや足捌きなどの基本的なことを徹底的に反復練習させられた。その横目に僕と父様はお互い本気で打ち合いを行った。魔法を交えた打ち合いはまだ許可されていなく、とりあえずは身体強化のみの打ち合いである。魔法を発現しながらの戦いは難しく、近距離戦なら魔法を発動するよりも身体強化のみの方が強いこともあるし、僕が追い込まれた時に考えが追いつかず反射的にありえない威力の魔法を使用して危険が及ばないようにするためでもあるらしい。
まぁ、つまるところ現在も父様に手も足も出ないということだ。
「さぁウィル今日も始めるか」
僕は構える。
父様はすごい強い、純粋に強すぎる。なんかもう説明するならすんごい強いとしか言えない。まず、攻撃する隙がないくらいに攻めてくる。二刀流で片手のはずなのに一本一本が諸手の踏み込みでの一撃くらいに強い。その上攻撃が止まないのだ。
だから最近は父様が構えた瞬間に攻める。
ありったけの身体強化を使い父様に迫る。とりあえずは父様の利き手である右側を封じるための左一文字を、、、!?
僕の横一文字に父様は左手の木剣を左一文字で合わせてくる。僕は即座に軌道修正し、父様の横一文字に当てる。そして父様は予定通りと言わんばかりに右手の木剣で僕を攻めてくる。
そう、僕が攻撃をしているのにいつの間にか防御に回っているのだ。そして手数も圧倒的に父様が多い。横から上から下から前からと次々に剣が飛んでくる。攻撃の止まない斬撃、もはや乱舞だ。父様は身体の流れを汲み取り流れるように剣を滑らす。受けるこっちからすれば無茶苦茶だが傍から見れば滑らかに動いていて踊っているかのように錯覚するだろう。それくらいに自然に体を捌き剣が踊り狂ってくる。
「くそッ、、!」
僕は無理矢理父様の剣を剥がす。そして足に対する身体強化に強弱をつけ残像を残しながら一瞬で父様の後ろに回り込み上段に剣を振りかざす。
が、
「バリエーションは違うが、最初と同じだな」
すっと父様の殺気が乗せられた木剣が僕の首に当てられる。
「参り、ました、、、」
試合が終わり、その安堵感で僕は木剣を支えにしてどさっと膝をつく。父様のプレッシャーと死んだと錯覚するような一本で辟易な体になんとか生を取り戻す。父様、つえぇ。
でも、最近は打ち合えてる、気がする?
「うむ。ウィルよ、なかなか打ち合えるようになってきたな。いい感じだ。だが、だからこその壁だな。技術の選択は増えたが困ったからこその一辺倒な攻め方になっているぞ。おそらく何をしても捌き切られる未来しか見えないのだろう。負け癖がつきやすい時期だ。だが、正念場だ。幾多の戦略を考え、幾多の結果を読み、そして幾多の限界を超えろ。さすれば戦士として、人間として、別次元の境地に達するだろう。ここで挫折するかしないかだウィル」
父様は真剣な目で説いてくる。恐らく、ここで足踏みした人たちが”真”に至れなかったのを見てきたのだろう。僕は負けた萎えた気持ちに悔しさと自分の弱さの怒りで鞭を打つ。そんなことは知っている。挫折なぞ、どん底なぞ、僕はあの中で燻り足踏みしている自分の愚かさ知っている。僕は父様の目を見返す。
「ふっ。良い、反抗的な目だ。大丈夫そうだな。よし!今日はここまで!オリビアもなかなか様になってきたな。これは、お前たちの成長が楽しみすぎるな」
では家に帰ろうと、豪快に父様は笑う。オリビアも体がくたくたになっている。それくらいオリビアも追い込んでいる。僕もくたくただ。オリビアと目があう。お互いくたくたの格好をみてなんだか面白くなって2人で笑う。今日も終わりだ。明日が来ない今日はないのだ。
さぁ、帰ってご飯を食べよう。




