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第3章 第64話 【中等部1年決勝】

▼▲


「ホークレンドニクス家のものも難なくですね」


「強いな。アーサーよく見つけてきたな」


「運良くですね」


 本当に運良くだ。ウィルがあの入学式でホークレンドニクス家のものに目をつけられなければ私はウィルの強さに気づけていなかったかもしれない。この大会でその強さを知る頃には、誘いの手が山ほど来ていただろう。私は王族ではあるがまだまだ立場は強くない。私の騎士への願いの優先順位も、そうなれば1番になることもない。

 本当に運良く出会えた。


「あの少年はホークレンドニクスの倅と何かあったのか。しかし葛藤して自らの負けを受け止めることほど成長になることはない。ホークレンドニクス家もますます磐石になるな」


 父上は負けを、失敗をマイナスだとは考えない。それを乗り越えてからこそ、人は強くなるとお考えだ。僕もその考えには賛同だ。開会式の言葉通り、ここぞというときに負けてはならないために人は負けとかなければならない。失敗がない人間ほど、中身が薄く、そして折れやすい。だから、やはり強さが全ての兄上の考えには賛同できない。

 私たち人間は失敗して、手を取り合って知恵を絞り生きるからこそ、尊いのだ。


「次は決勝か。もう1人の細剣使いの少女も強いからなあ、まさか1日目からこれほど心踊るとはな。うむ、才能が輝くとはいいことだ」


 次はオリビア女史•••。見ていたけど無駄がない。いや、無さすぎると言っても過言ではない。さらっと勝ってきてるように思うがあれは針の穴を通すような勝ち方だ。それを実力でできているのなら、ウィルほどの強さがある•••君たち2人はどのような修行を積んできたのだ?


 本当に面白い人たちだ。父上の心踊ると言うのもよくわかる。何にせよ、最後だウィル。場は整っている。最高に舞ってみよ。


▼▲


 決勝はオリビア。今はもう演習場に2人とも上がり対面している。


「やぁオリビア。久しぶり」


「やっと会えたね」

 

 ざわっと身の毛がたつ。


 オリビアの動き1つ1つに圧迫感がある。


 これは、凄みがあるなあ。ついつい戦闘態勢を取りたくなるほどのプレッシャーだ。

 やっぱり”真”の闘いは対峙するだけで死を感じさせてくれる。緊張が半端ない。


 壇上の1番上にいるアーサー殿下を見る。場は整っているぞ、と目で訴えかけられてる気がする。もちろん、さいっこうに全力でやります。相手はオリビア、不足どころか全ての力を出さないといけないような相手だ。だから、


「では決勝を執り行う!!では、ハジメッ!!!」


最初から全開でいく!


 僕とずっと一緒に稽古していたオリビアに、魔力の立ち上がりによる魔力場の干渉を利用した魔力酔いは効かない。もうその魔力の振り幅に慣れてしまっているからだ。それは学校に入った後の稽古でより慣れさせてしまった。瞬間的な魔力場の干渉ももう今では効かない。

 

 ならば、魔力の立ち上がりは考えなくていい。小細工はなしだ。


 そして、オリビアとの稽古の時にはいつも肉弾戦だった。だからやるなら出したことのない、魔法戦から始めさせてもらう————!


 僕は一瞬にして魔法陣を()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()に複数展開する。


「!?」


 いつもならそんなことを考える暇もなく間合いを詰められ肉弾戦に持ち込まれるだろう。だが、今は審判の開始待ちの時間がある。用意する時間ならいくらでもあった。卑怯だと言わないよね?なんせ、勝ちに行くならそれくらいしないといけない相手だ。


 複数の魔法陣の展開に魔力場が揺らぐ。

 

 さらに展開された魔法は幾重もの空に突き伸びる氷の柱。


 その魔法陣の上にいれば突き上げられ、死にはしないが無事ではいられないだろう。


 この量の氷の魔法の発現、もちろん空気は凍てつき味わったことのない寒さが演習場を襲う。それはオリビアの機動力も奪う。


 だが、


「そんなんじゃわたしは止まらない!」


オリビアはそんな氷の柱には引っかからずに全てを避け着実に僕の方へ近づいてくる。


 僕はさらに魔法の連続発現、そしてオリビアも慣れてきたのか氷の柱を一撃で壊す点を()()破壊しながら一直線で突っ込んでくる。


 魔法と剣のイタチごっこだ。


「なんだ、これ?」「魔法量が多すぎて、こっちまで干渉してくるぞ•••」「さ、寒い•••」「自然にまで影響及ぼすとか災害級じゃねえかよ•••!」「いや女の方もどうやって捌いてるんだよ」「動きが見えない•••」「魔法の発現もあの速度を捉えてるのか!?」「う、酔って、来たかも」「こいつら1年だよな!?」

 

 周りにもどうやら干渉しているようでざわざわしている。でも、そんな声聞いてる暇ないし、そもそも気になってる時点でまだまだ集中してない証拠だ————もっと、もっと潜っていけ————。


 複数の魔法の同時発現。その魔法陣の()()1()0()()()()


「は!?デカキャスト!?」「魔法陣自体の重なりは少ないけど、少ないけど!そんなことできるのかよ!?」「そんな量の魔法発現して、そんで!なんであいつはまだ平気で立ってるんだ!?」「魔法量の、底が知れなさすぎる•••!!!」


 オリビアも1振りで数多の斬撃を作り、全ての氷柱をぶっ壊す。オリビアのそれも父様のぶっ放しと同等の格だな。

 ただ、僕だって無駄に10の魔法陣を発現させたわけじゃない。

 今までの氷柱はオリビアへの誘導。そして僕は今、オリビアの目の前にいる。


「————ッ!!」


 氷柱を捌くことによってオリビアは剣を振り抜いてしまっている。


 さあオリビア、僕の方が()()強いぞ。


 いつもの肉弾戦と行こうじゃあないか。


 僕は手刀を休む暇もなく、考える余地も当てさせなく繰り出す。

 手刀が弾かれればその推進力を活かしたまま体を回転させ、止まることなく猛追する。


 止まらない、回り続けろ、考えるな————今までしてきたことで反射を超えろ————!!


 魔力の立ち上がりによる残像も発生させオリビアを攻める。

 だがオリビアも”真”の使い手、その()で針の穴を通すように全て一撃で僕の攻撃を捌かれる。


「グッ」


 ただ、半歩遅いオリビア。責めには転じることはできない。何度か試そうとしているが、僕は圧倒的な手数でそれを阻害する。


 オリビアの“眼”による最小限の動きでの捌き、僕の”無剣”という圧倒的手数による攻撃。

 

 お互いの”真”同士がぶつかり合う。


「ウィルを、わたしは超える————ッ!!!」


 オリビアの”心眼”とヴァルヴィデア流剣術の”未来視”が合わさったのか、僕の幾重もの手刀による猛攻をオリビアの剣がすり抜けてくる。


 これは奇妙!!


 僕の手刀がオリビアに迫るのにも関わらず、触れることなくそのオリビアの剣が僕に近づいてくる。


 新たな境地に達したか、オリビア!!


 だが、その新しい力を得た時、そこに余裕と慢心という隙が生まれる————僕は、眼に魔力を注ぐ。


 

 未来視の魔眼の発現。



 今僕が見る景色は経験的予測の集大ではなく、現象として確立された未来だ。


 この時に限り全ての動きが全て把握できる。


 しかし、その計り知れない処理に燃え尽くすような頭痛が襲ってくる。でも、今は!そんな痛みを感じる余裕はない!!


 身体を強引に起動させ、抑圧してくる本能を振り払い、気合いで限界を超える————。


 迫り来るオリビアの剣を半身ずらし、紙一重で進み、オリビアが僕に剣が届かなかった場合に剣の軌道をズラす到達点に合わせて、潜り込んだオリビアの剣を持つ手に手刀を叩き込む。


 剣が届かなかった場合に、次の一手を繰り出す際に剣の軌道をズラさなければならない。そこが無意識下の隙となる。


 それが、()()だ。


 手刀の衝撃によりオリビアの手から木剣が離れ落ちる。そして同時に、反対の手刀がオリビアの喉元に突き立てられている。

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