第3章 第58話 【帰還】
とろんと、したいつもの垂れ目なシンラ姫の目が、それこそ猫のように大きく見開かれる。
「ロード様、ですか?」
「抜剣術を使うロードだ。シンラ姫の師と聞いたが」
「知ってますとも。それはそれは知っていますとも!なぜ、ムメイ様もご存知なのですか?」
「俺も昔、大変にお世話になった人なんだ。でも今どこにいるかわからないって知ってな。ちょうどシンラ姫の知り合いって聞いたから聞こうと思った」
「ここまで、ムメイ様とわたしは運命で繋がっていたのですね•••」
うっとりするシンラ姫。ちょっと、可愛いんじゃないの!うっとりはせこいんじゃないの!!
コンッとオリビアに後ろから小突かれる。
「いて」
「ロードさんのこと聞いてるんでしょ。変な世界に入り込まないの」
そうだった!
「シンラよ、もう少し自分の可愛さは隠した方が良いぞ。人が死にかねん。して、ロードは今どこにいるんだ?」
「まあ!お口が上手いことで!もう、ムメイ様と話しているとお話しに花が咲いてしまいますわ。こほん、ロード様についてですね。ロード様はわたしたちの国に来てしばらくはお父様とお戯れになったりなど滞在していたのですが、あるときに”魔王国”にいくといって出ていかれたのです•••」
“魔王国”?
「なぜ”魔王国”に?」
「強さは魔王国を知らなければ語れないかもしれない、と言っていましたわ•••」
「そう、か」
まさか、魔王国とはね•••。さすがにそこから先はわからないな。なんでロード兄様は魔王国に•••。魔王国の強さとはなんなんですか、兄様•••。
「•••ロードはこの国にいた時、どんな感じだった?」
「ロード様ですか?それはもう、優しくて、お強くて、そして融通はきかないけど、まっすぐな方でしたよ」
シンラ姫が昔を懐かしむように目を細める。
昔からの、兄様だ。何も変わってない兄様だ。ただ、だからこそ自分の弱さを捨てきれなかったのかもしれない。やっぱり会って話がしたい。僕は、元気だよって。みんなのことが気になるならみんなに会ってみてよ、って。
「あぁ、昔っからそう言う人だった。シンラ姫から見たロードはどうだったんだ?」
「わたしはなんというか、憧れでしたね。ロード様の剣技を見た時に、とても美しいと思いましたわ。その美しさに魅せられ、わたしは剣を手にして教えを乞いましたほどですもの」
はー、なるほど。ロード兄様がシンラ姫の師匠っていうのはそういう経緯があったのか。
「それだけではありません。身のこなしのスムーズさ、結果だけが残るような抜剣術、そして負けない諦めない心。心技体に優しさも加わった、聖人君子のようなお方でした•••。だから、わたしには師匠であり、人間として憧れでありましたわ」
ロード兄様は僕の国の星だったからね。憧れはわかるよ、と心の中でついついドヤってしまう。
「まあでも、人として憧れなだけであって、恋愛感情は後にも先にもムメイ様だけですわよ!そこはお間違えなく」
シンラ姫のフォロー?が入る。まあでもロード兄様は本当に聖人君子のようなお人だったからなあ。おそらく、幼いシンラ姫からしたら恋愛感情をすっ飛んで崇拝の域までにいったのだろう。たぶん。なぜなら僕もロード兄様のことを、その人柄から人という枠を超えて崇め奉っていたからだ。
それからロード兄様の話を少し続け、後はレガテリア王と兄君たちに感謝の念を伝えて、僕たちは帰路につこうとした。
「あ、お待ちくださいまし。父がブラッディベアクイーンでモノを作っておいたぞ、とおっしゃっていましたわ。今、持って来させるのでお待ちくださいまし」
おお、こんなに早く作れるのか。王様の権力、すごい。
どんなものかワクワクしてブラッディベアクイーンの加工品を待つ。
「これですわ」
あったのは2つの白い仮面。
「その妙ちくりんな市販の仮面じゃなく、ちゃんとした物をしてろ、とメッセージが残っていました。その仮面は特殊なことはありませんが、ただ単に防御力があります。しかも柔らかさと硬さを備えたものです。強い力ならば弾力が出て、衝撃を吸収します。そのほかの細かいものなら硬くなり、防いでくれる•••とのことでしたわ!」
「ほぉ•••」「すごい仮面だね!」
これはいい。僕もオリビアも、もう自分のスタイルが結構あるために何かオプションをつけるならそれぞれに見合ったこだわりを出さないといけない。ただ、これは防御のみで他に差し障りがない。『おまかせ』なのに絶妙なものをつくってくれる。レガテリア王はよくわかっているし、いい趣味をお持ちだ。
「レガテリア王にセンスも素晴らしいとはさすがだと言っておいてくれ。ありがたく使わせていただく」
残りのブラッディベアクイーンの素材は、マドワキアに討伐完了の証明をしておくために持って帰る必要がないとのことだったので、何か作るなら持って帰らなければならならいが、僕たちは全て換金する方を選択した。またギルドにお金がいくとのことだった。帰ったら現金を貰っておこう。今回思ったのは正体を隠している分いつもツケで済ませれないし、いつもバッヂを見せることもできないからね。反省反省だ。
そして、シンラ姫と•••レガテリアとお別れをした。
帰りはギルド用の早く帰れる馬車を用意せよという王の命令もあって、ギルド用のレッドホースが牽引してくれる馬車で帰ることができた。
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「弾丸ツアーだったな」
僕たちは今、都市マドワキアに帰っている最中である。馬車の中なので一応ムメイモード。
「本当にねー。まあでもレガテリアを少し見れたからよかったよ。いい息抜きになったかな?色々あったけど、楽しかったね!」
オリビアにそう言ってもらえるとよかった。防具ももらえたし、レガテリア王に借りも作れたし。なによりも、ロード兄様の行方を知れた。
とりあえずは、後は試験の準備をするだけだ。
あれ?そういえばレガテリア王が言ってた学園戦ってなんなんだろう?オリビアに馬車を降りてから聞こうかな。
都市マドワキアに帰る間は、馬車の中ではゆっくりしておこう。




