第3章 第56話 【ちょっとした積み重ね】
「おお、店長さんじゃねえかよ。どしたー?」
「どしたじゃねえよ!お前ら昨日も騒ぎ起こしてたよな!?さすがに連続で騒ぎ起こすのはちげえだろ!!酔っ払い過ぎてるのなら帰りな!!」
「おいおい。そりゃねーだろ店長さんよお。今イケイケの冒険者パーティ『牙狼団』の俺たちにそんなこと言っていいのかよお?あ?宣伝にもなっていいじゃねえかよお」
騒ぎを起こしていた人たちをよく見ると、それはみんな狼の見た目をした獣人族であった。
「•••それにしても限度ってもんがある!うちも商売だ。これ以上騒ぎを起こすようなら出ていってくれ!!」
店長は負けずに、毅然と言い放つ。
今は昼時だ。結構な人数の人が入ってきている。だけど、みんなが酔っ払ってるわけじゃない。これが夜で本当に酔っ払いたちだらけなら場も盛り上がるだろう。ただし今は半分くらいがお昼だけ食べにきた人たちだ。酔っ払いじゃない人は、この一悶着にその手を止めて注目している。その場の雰囲気か、店内は静寂に包まれている。お通夜会場とも言える。
「チッ、せっかく気持ちよく飲んでたのによお、酔いが覚めるじゃねえかよ•••俺らだって命かけて冒険者やってんのよ。その休息でここを選んでるのによお、休まりもしねえ!あーーーあ!ここはそう言う店だって周りのみんなに教えてやらねーーとなあ!!!!」
周りのパーティメンバーが、下卑た顔で被害者を増やしちゃいけねえからなあと笑い言い合っている。
あまり、よろしくないことだ。
「ッ、言いがかりをすんじゃねえよ!!」
「ああ!?本当のことだろうがよ!!ふざけんじゃねえよ!!」
本当に、言いがかりだと思う。もはや恐喝だ。
「そうだなあ〜。じゃあ、店側の迷惑料として今後の飲み食いがタダになってくれるなら許してやってもいいぜ〜〜」
「は!?それはねえだろ!!変なこと言うんじゃねえ!!」
「ああ!?じゃあすみませんでしたって腹見せろや!!」
「!?」
腹を見せる、というのは背中を地面につけて腹を見せるという、獣人族で服従の意味を表す行為だ。人間種でいう、土下座みたいなものだ。屈辱的な、要求だ。
「それで許してやるよ〜」
「早くやれよー」「ほらほら俺たち帰っちゃって言いふらしちゃうぞ〜」「ぎゃはははは!」
店長さんは頭に青筋を立てながら、しかし、自分の店のためにもその怒りを押し殺し、その屈辱的な行為をしようかと、決心しようとしている。
明らかに、行きすぎた行為だ。
「ウィル、あれさすがに放っておけないよね」
「僕が行ってくるよ。さすがに、ちょっと許せないね」
僕は段々と地に体をつけようとしている店主を肩に手を置いて制す。
「そんなんやる必要ないですよ」
「小僧•••」
「んだてめえ?」
僕は店主の前に出る。
「あんたら流石にうるさいよ。なんだか知らないけど、調子乗りすぎだ。こんなお通夜会場みたいにしやがって、気が冷めるのこっちだよ」
「おいおいおい、興がさめるやつがまたきたぜー」「坊主やめとけよお〜。変な正義感振りかざすのはよお〜」「小僧にはまだ外は早いってこと!帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
げらげらと僕を無視してお酒飲みながら笑い合う狼たち。身振り手振りも多く、突然きた年端もいかない子供を馬鹿にしながら、酒のつまみにされる。
「小僧、ありがてえけどこいつら最近勢いに乗ってる冒険者パーティだ•••実力があるのは事実なんだ、小僧は引っ込んでろ•••お、おい」
僕は店主の言葉を無視して、狼パーティのボスらしきやつの前まで行く。
「ああ?」
僕はそいつの肩に手を置く。
「ビビってんなら立ってみろよ」
「おいガキ、触れんじゃねえよ。殺す、ぞ————!?」
狼パーティのボスらしきやつは1歩も動くことができない。
「おいなにやってんだよ〜」「ガキと戯れてんのかー?」「おいおい優しいやつだな!!」
まだ他の奴らは馬鹿笑いしているが、わかっていない。本当に、動けないのだ。
「•••••」
目の前のボスらしきやつは頬に冷や汗を垂らす。ふん、実力があるとかなんとか知らないけど、シンラ姫にも劣るやつらだ。こんなやつらは肩に手を置くだけで重心の操作なんて朝飯前、いや今の僕は昼飯前か。
本当に1歩も動けないボスを見て、他のパーティメンバーの顔がだんだんと曇ってくる。
「おい、本当になにしてんだよ」
「ビビってるんでしょ?子供の僕に。だから動かないってハナシ」
ガタッと立ち上がろうとするメンバーたち。おっと、どうやらちょっとピキらせちゃったようだ。でも、だからどうした?
僕は目線だけで、そいつらに死を突きつける。
「!?」「なん、だこれ」「うわ、うわああああ!!」
こいつらには魔力場に干渉する魔力酔いすら使わなくていい。相手の体捌きから、こっちの目線と多少の体の動きでどうなるかを反射的に予想させる。もちろん突きつけたのは一瞬の隙によってバラバラになる死だ。
突きつけれらたメンバーは椅子から転げ落ちている。
「冒険者は油断したやつから死ぬ。あんたらが冒険者になりたての頃は肝に銘じていただろ?なのに少し、強くなったら人は忘れてしまう。今、あんたらは確実に死んだぞ」
目の前の肩に手を置いているボスらしきやつを見下す。もはやボスは顔中汗まみれだ。もうこいつらに戦意というものは残ってない。
「おい。小さな子供にパーティ全滅させられたって言いふらされたくなかったら、大人しくしてな」
きゃいいいいいんん、と言って牙狼団の人たちは店から逃げ去っていく。
僕は店主さんの方に振り向き、やり返しましたよ、と笑ってみせる。
「小僧•••」
店主はやれやれ、と言うような顔だ。もともとコワモテな顔をしているので、そのほっとしたような顔をするとギャップで可愛い。
店内もざわざわとしており、収束に向かう必要がありそうだ。大丈夫、こう言う時の収め方は知っている。
僕は両手を上げ、声高らかに言う。
「みなさん!お騒がせしました!ただ、お詫びと言ったらなんですが、この僕が代金を全て払います!!さあ改めて、好きなだけ食べて飲んでください!!!」
ざわめきが歓声になり、店内中からカンパーイと声が聞こえる。
「おいおい小僧大丈夫なのか?助けてくれたことはありがたいけどさすがに俺は金を取るぞ」
盛り上がる店内で、店主は不安そうに言う。
僕は店主しか見えないように、アンオブタナイトのバッヂを見せる。
「は!?!?」
僕は店主の耳元に近づき、店主にしか聞こえないように言う。
「俺たちは”殲滅”のミメイとオリビエだ。何か困ったら俺たちの名前を使え。騒いだ詫びだ」
ただし、絶対秘密にな、と”殲滅”モードで釘も刺しておく。
「はあ、お前さんらには参ったよ。まあなんだ。好きにくつろいでいってくれ。それこそ、こっちの礼だ。あと正体はバラさねえよ。こんなこええ奴らに目をつけられる方がおっかねえよ」
もう何が何だか、と雲を掴むような気持ちになっている店主。てんやわんやして可愛い。よし、まあ大丈夫そうだな。
僕はオリビアの元へ戻る。
「もうウィル、無茶苦茶するんだから•••。どうやってお金払うの?」
「正体をバラしたから大丈夫だよ」
「え!?」
オリビアが大きい目をさらに見開く。おお、吸い込まれそうなほどでっかいお目目だ。
「いい、の?」
「大丈夫じゃないかな?一応釘も刺しておいたし。後は、次来た時に好き勝手できる場所、拠点?みたいなのが欲しかったんだよね」
店内の楽しそうな喧騒にかき消える声で喋る、
「王族管轄の場所で、正体を隠しながら色々するのは限界があるからね。最初に恩を売れば、人はそれ以上に返すのが世の常かなって」
「今のウィル悪徳代官みたいだよ?でもまあ、確かにマドワキアの外では自由にできる場所がないと、その都度手配しないといけないから考えものだね•••そう思うと今回のここを拠点にできるのはちょうど良い、気がする」
「でしょ?」




