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第3章 第53話

「ここが宿•••」


「宿、なの?」


 案内されてきた、レガテリア王が言ってた宿は表すなら宿ではなく、とんでもなく大きな屋敷だった。普通に貴族が使用人を何人も雇って住んでいてもおかしくないくらいの規模の屋敷だ•••。


「昔ここに結構な地位な貴族が住んでいんだんですけど、後継がいなくてその代でいなくなってしまったんですよ。しかも国王様のちょっとした知人だったので潰すにも潰せなくて、こういう有事の際の客室みたいになっています」


 案内役の獣人族の方がこの屋敷について説明をしてくれる。


「だから珍しいですよ。ここを顔もしらない貴方たちに貸すのは。スタンピードをすくった英雄っていうのもあるかもしれませんが、そんな怪しい身なりで国王様がよくこの宿を貸しましたよ」


 どうやらここを貸してくれるのは最大級の信頼を置いている証らしい。もしかして、拳で語り合ったわけじゃないけど、すこし小競りあった影響かな?今日の敵は明日の友、というよりかは、1戦士として認めてくれたって感じか。ここは素直にありがたく受け取っておこう。

 しかし、レガテリア王、父様とどっちが強いんだろう。そしてどんな強さなんだろうか•••ちょっと、手合わせはしてみたい感はある。


「ちょっと」


「イテ」


 オリビアにこつんと肘で叩かれる。


「なんか闘志が出てるよ。案内の人が萎縮しちゃってるじゃん、もう。どうせレガテリアの王様と戦ったらどうなるんだろうとか思ってるんでしょ?」

  

「ギクッ」


「ギクッ、じゃないよ•••」


「そ、そう言うことなんでここは人目を気にしなくても大丈夫です!王の管轄なんで!じゃ、私はこれで!」


 案内人は話を打ち切るかの様にそそくさと帰っていった。なんか、ごめん•••。


 念の為に僕は魔力の気配を探る。とりあえず、ここにわかる魔力はないようだ。人の気配も無さそうだし、本当に人はいない様に思える。一応家に入るまでは”殲滅”モードだ。


「では、行くか」


「それまだやるの?たぶん人いないよ?」


「念の為だ。家の中に入って落ち着くまでが、冒険者だ」


 キリッ、と。かっこつけてみる。特に意味はない。もう•••と言いながらオリビアも従ってくれる様だ。いつも付き合ってくれてありがとうオリビア、大好きだぜ。

 ちなみにブラッディクイーンは王様が預かってくれるらしい。なにか加工して欲しかったら加工しておくがって言われたので、お言葉に甘えて『おまかせ』を選んでおいた。武器はあるし防具もそろってるけど、防具系でととりあえず言っておいたので、どんなやつがくるか楽しみだ。まあおまかせって言ったらレガテリア王が、本当に面白いやつらだのうガッハッハとまた笑っていたのは余談だけど。


 さて、僕らは大きな門を潜り抜ける。そこには広大で立派な庭が広がっており、広すぎて玄関まで行くのにやや距離を要する。

 僕らは門から玄関までの道、アプローチを進んでいく。


「これは•••立派だな」


「すごい綺麗だね•••」


 色とりどりの花が咲いている。しっかりと整備されていて、そしてその色合いは色々と考えられている配置なのか、とてもバランス良く、華やかで、しかし厳かで礼儀正しく感じる。玄関までゆったりと、いつの間に現実を忘れて、リラックスして歩いてしまっている。なるほどなー。これだけしっかりしていると、リラックス空間までになれるのか。家に帰るだけで忙しさを忘れられる空間が出迎えてくれるのはいいね。


「こんな家に出迎えられるといいな。将来は、こういう家に住みたいね」


「え!?」

 

 オリビアがビクゥ!と驚く。

 え?僕変なこと言いました?


「え、え?あ、ああ。そう言うことね。家としての話ってことね。もうびっくりしたじゃんっ」


 驚かしてないよ?


「ふぅ、うん。そうだね。こう言うところに住めるとゆったりとできるし、住む場所も広々としてて楽しいかもしれないね。でも、どこに住むかじゃなくて、その、大切なのは、誰といるか、じゃないかな•••」


 僕は感動のあまり、何も言葉を発せられなかった。僕は昔王宮に住んでいた。確かに、自分の部屋は大きかったし使用人もたくさんいて生活に困ることもなかった。でも、王宮から追い出されて、ホグン村でそれこそ納屋みたいなところに住んでいたけど、全然王宮に住んでいた頃と何も変わらなかった。それはやっぱり、父様と母様と、大切な家族と一緒に暮らしていたからじゃないだろうか。住むところはどこでもよくて、大切な人と一緒にいることが重要っていうのはとても身に沁みてわかる。


「そうだね•••。さすがだよ。すごい重要なことを君はわかっているね。ふっふ、僕はオリビエといて楽しいよ」


「どういうこと!?」


 どういうことだろう?


「そのまんまの意味だよ?」

 

 その後オリビアは何か言おうとして、やめて、でも何か言おうとして、というのを繰り返していた。壊れたおもちゃみたいでちょっと面白い。

 そんなリラックス空間で日々のことを忘れて会話を楽しみながら、玄関まで辿り着く。

 さて、玄関のこれまた立派な扉を嗜み、ついに中に入るぞ。


「おおー」


「本当に、なんて言うか、すごいね!」


 馬鹿デカ広間が僕らを迎えてくれて、そこには左右から登れる階段が2階へと伸び、そして登ったところから1階を見渡せるスペースがある廊下が僕らを見下ろす。


 うむ、入ったところの広間ですら、こりゃ圧巻ですな!


「ちょっと、色んなところ見てくるね!」


 僕もこの中を探検したい!


 それから探索モードに入った僕らは、別々に屋敷をくまなく見て回った。部屋は数え切れないくらいあって、応接間や他には立派なピアノが置いてあるような音楽室?みたいな多目的室もたくさんあった。その中でも目玉の場所はお風呂場だ!

 風呂場はそもそも珍しい。宿には基本、広さもないために水浴びだけの浴室だけだ。一般家庭でもお風呂はお金がなきゃつけれない。

 それなのに、ここはお風呂場としての大きさはもちろんの如く大きく、さらには木材でできている大きなお風呂場だったから尚更その珍しさが際立つ。お風呂場があっても普通はタイルなどで作られているはずなんだけど、ここは木材で何もかもが作られている。木本来の香りが香っており、人工的な空間ではなく、どこか自然的な場所にいる様でとても落ち着く。


「わあーーヒノキ風呂だ!」


「ヒノキ風呂?」


 屋敷の中を探索していたオリビアもちょうどお風呂場で出会う。


「ヒノキっていうね香りがいい木材があるの。それで作ったお風呂だよ!すごい!マドワキアではすごい珍しいよ!」


「へえー、そんな木材があるんだ。でも聞いたことないけど、よく知ってるね?」


「お父さんが知ってて、村にもあったんだよ?でも希少だったから素材としては使えなかったんだって。極東の島国に1番多く分布してるってお父さん言ってたかな?だからこっちではすごい珍しいし中々知ってる人もいないんだよ!でも出会えるなんて、うわーいい香り!もう仮面とっていいよね?部屋にも誰もいなかったし、ウィルの魔力探知にもひっかからないんでしょ?いいや、取っちゃえ」


 あ、ちょっと。と思う間もなくオリビアが仮面をとり目一杯空気を吸い込む。とても恍惚として満足している様だ。まあ、いっか!仮面かぶってるのも雰囲気だし!多分誰もいないし!

 僕も仮面をとって香りを吸い込む。


 うーん、いい香りだ•••。

 直に嗅ぐと、鼻腔粘膜に直接、木本来のいい香りが語りかけてくる。こうやって自然を感じながら風呂に入るっていう考えを編み出した人は素晴らしい発明家だ。僕も将来はこういう風呂を持ちたいものだね。

 レガテリア王が気を利かせてくれたのか、お風呂場はすでに湯で満たされており、いつでも入れるようになっている。


「ふむ、とりあえず、風呂に入るか!」


「え!?一緒に!?」


「もちろん別々だよ!?」


 オリビア少し暴走気味である。

 それから別々にお風呂に入り、疲れの汗を落とした。


「はぁ、お風呂っていつぶりだろうか。全身の疲れがほぐれていく〜」


 とんでも広いお風呂場に僕1人ぽつん、だけどお湯に浸かってポカポカしているおかげか、この広さが逆にゆったりと感じられる。

 レガテリア王国、ロード兄様が都市マドワキアから出て寄った国•••。調べたところによると主に獣人族の国。王様も王族も獣人族だったしね。兄様はここで何をしていたんだろう。


「ロード兄様、僕はここまで来ましたよ。兄様は今ご無事でしょうか•••」


  シャーリー姉様とも話がしたいな•••。


 僕はお風呂の湯を掬い、ばしゃっと顔にかける。なんだか不安になったからそういう気持ちは洗い流す。よし、体も洗って心機一転だ。シャーリー姉様は学校にいるし、ロード兄様についてもこのレガテリアで何かわかるかもしれない。バラバラになったあの時に比べたら進展と、前向きに考えよう。


 うん、試験まで残り1ヶ月。期末トーナメントに出れるかどうかまでの結果は1週間程度で発表されるとのこと。時間はあるし明日はレガテリアのことを少し見て回って都市マドワキアに帰ろうかしらね。

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