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第3章 第51話 【レガテリア】

「さて、どういうことか説明してもらおうか」


 本当に状況が理解できないのでシンラ姫に平静を装って聞いてみる。

 僕たち都市マドワキアに行ってたんじゃないの?


「あら、てっきりわたし、ムメイ様がわたしに会いに来てくださったのかと思ってました•••」


 ちょっとしょんぼりするシンラ姫。クールな印象だけど、このギャップは少し可愛い。じゃやくて!

 どうやらシンラ姫も知らない様子。どうなってんだ?


「すいませんねえ。あっしはここに連れて来て、尚且つ王宮の中まで案内するように言われております。さあ、中にいきやしょうか」


 御者は馬から降り、僕たちの馬車の扉の前に手を添えて、どうぞ、と言って降りるように促す。

 なるほどね、どうやら王族の誰かの命令だなこれは。シンラ姫のイタズラかと思ったけど、この感じは結構上の人ぽいな。はあ、めんどくさいことに巻き込まなければいいが。

 ま、ここは行くしかなさそうだな。鬼が出るか蛇が出るか、行けばわかるか。


「オリビエ、どうやらご招待されたようだ。ひとつ呼ばれてやろう」


 腹を決めた僕。


「はー、そうだね。なんかやばそうだったら逃げようね」


 驚いていたオリビアも割り切った様。


 僕たちは御者に着いて行く。この御者、王宮の中まで入って、相当信頼されているようだな。使ってる馬はレッドホースだったし、ギルド用の馬車だとは思うんだけど、たぶん”武”の国だから実力主義の冒険者ギルドとも深い関わりがあるんだろう。ヴァルヴィデアもそうなんだろうか?

 レガテリア王宮内を歩いていると、同じ武の国だからだろうか、全く王宮内は別物なのに、その雰囲気というか、何かにあてられて故郷を不意に想ってしまう。


「あ、あの」


「?」


 そんな物思いに耽っていると、一緒に入り口から着いて来たシンラ姫から不意に質問が飛んでくる。


「ムメイ様は休みの日は何されてるのですか?」

「ムメイ様はどんなことが趣味なのですか?」

「ムメイ様はどんな食べ物が好きですか?」

「ムメイ様はどんな服装が好みですか?」

「ムメイ様は」「ムメイ様は」「ムメイ様は」


 怒涛の質問攻撃である。シ、シンラ姫、ただでさえパニックなのに、そんなに追随されちゃうとパンクしちゃいますって。


「ムメイに近すぎ」「離れて」「ムメイは疲れてるの」「ムメイと喋りたいならわたしを通して」


 その情報量の多さの処理のパンク具合に気づいてくれたのか、オリビアが間に入ってくれる。助かったよお。でもまた2人が死闘に入りそうなのはなんでだろう?


 わちゃわちゃしながら歩いていると、一際大きな扉の前に来る。

 そこには一目で屈強そうとわかる兵士が両脇におり、この普通のところにはない警備が、この場所がこの王宮にとって1つの重要な場所であることを示唆している。


「お待ちしておりました」


「ではあっしはこれで」


 屈強そうなのにとても礼儀正しい兵士にご苦労と言われて、御者は帰って行った。


 さて、何が出てくるか。


 屈強な兵士が少しだけ顔を伏せて礼儀を表しつつ、扉を開ける。


「まあ!お兄様たち!みんな帰られてたんですね!」


 シンラ姫がそこにいる者たちの元へ駆けていく。

 そこには壮年の男が1人、青年の男が1人、後は高等学生くらいだろうか?の男が1人立っていた。みんなが各々、動物の特徴を持っている。そしてシンラ姫の発言から、この方達がレガテリアの王族の子息だということがわかる。

 そしてその奥には、少し豪華な椅子に、髪の毛を全て後ろに流した、父様くらいの年齢の体格がすこぶる良いおじさまが座っていた。そのオールバックの髪型はまさに獅子を彷彿とさせる。

 おいおいおい、王様だろあれ。王族全員集合じゃないのかいよ、おい。

 オリビアも目の前にいる人たちがどんな位の人かは理解してそうだが、それでも少しばかり警戒している。何かあればすぐに抜剣しそうな勢いだ。まあ、そりゃそうだよね。いくら王族と言えど急に連れてこられて、有無も言わさずになんかすごそうな人の前に出されたら嫌でも何かされるんじゃないかと警戒してしまう。


 シンラ姫が、シンラ姫の兄君たちと戯れになっている中、壮年の兄君が僕らの方に目を向ける。


「して、この者が今少し話題になっている”殲滅”というやつか?」


「ふーん、なんか陰気なやつだねー」


 高等学生らしき兄君が興味をくれずに喋る。すみませんね、元引き篭もりなもんで。


「まあ腕は確かなんだろう」


 青年の兄君がフォローに回る。

 ふむ、壮年の兄君は落ち着いていて、青年の兄君は冷静、高等学生くらいの兄君は調子に乗ってるって感じだな。


「お兄様方、何故ムメイ様たちをお呼ばれになったのですか?」


「ん?そんな呼び方、シンラ知り合いなの?」


「ええもちろん!」


 シンラ姫が僕たちの方をビッと指差して言う。


「未来の旦那様ですもの!」


 爆弾発言を。


 瞬間、兄君全員が身体に駆け巡る身体強化の魔法を発現させる。そして一瞬で僕を取り囲む。もはや僕たちに対して、というか僕に対して殺意ビンビンだ。


 いや、ちょっと過剰反応すぎでしょ!シンラ姫は人望が深そうって言ったけど、本当に愛される人だなあ!


 だが、そうやって僕を取り囲むことは()()()()()


「な!?」「ほー?」「これは、なかなか」


 兄君たちが取り囲んだ時、僕とオリビアは、もうそこにはいない。僕は今、()()()()()()()()()()()()()


「ふん、溺愛はその者の成長を止めかねんぞ、兄君たちよ。ところで、貴様らは俺の魔法発現圏内だが、無礼とは言わんな?」


 僕は取り囲まれるとわかった時、即座にオリビアをお姫様抱っこし、バジリスクの防具に仕込んだ足場の魔法を発現して空中に移動した。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()


 襲撃されるなら、それは返り討ちに合う覚悟もできてるってことだよな。これに関しては僕は訳もわからずに急に連れてこられて、急に襲われてるんだ。もうこのストレスをここではっちゃっけたいくらだ。もう後1つでもなんかされたら大暴れしちゃう自信しかない。本当だからな。やるなよ?もう何にもするなよ?絶対、絶対だぞ?


「後オリビエ、もう少し強く俺の首を抱いておけ。落ちるぞ」


「•••ん」


 あら?なんか塩らしいけど高いところが苦手なのかしら?ただ、僕の首を抱く力はぐぐっと強まった。今のオリビアの顔が見てみたいな、じゃなくて!今は目下のレガテリア子息隊たちだ。

 よし、さあて、少しでも変なことしみろよ。本当に僕は魔法ぶっ放すからな。


 僕たちと兄君たちが睨めっこしあう。


「てめえ、好きに言わせておけば•••」


 さすが高等学生兄君、その行動力だけはいちばん若いのか、ご立派だ。

 高等学校の兄君が身体強化の魔法を高めていく。これは、シンラ姫が言っていたレガテリアの先の身体強化か!こいつもまた不安定そうだけど、なんか成功しそうな感じもあるな!シンラ姫の時は本当に危なさそうだったし、あんなに思いも伝えてくれたから大事に至ってほしくはなかったけど、正直その魔法は見てみたかったんだよね。この高等学生兄君は成功するかどうかわからないけど、なんかできそうな気がする!どれどれ!僕に見せてみてよ!


 久しぶりの新しい魔法の出会いに心を躍らせる————が、


「ガッハッハッハッハッハ!!おめえら、まだ気付けねえのか?そいつはおめえらより遥かに格上だ。これ以上レガテリアの恥を晒すんじゃねえ。がっはっはっは、こりゃ面白え面白え」


突如爆笑し始める国王と思わしき人物。その巨躯がのっそりと立ち上がる。え、デカくね?3メートルくらいありそうじゃね?


「父上、俺がこんな陰気なやつに負けてるってえ?今すぐにでもぶっ倒して、その首、父上にご献上なさっても————」


「がはは、スルト、自分の力を過信するのはいいが、事実だけは見誤るな。”殲滅”はお前らより強く、お前らは”殲滅”より弱い。理解しろ」


 突如、王らしき人物から放たれるプレッシャー。口答えするなら容赦はせんぞというような動きだ。王らしき、っていうか王だな。プレッシャーの質がダンチすぎる。父様と同じくらいの威圧感だ。

 

 3人ともその王の圧に黙りだ。


「そしてスルト、お前は最近どんどん強くなっていってるかもしれんが調子に乗るなよ?高等学校で1番強くても実際に弱かったら意味がねえ。世界を見据えろ、もっとサボらず訓練も勉強もしろよ?お前は才能はある。期待してるぞ」


 高等学生兄君はスルト、と言うらしい。そして本当に高等学生だった様だ。てか最後なんて父親からの思春期に対するアドバイスじゃん。なんだよこの家族時間。僕も高等学校行ったらあんな感じになるのか?てかなんで放置されてるの?なんだか、腹立って来たぞ。


「ふん、家族団欒は終わりか?水入らずで俺たちは聞き専になってやっていたが、そろそろ俺たちをここに連れて来た要件を言え」


 僕も無理やり連れてこられたのに、襲われそうになって、目の前で家族水入らず時間されて、放置されて、ちょっとプンスカだ。


「俺も暇じゃない」


 僕もレガテリア王に倣って、場を圧する。いつものように、()()()()()()()()()()


「!?」「•••ッ!」「ここまでとは、な」


 スルトは膝を折り、青年兄君はなんとか耐えている。壮年兄君はさすが、一瞬蹌踉はしたが何事もなかったかの様にいる。


「ガッハッハッハッハッハ!!面白え!!”殲滅”よ、お前わしと戦争でもする気か!?でもお前となら楽しそうだのお!!久しぶりだぜ、魔力酔いをしたのはな!!」


 とか言いつつ、レガテリア王は見た目には何も微動だにしていない。結構この魔力の振れ幅による猫騙しは初見殺しだし、アンオブタナイトのハンゾウにだって効く確かな技なはずなんだけど、どうも父様といい、こう経験もあって強い人は気合いでなんとかする様だ。精神力あっての力、フィジカルお化けとは心技体あってのことだと気付かされる。


「だが、わしもお前とやりあいたいのはやまやまだが、そんな身分じゃあねえのよな。すまんな。またやり合おうや。あと、お前らを呼んだのもわしだ」


 王様自らね。まあそうだとは思っていたが、一体何用なんでしょうかね。


「まあ、魔法も閉じて降りてきてくれや。こっちの無礼だ、許してくれ」


 僕は魔法をとき、そして空中から王の前に飛び降りる。もちろんオリビアには力がかからない様に、そっと、力を緩和させて着地する。なんてジェントルマンな僕ッ。


「謝れば許してやるのがジェントルマンな俺の流儀だ。そして、俺たちに何のようだ?」


「なあに、スタンピードを抑えた英雄を直に見たかったのと、あとはちょっとマドワキアの方に伝言をしてほしくて呼んだまでよ」


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