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第3章 第50話

僕から離れ、大剣姫が大剣を()()


「なら、あなたを切り刻めば解決かしら?この問題は」


「そうかもね」


 オリビアもその細剣を構える。


「ちょ、喧嘩は、よくなくないか?真剣同士だし、まあ冷静に」


「黙って」「お静かに」


 2人同時に閉口の命令を出された。もはや僕に入る余地は本当にないようだ。でも僕がこの中で1番関係あるんじゃないかな?発言権がないのはいいのかな?いや、そこは突っ込まないでおこう。もう任せよう。なんかどっちもからの種々の倍返しが来そうで怖いし。ここは静観が正解な気がする。うん、沈黙も正解だ。

 


「ウィ、じゃなくてムメイは優しすぎるんだよ。何でもかんでも言うこと聞かないの。こうやって変な虫が寄ってくるよ?」


 オリビアさん、もう吹っ切れたのか言いたい放題である。


「ムメイさん、下がっていてください。そしてわたしの勇姿を見ていてください。この目の前のおっせかい女を対峙して見せましょう。わたしのことを変な虫と言うのならば、さながらあなたはムメイさんにとってお邪魔虫よ。ムメイさんの為にも払い落としましょう。そして終わったら、引き続き将来生まれる子供の名前を話し合いましょう」


 え?そんな話し合いだったっけ?

 でもシンラ姫の子供かー、絶対可愛いだろうなー、愛を記す名前をつけたいところかな?じゃなくて!


 ここまで来たら、とことんやり合ってもらおう。意見を言い合ってもわからないことがある。だから戦いが、争いが起きる。だけどもうなんか、なんていうか、うん、もうなるようになろう。

 僕と冒険者たちは空気になってしまった。冒険者のみんな大丈夫かな。しんどそうな人はしんどそうだけど、みんなオリビアとシンラ姫の行方がどうなるか固唾を飲んで見守っている。


 うん、見守ろう。それで終わったら早急に送ってもらおう。


 2人が身体強化の魔法を発現させる。オリビアの見える肌の部分に魔力が駆け巡る。シンラ姫にも身体に魔力が駆け巡る。

 待って、2人とも本気じゃない?ちょ、殺し合わないでよ!?

 念の為に僕はいつでも仲介できるように構えておく。


 2人とも身体強化を施すが、動きはしない。相手の出方を見定めている。いや、オリビアから仕掛けることはないだろうな。上下をわからすために相手から仕掛けてもらって、それを全てぶっ返り討ちにする気だ。


「ふふ、舐められたもんね。ムメイさんが待ってるの。早く————終わらせるからッ」


 大剣姫が()()()()()()()()()

 普通では目に負えないくらいの速さで鞭のようにしなる仕込み大剣、畝り、幾重の軌道を描いてオリビアを襲う————が、


()()


 幾重の畝りくる大剣の攻撃を、オリビアが細剣1つの防ぎで、その大剣の攻撃がピタッと止まる。

 止められたことで、抜剣術のために攻撃後は鞘に収まっているところなのに、その大剣が顕になる。シンラ姫の大剣の全貌が明らかになる。

 その大剣は前のブラッディベアの戦いで背骨のように関節があり、鞭のようにしなるものだと見ていたが、あながち間違っていなかった。

 シンラ姫の大剣は背骨のように幾つもの関節があり、その関節の間は伸縮性があるようで今は最大限に伸びている。関節同士の間は靭帯のような線維で繋がっている。畝る大剣は大蛇のような禍々しい姿を彷彿とさせる。

 その伸縮性のある大剣だからこそ、シンラ姫はその場に突っ立っているだけなのに、離れているにも関わらずオリビアやブラッディベアに対しての攻撃を可能にしていたのだ。

 大剣が鞘に収まっている時の頭身はシンラ姫の首から下くらい、でもその関節の仕込みを使い長くなったら4メートルくらいはあるんじゃないか?完全に間合いが初見殺しだ。

 その初見殺しな間合いと抜剣術の組み合わせは、初めて戦う相手からしたら絶望的だろうな。だからこそオリビアが一撃で大剣の動きを止めたことはさすがとしか言いようがない。やはり”真”に到達しているオリビアの”心眼”はそんじゃそこらの強いとは()()()()()


「ふん、止めたくらいで偉そうにしない、でッ」


 鞘を持ったままシンラ姫は大剣を片手で操る。身体強化の魔法をしてるといえど、あの大きさの大剣を片手で扱えるのは、獣人族の元々の身体能力の高さが伺える。

 大剣があらぬ方向に畝り散らかし、その攻撃の軌道は誠に予想不能だ。だが、それを全てオリビアは捌ききる。


「これで終わり?」


「•••本当に、腹立たしいですわね。じゃあいいでしょう。わたしも覚悟を決めた女、レガテリアの真髄、見せてあげる」


 シンラ姫の身体強化の魔法がさらに組み上げられていく感覚。なんだこれ?


「レガテリアの身体強化はさらに先がある」


 シンラ姫の髪の毛がうねうねと逆立っていく。まるで動物の臨戦態勢の際に毛が逆立つときのような様子だ。


「姫!」「それはまだ姫様には!」」


 シンラ姫の魔法が立ち上がっていく。が、これ大丈夫か?なんだか不安定な気がするぞ。駆け巡る身体強化の魔法は、身体中に巡る魔法だ。これ、暴発したらその魔力回路は無事なのか?いや、()()()()()()()()()()


 その魔法が発現しそうになり、シンラ姫が大剣を抜こうとする————が、僕は一瞬でシンラ姫の前に出る。同時に、その大剣を引き抜こうとする手を止める。


「ひゃっ」


 可愛いシンラ姫の驚いた声。急に現れて手を握られて強制的に剣を納められたのだ。まあ驚くよね。ごめんね。

 しかし、そのことにより、また僕が前に現れたことによることも相まって?なのかシンラ姫の魔法はキャンセルされる。

 よかった。あのままだったらシンラ姫の魔力回路がどうなるかわかったもんじゃなかったからね。魔法に関しては無理が祟ると碌なことが起きないのは、魔力欠乏の理論からわかりきっていることだ。


「大剣姫よ。お前の気持ちも、覚悟も充分わかった。素晴らしい女だよ、お前は」


「ムメイさん•••」


「だが、そのお前が言った『レガテリアの身体強化の先』はまだできなのだろう?無理はやめろ。無謀と勇敢を履き違えるな。俺のためにそこまですることは嬉しい。だが、お前を想っている者はたくさんいるだろう。少なくともそこにいる冒険者どもだってお前のことを慕っているんだ。それだけでお前の人望の深さがわかる。だから、もう少し、自分を大切にしてくれ」


 僕は何よりも、人が目の前でどうにかなることがもう嫌なんだ。シンラ姫が僕のことをそれだけ好んでくれるなら、だからこそ、元気でいてほしい。


「シンラ姫には、他にも大義名分があるかもしれない。自分を賭して何かをやり遂げないといけないことがくるかもしれない。でも、無事にいてほしい。これは、僕からのお願いだ」


 設定も忘れて素で話しちゃった。はあ、やっちゃったな。本音がついついでちゃったよ。


「ムメイ様•••」


 遂に様付けになっちゃったことは置いておいて、まあ、もうシンラ姫に戦意はなさそうだね。身体強化の魔法も無くなってるし、構えも解いてる。よかったよかった。


「だが、力もまた必要だ。”武”の国の姫なら尚更な。だから大剣姫よ、またその技を完成させて俺の前に現れるがいい。その時にまた、お前の気持ちを聞かせていただこう」


 僕はバッとローブをはためかせ、華麗にターンしてオリビアの元に向かう。ふっ、決まった。


「馬鹿」


 なんで?オリビアご立腹だ。いい感じに収めれたくない?


「これで大丈夫じゃないか?関わったとしても大規模なクエストだけだろう。今日大剣姫が単独で来たのは年齢が小さく、ただの実力試しもあったからだろう。実力も上がって、年齢も上がれば隊を率いなければならない。今日去ってさえしまえばfinだ」


 はあ、とオリビアは深いため息をつく。


「何もわかってないね。絶対来るよ、大剣姫は」

 

 オリビアの絶対的な自信。なぜそこまで?


「ほう、なぜだ?」


「恋する乙女はね、たとえ火の中水の中森の中でも、来るの。家柄なんて関係ないの。それが恋って力なの。男のにはわからないかもね、ばかばかばかばーーーーか」


 えー、そんなことないと思うけどなあ。向こうだって暇じゃなくなると思うよ?


「はぁ、厄介なのが出来ちゃったじゃん•••」


 ちょ、なんかめっちゃちっちゃい声で言ってるぞ。全然聞こえなかった。

 

「え、何て?何て言ったの?」


「なんでもないよばーーーーーーか」


 しばらく、オリビアはめちゃくちゃ機嫌悪かった。

 今度スイーツを食べにいく約束をして、何とか機嫌が直ったのは後日の話だ。



 とりあえず、正常に戻ったシンラ姫にレガテリアの冒険者を任せた。あとは、クエストが完了したことを示す為にブラッディベアのクイーンを貰った。まあ、助けたことと他の手間暇とかを考えてクイーンを貰うのは譲りたくなかったけど、案外あっさり貰えた。なんならシンラ姫も貰ってくださいとシンラ姫自らが言って来た。いや、一国の姫なんだから政治的な要素も加わってくるし変なこと言うのはやめて頂きたい。可愛いけど。じゃなくて!


「この度は色々とありがとうございました。オリビエさんにもああは言いましたが、本当に感謝はしております。またレガテリアにいらしてください。その時はしっかりとおもてなしをさせて頂きます」


 とても礼儀正しい。オリビアと死闘を繰り広げてたけど、それはそれこれはこれでちゃんと境界線をはっきりしている。そこらへんの大人より大人だ。

 

 そこからはギルド専用の馬車も手配してもらい帰路に着いた。いやー、結構濃い日だったなー。さ、早くブラッディベアクイーンを渡して家に帰ろう。


 そこからギルド専用のレッドホースで四半時駆けたくらいだろうか。段々と減速していく。


前のキャビンの小窓が開く。


「つきやしたよ」


 え?早くない?どこについたの?


 すると勢いよく馬車の扉が開く。


「あら、シンラ様!まだわたしはあの時から変わってませんが、待てず寂しくなり来てくださったのですか!?」


 そこには先ほどまで一緒に戦っていたシンラ姫がいた。


 なんで?


 オリビアは状況が把握できなく固まってしまっている。


 僕は御者に恐る恐る聞いてみる。今の場所を。


「ここですかい?ここはレガテリア王国領、そしてその深部、レガテリア王宮ですぜ」


 ふーーーーーーん。今日の僕の頭は、パニックになりっぱなしだぜ。

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