第3章 第48話 【大剣姫】
「あらあら、可愛い熊さんが可愛くないほどたくさん。少し、減っちゃいましたけどね」
吹き飛んだブラッディベアたちの死体の真ん中に立つのは、自分の身長と幅と同じくらいの大きな大剣を、鞘に包まれた状態で抱くように持っている小さな女の子。
髪はうねっと無造作で髪の色は銀色、そしてゆったりと自分の時間が流れていそうな喋り方とタレ目なことから、その性格はふんわりとした印象が伺える。何よりも、着ている服はフリルがたくさんついていて、巷で言うゴスロリっていう服装も相まって、死体の中に佇む少女という絵面の異質感が極まる。そんな彼女も、髪と同じ銀色のもふもふの猫耳が生えている。
「姫だ•••」「シンラ姫だ!」「シンラ様が駆けつけてくれたぞ!」「”大剣姫”のシンラ様だ!!」
先程まで消沈していたレガテリアの冒険者達が息を吹き返す。
“大剣姫”、聞いたことがあるぞ。
ロード兄様がレガテリアに行ったと言われてから、僕はレガテリアについて調べた。
レガテリアは主に獣人族の国だ。獣人族は身体能力が高い。故にその種は”武”の一国を任される存在になったのだと言う。そしてその特徴的な武のスタイルは素手だ。獣人族はその身体能力の高さから武器無しで戦うことにプライドを持っている。武器を使う奴は臆病者だと言われるらしい。しかし、その風潮の中で、ある1人のレガテリア王族の末の姫君が剣を扱う、と囁かれた。獣人族で尚且つ王族が武器を使うなどもってのほかと、最初はよく言われなかったが、その姫君は剣は自分の体の1部、拳どころか体の1つであると言い、表舞台に現れ、文句を言っていた全員をボコしたのだとか。その剣技は凄まじく、実力主義の”武”の国でわからせた事で瞬く間にその姫君はレガテリアの民衆に受け入れられた。
その姫君が体に似合わない特徴的な大きな剣を持つことから、”大剣姫”と言われるようになった、のだとか。
それ以降レガテリアでも武器を扱うことが増えてきたと言う、のは別の話として、その姫君が目の前にいるゴスロリ女の子、シンラか。
その強さは体こなしから、アンオブタナイト級、いや、それ以上だとわかる————。
「やっほ。みんな元気?元気そうじゃない人もいそうだけど、大丈夫そうだね」
僕らの後ろの冒険者たちに声をかけて現状を把握する。
「君たちが守ってくれたのかな?」
少女は微笑む。
まるで今、ブラッディベアがいないかのように錯覚するくらいの余裕さだ。どれくらい強くはわからないが、間違いなく強いことは確定だ。
ならばこの現状、打破出来得る。
「”大剣姫”とやら、いいところに来た。早速だが、手伝って貰う。このブラッディベアの群れ、一掃するぞ」
ブラッディベアの群れの1部がシンラにふっとばされたことによって、クイーンも含め群全体がシンラを警戒している。しかし、向こうはまだ何体もおり、現状こちらが戦えそうなのは3人と見るや、クイーンはまたあのニヤついた顔になる。なんなら他のブラッディベアも含め、餌が増えたと言わんばかりの涎の垂れ具合だ。
「いいけど、どうやって?」
「俺がこの一帯を魔法で吹き飛ばす。俺が魔法を構築し、発現するまでブラッディベアの相手を頼む」
「そんなことできるんだね。でも、初対面のあなたにわたしの背中を預けるのはなんだか信用できないかも」
ブラッディベアがまたじりじりと近づいてくることを再開する。
今までだらっと力を抜いていた僕とオリビアとシンラは、話をしつつも徐々に構えていく。
「大丈夫だ。オリビエと共に戦えば、その強さを知ることができる」
「そんなこと言っても————」
「オリビエはお前より強い。やればわかる」
「多分だけどね」
オリビアも頷いてくれる。挑発の形になったが、今はそんな会話をしている時間はない。さっさとこの現状を片付けなくちゃあいけない。
「ふーん?ま、早くこの熊さんたちをどうにかしないといけないのは確かだしね。その挑発、乗ってあげる。ただし————」
シンラが、大剣を抱いたまま構える。
「弱かったら、熊さんごと切っちゃうかもね」
同時に、ブラッディベアクイーンが咆哮を上げ、ブラッディベアの群れが襲いかかってくる。
オリビアも即座に対応してブラッディベアを切り伏せていく。
シンラはと言うと、抜剣したかと思うと、あまりにも速度に、瞬きをすると鞘に収めている。しかし、シンラの周りには切り刻まれたブラッディベアの死骸が転がっている。
抜剣術、なのか?そしてあの大剣は仕込み剣か。大剣は背骨のように継ぎ目があり、鞭のように可動し、音を置き去りにする速さで剣撃を繰り出している。しかもその鞭のような特性から、自分の範囲内なら広範囲で対処もできているようだ。獣人族がなせる力と瞬発力か。
しかも、刀からはわずかに魔力も感じられる。仕込み刀でもあり、魔剣でもありそうだな。
まあ、何よりも————。
「前線は大丈夫そうだな。後は、俺に任せろ」
僕は座標を詳細にイメージできるように両手を前に出す。範囲は扇状に広がったブラッディベア全体。群れの中央で指揮しているクイーン諸共、ぶっ飛ばす。
ブラッディベアは硬い。オリビアやシンラのような火力があればいいが、広範囲魔法でそのレベルになると発現時間もだいぶかかる。なら、選択する属性は自ずと決まる。
僕は魔法を構築していく。
足元には10近くの魔法陣が重なり合う。
「なんだなんだ!?」「これがスタンピードを抑えた広範囲魔法•••!!」「どんだけ、魔法陣が出てくるだ•••」
「ふーん?やるじゃん」
どうやらシンラも少しは認めてくれたようだ。
もう少し、粘ってくれ。
10分ほど時間が過ぎただろうか、ブラッディベアも半分くらいは減っている。しかし、若干前線はこちら側に下げられている。この2人に任せていれば、とういうか僕とオリビアだけでも対処はできる。でも、やはり他の手負の冒険者を助けながらになると保証はできない。だからそろそろ、ここいらで、仕留めなければならない!!
————僕の多重魔法陣が完成する。
「2人とも下がるが良い」
2人が退く。まだ残っているブラッディベアが歯茎を見せながら暴れ回る。クイーンに関してはやられていくブラッディベアを見て大激怒している。
すまんが、ここいらで終わりにしようじゃあないか。
「そして、大剣姫よ。倒れるでないぞ?」
僕は魔法陣に魔力を満たす。
選択する属性は水、そこに空気が無ければ、動物の耐久力など関係ない。
暴れ回る暴熊どもよ、囚われるがいい。
————魔法が発現する————。
「!?」
魔力の振れ幅が魔力場を掻き乱す。
僕の魔法発現に余剰魔力は発生しない。現代魔法はまだ余剰魔力の余波で大きな魔法かどうかを判断している。そのギャップもあってか、やはりシンラであろうとも魔力場の変化についてこれない。
膝を地面に付かなかったのはさすがだけどね。
地面、大気中のあらゆる自然界の水分がブラッディベアがいた部分に、まるで滝が逆行するように広範囲に濁流として空に流れる。ブラッディベアは全て連れ去られ、空中に放り出させれる。
だが、まだ終わらん————ッ!
逆行した水たちが一塊となり、全てのブラッディベアを飲み込んだ1つの大きな水球として空に浮遊する。
捕獲、完了。
ブラッディベアたちは息ができない中、もがき暴れ回る。しかし、その水の牢獄からは逃げ出すことはできない。1匹1匹とブラッディベアの動きが止まっていく。
あれだけ元気だったクイーンがこちらを睨み、最後の力で襲い掛からんとするが、無力にも水の中でその推進力を定められず、ぐるぐると回り続ける。
そして1匹も動くことのない、ブラッディベアが水中に漂っているだけの、巨大な水槽となる。
その光景は、クイーンを含めた全てのブラッディベアが絶命したことを告げる。




