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第3章 第46話 【緊急クエスト】


 ギルドのドアを開けると、いつものようにドアに掛けてある鈴が鳴る。

 こんにちは〜、と受付嬢がカウンターから挨拶をくれる。お、今日の受付嬢はシンリアさんだ。これはやり易い。


「あら、ムメイ様とオリビエ様ではないですか。しばらく時間を貰うと承ってましたが、遂に再会ですか?」


「少し余裕ができたからな。でも、またひと月ほどあけることになるが」


 ギルド長がまた寂しがりますね。とリップサービスをくれる。ただ、とシンリアさんは少し深刻そうな顔をする。


「何か起きているのか?」


「それが今、魔物がちょっと多くなってるんですよ。もちろん今までも時期的に魔物が活発になることはありましたが、今回は普通の魔物ではなく、ネームドがところどころでよく出るんですよね•••」


 ネームドが?


「それってみんな大丈夫なの?」


 オリビアの疑問ももっともだ。


「レイド戦になるのでパーティ複数で対処しているというのと、ネームドが出る間隔がそれほど詰まっていないので今の所被害はないですが•••」


「時間的な事が噛み合ってしまえば、どうなるかわからないということか」


 なるほど。だからいつも他の冒険者たちで賑わっているギルドが今日はやけに静かに感じるのか。()()()()()()()


「そうですね•••アンオブタナイト級の方達も空いた人たちが来てくれたりと、まだ人手も足りてはいる状況ではありますが、少しでも間隔が狭くなればきつくなりそうです•••。でも、今日もマドワキアの北の方の、レガテリアとの国境付近に、熊系統のネームドモンスターである”ブラッディベア”が確認されたとのことでした•••」

 

 次から次へと、というわけか。ここから北なら、ギルドの直通馬車なら半日あれば行けるか。


「そのネームドは誰か対処できるのか?」


「いえ、ちょうど報告が来まして、今は緊急クエストとして現地のギルドが応急処置的に対応してるだけですね•••」


 シンリアさんは悔しさからか、疲れからか、俯いてしまう。

 僕はオリビアの方を向く。オリビアはグッと親指を立てる。

 僕たちは今から1ヶ月の猶予がある。期末トーナメントは完全に実戦、僕らもやることとしては、勝手知ったる者同士の稽古ではなく実戦を行いたいと思ってたところだ。ちょうどよかったと言ったら現地の人に申し訳ないが、僕たちも加勢させていだだこう。


「ならば、俺たちが行こう。ちょうど空いていたところだ」


「任せて!」


「ムメイ様、オリビエ様••••」


 シンリアさんは顔を上げ、じわっと安堵の表情を浮かべる。


「そのお言葉に甘えさせていただきます。すみませんが、よろしくお願いいたします」


 シンリアさんは頭を下げる。ちょ、ちょっと何をしてるんですか。


「シンリア嬢が頭を下げる事はない。俺たちはその分報酬を貰うだけだ。ギブアンドテイク、そんな申し訳がる必要はなしだ。なあ、オリビエ?」


「むしろ早く行きたいから馬車用意してもらいたいくらいで、こっちがその分申し訳ないよっ」


 シンリアさんが驚いたように、目を点にして顔を上げる。

 だってそうでしょ?未知なことで困っている場所がある、 困っている人がいる、そこの依頼を受けて赴く。困っている人たちの未知なことに足を突っ込む。それが僕たち、冒険者の役目なんだから。


「報酬、しっかりあります!」


 よし、いつものシンリアさんだ。では行くとしますか。



「えー、と何々?ブラッディベアは熊系統の魔物でも戦闘を好み、そのためか、体質は他の熊系統の魔物の中でも随一に硬く、冒険者などの攻撃など跳ね除けるように耐久性に優れ、命ある限り戦い続ける、と」


 僕とオリビアはギルド専用のレッドホース馬車で爆速移動中に、シンリアさんにもらったブラッディベアの資料を読んで予習する。

 こう言った資料は先人たちの財産だね。より効率よく、そして吟味する事が僕たち後世の役目だね。発展を怠ってはいけない。じゃなくて、今はブラッディベアについてだった。


「ねえウィル、これってただ単に好戦的な熊ってこと?」


「の割には一生戦い続ける性能を持っているらしい。あと俺はムメイだ。気をつけるように」


 バッと座りながら着ているローブをはためかせる。意味はただの演出だ。

 今、馬車の中は僕とオリビアの2人っきりの貸切。他に来ていないのは、魔物のやや大量発生に人員が割かれている証拠だ。シンリアさんは人員は足りていると言っていたが、本当に魔物の発生の間隔が狭まればすぐに人員不足に陥るんだろう。うむ、結構深刻なのでは?


「もう、2人だからいいじゃんっ」


 可愛い!可愛いオリビアが正義でありルールだ!!オリビアが正しい!!!

 僕のムメイとしてのキャラがあるので、無言で肯定を示そう。

 ブラッディベアの情報にさらに目を通していく。


「その体毛は禍々しく黒に塗りつぶされており、しかし毛質は滑らかでかつ丈夫で、先述したように冒険者の打撃、剣撃、あらゆる攻撃に耐えうる。ブラッディベアの危険性はその獰猛さと耐久力である、か」

 

 決定打がなければ、戦えば戦うほどジリ貧になり被害が増えていきそうだな。


「オリビエの、その()に打ってつけな魔物かもしれんな」


 ふふっと仮面越しにオリビアは笑う。オリビアの”真”としての初の実戦。僕も刮目して見なければ。


 僕たちはブラッディベアの資料に目を通して、未だ見たことのないブラッディベアの予想をして対策を各々出し合って準備を行なっていった。



 馬車の速度がどんどんと、緩くなっていく。目的に着いてきた証拠だ。いよいよか。

 僕はうーんと馬車の中で伸びをする。マニ君の馬車はあんまり疲れなくて、すごい快適だったなあ。まあ用途が違うから仕方のないことだけど、ギルドの馬車は移動の速度と搬送に重きを置いているので、その他の無駄な機能が全て削ぎ落とされている。そのために座るところは椅子なんてないし、なんというか、表すならただの箱なんだよね。その分寝転がったり、立って軽くストレッチもできるけど。僕とオリビアは移動で凝り固まった体を伸びやらポキポキさせたり、自分でほぐしていく。


 馬車が止まるとともに、御者がキャビンの小窓を開ける。


「つきやしたよ」


「オリビエ」


「うん」


 さあ、気合い入れていこうか。

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